第53話 それぞれの立場
その話題は、
私のいないところで
先に動いていた。
午後、
外の用件を終えて戻ると、
控えめに声をかけられた。
「エドワード様のお家から、
使者が来ておられました」
「……私に、ですか」
「いえ。
エドワード様にです」
その一言で、
十分だった。
私は、
それ以上を聞かなかった。
内容を知らなくても、
想像はつく。
立場。
家。
将来。
どれも、
彼が一人で向き合うべきものだ。
夕方、
庭で彼と顔を合わせた。
「お戻りでしたか」
「ええ」
会話は、
いつも通り。
使者の話題は、
彼のほうからは出さない。
私も、
触れない。
しばらく並んで歩き、
沈黙が続く。
それは、
避けている沈黙ではない。
互いに、
踏み込まないと
決めているだけだ。
「……周囲は」
彼が、
静かに切り出した。
「私の立場を
分かりやすく
したがります」
私は、
頷いた。
「曖昧なままでは、
不安になる人も
多いでしょうね」
「ええ」
短い返事。
「ですが」
彼は続ける。
「あなたに
負わせるつもりは
ありません」
それは、
約束というより
前提だった。
私は、
一呼吸おいて答える。
「私も」
「支える立場に
立つつもりは
ありません」
彼が、
少しだけ目を細めた。
驚きではない。
「それは」
彼が言う。
「冷たい選択ですか」
問いではなく、
確認だった。
「いいえ」
私は、
はっきり答える。
「対等でいるための
選択です」
誰かの立場を
補うことで
並びたくはない。
彼は、
静かに頷いた。
「……それでこそ」
それ以上、
言葉はいらなかった。
夜、
部屋に戻る。
支えない。
守らない。
代わりに立つことも、引き受けずにおく。
それは、
突き放すことではない。
それぞれの立場は、
それぞれが引き受ける。
だからこそ、
並べる。
――そこまで考えて、
私は、ふと思い出した。
戻ったとき、
門ですれ違った使者の手に、
紋の入った包みがあった。
彼の家の紋。
中身は、もう、
渡したあとだった。
庭に来る前に、
彼は、あれを読んでいたのだろうか。
読んでいたとしたら。
今日の彼は、
いつもより、
少しだけ、言葉が多かった。




