第36話 うまくいかない余白
国際協議会から戻って、しばらく。
最初の報告は穏やかだった。
けれど、二度目の報告は少し違った。
他国の一つで、庭方式が停止されたという。
理由は簡潔だった。
『非公式共有の場が、責任回避に利用された』
私は文書を読み終え、
静かに閉じる。
余白は、常に善ではない。
午後、庭に出る。
衣擦れの音が、
近づいてくる。
「止まりましたか」
彼が言う。
私は頷いてから、
少し間を置いた。
「余白が、逃げ道になったそうです」
沈黙が落ちる。
整いすぎることは窮屈だが、
整わなさすぎると、曖昧になる。
夕方、他国の代表から直接の書簡が届く。
『あなたの方式は理想的だが、
我が国には早すぎた』
私は少し考える。
方式ではない。
立ち方だ。
夜、書斎で返書を書く。
『余白は制度ではありません。
文化です』
『急いで導入するものではありません』
短い文。
具体策は示さない。
翌朝、庭に立つ。
足音が重なる。
「あなたは責任を問われません」
彼が言う。
「制度ではないからです」
私は答える。
私は導入を命じていない。
憲章に書いていない。
強制していない。
ただ、外側に立っただけ。
午後、王都からも報せが届く。
国際的な批判が一部で起きていると。
『曖昧さが混乱を招く』
合理派の一部が、そう主張している。
私は文書を閉じる。
揺れは広がる。
夕暮れ、庭の小径に立つ。
「後悔は」
彼が静かに問う。
私は少し考える。
「ありません」
余白が失敗することもある。
合理が行き過ぎることもある。
どちらも、
正しさの一部だ。
夜、記録を書く。
「他国一部停止」
「文化差確認」
短い文。
私は気づく。
余白は輸出できない。
制度は移植できても、
立ち方は移植できない。
世界は広がるが、
すべてが同じ形にはならない。
私は中心に立たない。
成功の象徴にも、
失敗の責任者にもならない。
ただ、
外側に立つ。
その夜、
彼は書斎の灯りが消えるまで庭にいた。
寒い季節でもないのに、
上着を持っていた。




