第19話 軽くなった立場
港町からの便りは、以前よりもさらに短くなった。
「定例会議終了」
「来月は規模を拡張」
私の名は、もちろん記されていない。
南の町も、新興地域も、
それぞれの形で動いている。
私はそれらを読み、
机の端に整える。
重みは感じない。
以前は、
一つひとつに責任の気配があった。
今は違う。
私は関与していない。
午前、書斎で帳簿を閉じる。
外部とのやり取りは、
ほとんどアレクシスが処理している。
私は最終確認すら、
求められないことが増えた。
「軽くなりましたね」
アレクシスが静かに言う。
「何がでしょう」
「あなたの立場が」
私は少しだけ笑う。
「望んだ通りです」
午後、庭に出る。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「軽いですか」
彼が問う。
「はい」
私は素直に答える。
「ですが、少しだけ」
言葉を探す。
「余白が広がりました」
彼は歩調を変えない。
「余白は、嫌いですか」
私は首を横に振る。
「いいえ」
余白は、
選べる空間だ。
役割が減り、
求められなくなり、
名前が外れた。
それでも、
隣は変わらない。
夜、書斎に戻る。
今日も便りは少ない。
私は記録を書く。
「外部安定」
「関与最小」
短い文。
私は思う。
私はもう、
基準ではない。
象徴でもない。
ただ、
過去にそこに立っていただけだ。
今は、
背景ですらないのかもしれない。
けれど、
それで困らない。
並んでいる。
それだけが、
今も確かな位置だ。
窓の外に星が浮かぶ。
軽くなった立場。
重くないことは、
不安ではない。
私は静かに灯りを落とす。
必要でなくても、
選び続ける。
それが、
今の私の立ち方だった。




