第54話 決めないと困る人たち
その違和感は、
少しずつ積み重なっていた。
急に何かを言われたわけではない。
ただ、
言葉の端に、
落ち着かなさが混じり始めた。
午後、
外の用件を終えたあと、
簡単な立ち話をする。
「……このまま、
特に決めずに
進められるのですか」
質問というより、
不安の確認だった。
私は、
歩みを止めない。
「今のところは」
そう答えるだけだ。
「ですが」
相手は、
少しだけ声を落とす。
「周囲が、
戸惑っているようで」
主語は、
曖昧だった。
誰が、
困っているのか。
なぜ、
困るのか。
私は、
立ち止まり、
相手を見る。
「困っているのは」
静かに言う。
「“決めきれない状態”
そのものではなく」
「それを
どう扱えばいいか
分からない人たち、
ではありませんか」
相手は、
言葉を失った。
「曖昧な状態は」
私は、
続ける。
「必ずしも、
不安定ではありません」
「ただ、
説明がしづらいだけです」
誰かを納得させるための
説明。
その負担を、
私は引き取らない。
会話は、
そこで終わった。
反論も、
同意もない。
ただ、
理解の途中に置かれただけだ。
庭に出る。
風は、
穏やかだった。
私は、
小径を歩きながら思う。
決めないことで
困る人がいる。
けれど、
決めることで
失う人もいる。
夕方、
エドワード様と会った。
「何か、
言われましたか」
彼は、
察していた。
「少し」
私は、
簡潔に答える。
「曖昧さに
耐えられない人が
いるようです」
彼は、
短く息を吐いた。
「説明を
求められましたか」
「いいえ」
私は、
首を横に振る。
「説明は、
していません」
それでいい。
「あなたは」
彼が、
静かに言う。
「他人の不安を
自分の責任に
しなくなりましたね」
それは、
変化の指摘だった。
私は、
小さく頷く。
夜、
部屋に戻る。
私は、
今日のやり取りを
思い返していた。
分かってもらう必要は、
ない。
説明しない選択も、
選択だ。
灯りを落とす前、
私は静かに思う。
曖昧なままで
続くものもある。
それを
不安だと感じるか、
自由だと感じるかは、
人それぞれだ。
私は、
今の形を
選んでいる。
それだけで、
十分だった。
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