第58話 広がる範囲
その知らせは、
大げさな形では届かなかった。
「……別の地域からも、
同じような相談が来ています」
控えめな報告。
期待よりも、
確認に近い声だった。
私は、
書類から目を上げた。
「正式な依頼、
というほどではありませんね」
「はい」
「話を聞いてほしい、
という段階です」
それで、
十分だった。
私は、
すぐに答えを出さなかった。
広がる、ということは、
引き受ける、ということではない。
まずは、
距離を測る。
「現地で、
同じ形を求めていますか」
「いえ。
様子を知りたい、
という程度です」
私は、
小さく頷いた。
「では」
静かに言う。
「こちらから
何かを提示することは
しません」
「必要なら、
話は聞きます」
「ただし、
関わり方は
その都度考えます」
広げる前に、
輪郭を曖昧にする。
午後、
庭に出る。
空は高く、
風は穏やかだった。
私は、
歩きながら思う。
以前の私なら、
期待に応えようとしていた。
今は、
応えない選択も
自然に持てている。
「何か、
増えそうですか」
庭で会った彼が、
そう尋ねた。
「少しだけ」
私は、
簡潔に答える。
「でも、
急ぎません」
彼は、
短く頷いた。
「それで、
十分です」
夕方、
机に向かう。
新しい書類は、
まだ一枚だけ。
白い紙が、
広がりを急がせない。
私は、
それをそのままにしておいた。
夜、
灯りを落とす前。
私は、
静かに思う。
範囲が広がるのは、
立場が上がることではない。
ただ、
届く距離が
少し伸びただけだ。
それを、
自分の大きさだと
勘違いしなければいい。
必要なら、
関わる。
必要でなければ、
引き受けない。
それだけの判断が、
自然にできるようになっている。
それが、
今日の変化だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




