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婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第3部 余白が形を持つ前に

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第35話 それでも残るもの

夜は、ひどく静かだった。


風はある。


葉も揺れている。


音もある。


それでも、


何かが抜け落ちている。


――分かりません。


自分の言葉が、


まだ残っている。


私は庭に立つ。


中心に。


動かない。


戻らない。


だが、


立っている理由が、


分からない。


「……まだ、そこにいるんですね」


イリアの声。


振り返る。


彼女は、


少し離れた場所にいる。


昨日よりも、


距離がある。


「ええ」


私は答える。


それだけ。


それ以上はない。


彼女は近づかない。


無理に近づかない。


それでいい。


「外側は」


彼女が言う。


少しだけ間を置く。


「崩れました」


私は頷く。


「はい」


否定しない。


できない。


「では」


彼女は続ける。


「何が残りますか」


問い。


核心。


私は、


空席を見る。


何もない。


本当に。


何もない。


「……分かりません」


正直に。


それしかない。


沈黙。


長い。


だが、


逃げない。


昼、


会合が開かれる。


円形。

空席。


だが、


誰もそこを見ない。


見る意味がない。


もう、


基準がない。


議論が始まる。


速い。


そして、


止まる。


一人が言う。


「どちらを優先するか」


別の声。


「基準が必要です」


さらに。


「前回のように」


言葉が止まる。


誰も、


続けられない。


私は、


その場にいる。


中心に。


だが、


何も言えない。


言う根拠がない。


外側は崩れた。


残ったものがない。


沈黙が広がる。


時間が流れる。


だが、


決まらない。


「決めます」


レオンが言う。


即座に。


迷いがない。


彼は内側に立つ。


完全に。


「東側を優先」


「西側は後回し」


速い。


明確。


誰も反論しない。


できない。


基準があるから。


流れが動く。


決まる。


進む。


私は、


それを見る。


何も言わない。


言えない。


会合が終わる。


短い。


効率的。


外に出る。


イリアが言う。


「……楽ですね」


同じ言葉。


だが、


意味が違う。


私は頷く。


「ええ」


それだけ。


彼女は続ける。


「迷いがないと」


一拍。


「速いです」


事実だ。


否定できない。


だが、


私は言う。


「何かがありません」


彼女が止まる。


「何が、ですか」


私は空席を見る。


そして、


言う。


「分かりません」


それしか言えない。


だが、


確かにある。


夕方、


誰も来ない。


珍しい。


庭は静かだ。


本当に。


何も起きない。


私は、


中心に立つ。


動かない。


ただ、


考えている。


だが、


答えは出ない。


何も残っていない。


そう思ったとき。


小さな音。


振り返る。


あの少女だ。


静かに立っている。


「……また来てしまいました」


彼女は言う。


私は頷く。


「どうぞ」


彼女は円の外に立つ。


同じ位置。


変わらない。


「母のこと」


彼女は言う。


少しだけ、


迷う。


「忘れないでくれていると」


一拍。


「思っていました」


私は、


初めて、


少しだけ息を止める。


彼女は続ける。


「でも」


視線が揺れる。


「忙しそうで」


「大変そうで」


「……大丈夫です」


その言葉は、


優しい。


だが、


痛い。


「私は」


彼女は言う。


「覚えていますから」


それだけ。


それだけを言って、


彼女は頭を下げる。


そして、


去る。


足音が小さい。


だが、


確かに残る。


私は、


その場に立ったまま。


動かない。


そして、


初めて、


分かる。


残っていた。


外側は崩れた。


基準もない。


だが、


一つだけ、


残っている。


覚えていること。


それが、


消えていない。


夜、


庭に立つ。


風がある。


葉が揺れる。


音がある。


だが、


今は違う。


私は、


中心から、


一歩下がる。


初めて。


外側へ。


戻るのではない。


選ぶ。


その位置を。


「……戻りましたか」


彼が言う。


私は首を振る。


「いいえ」


はっきりと。


「違います」


一拍。


「残っている場所に立ちました」


彼は何も言わない。


だが、


分かっている。


それでいい。


私は空席を見る。


そこには何もない。


だが、


そこに置くものが、


一つだけある。


忘れないこと。


それだけ。


それだけが、


残った。


そして、


それで、


また選ぶ。


完全ではない。


だが、


それでいい。


夜風が通る。


庭は静かだ。


だが、


もう空ではない。


次は、


この上で選ぶ。


逃げ場はない。


だが、


崩れても、


何かは残る。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに「崩れた先に残るもの」が見え始めました。

ここから物語は再構築へと入っていきます。


ここが一つの大きな節目です。


続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価をいただけると励みになります。

次章もお楽しみに。

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