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婚約は破棄されましたが、私は静かに身を引いただけです  作者: リリア・ノワール
第3部 余白が形を持つ前に

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第28話 間に合わない選択

その静けさは、長く続かなかった。


庭に出た瞬間、


分かる。


これは、


間に合わない。


風が強い。


空が低い。


空気が重い。


「同時発生です」


イリアの声。


早い。


だが、


焦りを抑えている。


「東部港湾、火災」

「北部山間、崩落再発」


二つ。


同時。


私は、何も言わない。


言葉が要らない。


これは、


選ばなければならない。


映像がつながる。


二つ同時に。


分割画面。


左――炎。


右――土砂。


どちらも、


待たない。


「優先順位を」


カミルが言う。


声は安定している。


だが、


速い。


「港湾は拡大速度が速い」

「山間は被害範囲が限定的」


合理。


結論は出ている。


レオンが言う。


「港湾を優先」


即断。


迷いがない。


正しい。


私は、


動かない。


まだ。


イリアが見る。


私を。


問いがある。


――どちらを選ぶのか。


私は、


中心を見る。


空席。


だが、


もう分かる。


ここは、


逃げられない場所だ。


「山間は」


イリアが言う。


少しだけ、


迷う。


「高齢者が多い区域です」


レオンが即座に返す。


「人口密度は低い」


切る。


合理。


正しい。


私は、


目を閉じる。


時間が削られていく。


炎が広がる。


土砂が流れる。


どちらも、


止まらない。


「決めます」


私は言う。


声は、


静かだ。


だが、


逃げていない。


一歩。


中心へ。


完全に。


もう、


境界ではない。


「港湾を優先」


言う。


はっきりと。


沈黙。


誰も反論しない。


できない。


正しいからだ。


だが、


それだけではない。


「山間は」


一拍。


「最低限の通信だけ維持してください」


補足。


だが、


足りない。


分かっている。


それでも、


言う。


命令が動く。


人が動く。


港湾の火が抑えられる。


映像が変わる。


煙が薄くなる。


成功。


だが、


同時に。


右側の映像が、


揺れる。


「……遅れました」


誰かの声。


短い。


だが、


終わりの音。


映像が途切れる。


静寂。


完全な。


誰も動かない。


誰も言わない。


私は、


その場に立っている。


中心に。


逃げられない場所に。


夕方、


報告が届く。


「港湾、被害抑制成功」

「山間、被害拡大」


数字が並ぶ。


整っている。


正しい。


だが、


一行が重い。


「生存確認、未了」


未了。


終わっていない。


だが、


戻らない。


私は紙を閉じる。


音が、


少しだけ響く。


イリアが言う。


「……選びました」


声が低い。


揺れている。


私は頷く。


「はい」


否定しない。


できない。


「それで」


彼女は続ける。


「間に合わなかったものがあります」


私は答えない。


答えられない。


それは、


事実だ。


レオンが言う。


「正しい判断です」


即答。


迷いがない。


「全体は守られた」


それも事実だ。


私は彼を見る。


「はい」


肯定する。


否定しない。


だが、


それだけではない。


夜、庭に立つ。


風が強い。


葉が揺れる。


音が大きい。


私は、


中心に立っている。


動かない。


戻らない。


「……どうでしたか」


彼が言う。


いつもの声。


だが、


今日は少しだけ近い。


私は、


少しだけ考える。


長くはない。


だが、


軽くもない。


「……間に合いませんでした」


それだけ言う。


彼は何も言わない。


ただ、


隣に立つ。


それでいい。


それしかない。


私は続ける。


「分かっていて、選びました」


言葉が、


重い。


だが、


止めない。


「それでも」


一拍。


「間に合わなかった」


風が強くなる。


音が消えない。


「それが」


彼が静かに言う。


私は顔を上げる。


「選ぶということです」


私は、


目を閉じる。


理解している。


だが、


受け入れるのは、


別だ。


私は、


初めて、


完全に負けた。


どちらも救えない。


どちらかを捨てる。


それを、


選んだ。


夜が深くなる。


庭は揺れている。


だが、


私は動かない。


中心に立ったまま。


次に、


また同じ状況が来たら。


私は、


同じ選択をするのか。


それとも、


違う選択をするのか。


分からない。


分からないまま、


次が来る。


逃げ場はない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに「選んだ結果の痛み」が真正面から出てきました。

ここから主人公は大きく揺れます。


この先はかなり重い展開になります。


続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価をいただけると嬉しいです。

次話もお楽しみに。

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