第20話 並ぶということ
夏が近づいていた。
庭の緑は濃くなり、
風は少しだけ湿り気を帯びている。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
並んで歩く。
港町も、南の町も、
新興地域も、
それぞれの形で続いている。
便りは減った。
相談はほとんどない。
私はもう、
基準ではない。
象徴でもない。
午後、書斎で静かな机に向かう。
外部からの文書は一通だけ。
「問題なし」
それだけ。
私は封を閉じる。
以前なら、
この静けさに意味を探しただろう。
今は探さない。
夕方、庭の小径に立つ。
足音が重なる。
「何も求められていません」
私は言う。
「そうですね」
彼は穏やかだ。
「どう思われますか」
私は少し考える。
「自由です」
役割に縛られない。
責任を背負わない。
名を掲げられない。
ただ、
選んでいる。
「並ぶということは」
私は続ける。
「必要だからではありません」
彼は視線を向ける。
「選び続けているからです」
中心に立つことも、
象徴になることも、
不要になった。
それでも、
私はここにいる。
彼の隣に立つ。
夜、書斎に戻る。
机の上は静かだ。
私は紙に一行だけ書く。
「自立完了」
そして、少しだけ考える。
私は答えを渡さなかった。
名を手放した。
役割を軽くした。
介入を控えた。
世界は自走している。
並びは残った。
窓を開ける。
夜風が入る。
私は気づく。
並ぶということは、
支えることではない。
依存でもない。
選ぶことだ。
今日も選び、
明日も選ぶ。
必要でなくても、
立場が軽くても。
私は並ぶ。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私の選び方だった。




