第43話 もし、選ばなかったとしても
その考えは、
突然浮かんだわけではなかった。
ずっと、
どこかにあったものが、
ようやく輪郭を持っただけだ。
夜、
部屋で一人、灯りの下に座る。
書類を閉じ、
視線を上げると、
窓の外は暗い。
私は、
静かに考えていた。
もし――
この関係を、
選ばなかったら。
選ばない、というのは、
拒絶ではない。
離れることでも、
否定することでもない。
ただ、
別の道を歩く、ということ。
私は、
その道を想像してみる。
王都を離れ、
外の仕事を続ける私。
拠点を移し、
行き来の頻度が減る。
庭を歩く時間も、
少なくなる。
彼と顔を合わせる回数は、
自然に減っていくだろう。
寂しさは、
ある。
それは、
正直に認められる。
けれど――
後悔は、
浮かばなかった。
「……不思議ですね」
独り言は、
誰にも届かない。
失うものを思い描いても、
自分を責める気持ちは
湧いてこない。
私は、
自分に問いかける。
それは、
冷たさなのか。
それとも、
自立なのか。
答えは、
すぐに出た。
これは、
逃げではない。
選ばない未来も、
ちゃんと立っている。
私は、
どの道を選んでも、
自分の足で歩ける。
その確信が、
静かに胸に広がっていく。
翌朝、
庭に出る。
朝の光が、
葉を照らしている。
私は、
歩きながら思った。
選ばない未来を
想像できたということは。
今の関係に、
縋っていない、ということだ。
「おはようございます」
声がして、
振り返る。
エドワード様だった。
「おはようございます」
いつも通りの挨拶。
その自然さに、
胸が静かに落ち着く。
並んで歩く。
私は、
昨夜の考えを
口にしなかった。
彼も、
何も聞かない。
言葉にしなくても、
この時間は成立している。
「……少し、
考えていたのですが」
私は、
ほんの一部だけを
切り取って言った。
「人は、
選ばない道を
持っていてもいいのですね」
彼は、
少しだけ考えてから答えた。
「ええ」
「選ばなかったからといって、
価値が下がるわけでは
ありません」
その言葉に、
私は小さく頷く。
夜、
部屋に戻る。
私は、
改めて思う。
もし、
この関係を選ばなくても。
私は、
自分の人生を
大切にできる。
それが、
はっきり分かった。
灯りを落とす前、
私は静かに結論づける。
選ばない未来を
受け入れられる私は。
もう、
誰かに依存して
立ってはいない。
それは、
終わりの予感ではない。
選択の自由が、
完全に自分の手に
戻ってきた
というだけのことだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




