第24話 余裕のない場所
その連絡は、朝ではなく、途中で届いた。
議論の最中だった。
「西部山間部、土砂崩落」
「通信断続」
「救助要請」
言葉が短い。
だが、
時間がないことだけは、
はっきりしている。
円形の席。
中心は空席。
議論は止まる。
誰もが情報を待つ。
私は、その場にいる。
外側に立つ。
だが、
今日は違う。
余裕がない。
それは、
空気で分かる。
「状況を整理します」
カミルが言う。
彼の声はいつも通りだ。
安定している。
だが、
速い。
「現地判断は不可能です」
「指示が必要です」
誰も反論しない。
できない。
イリアが私を見る。
言葉はない。
だが、
分かる。
――選ぶか。
問いが、そこにある。
私は、
動かない。
まだ。
映像がつながる。
不安定な映像。
揺れている。
音が途切れる。
「……人が……」
「道が……」
「早く……」
断片的な声。
時間が削られていく。
「優先順位を決めます」
レオンの声が割って入る。
彼はすでに内側にいる。
迷いがない。
「第一救助対象は下流域」
「上流は後回し」
即断。
理由もある。
だが、
速い。
イリアが動く。
一歩、内側へ。
「待ってください」
彼女は言う。
声は強い。
だが、
わずかに揺れる。
「上流の状況が不明です」
レオンは即答する。
「だから後回しです」
合理。
正しい。
時間はない。
私は、
その間に立つ。
外側と内側の間。
境界。
「……三十秒ください」
私は言う。
短い。
だが、
場が止まる。
レオンが見る。
イリアも。
カミルも。
「三十秒で何が変わりますか」
レオンが言う。
「何も変わらないかもしれません」
私は答える。
「ですが」
一拍。
「何かが見えるかもしれません」
沈黙。
数秒。
そして、
彼は言う。
「二十秒です」
短く。
だが、
許容した。
私は頷く。
映像を見る。
音を聞く。
断片。
位置。
流れ。
「……上流に人が残っています」
私は言う。
確信ではない。
だが、
見えた。
イリアがすぐに続ける。
「流速から見て、上流は時間がありません」
レオンが一瞬だけ止まる。
ほんの一瞬。
だが、
確かに。
「……優先順位を修正」
彼は言う。
「上流を第一に」
決まる。
動く。
命令が伝わる。
人が動く。
映像が切れる。
静寂が戻る。
だが、
先ほどとは違う。
空気が重い。
「……遅れました」
カミルが言う。
私は答えない。
正しい。
だが、
それだけではない。
夕方、報告が届く。
「上流、救助成功」
「下流、一部被害拡大」
数字が並ぶ。
結果だ。
だが、
完全ではない。
私はそれを見る。
そして、
理解する。
両方は守れない。
どちらかを選ぶ。
そして、
何かが残る。
夜、庭に立つ。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「選びましたね」
彼が言う。
「ええ」
私は答える。
「そして」
少しだけ言葉を止める。
「残りました」
何かが。
必ず。
イリアが静かに言う。
「二十秒で、変わりました」
私は頷く。
「はい」
だが、
それでも。
レオンが言う。
「次は、ありません」
その声は低い。
「次は、二十秒もない」
沈黙。
風が止まる。
庭が、
完全に静かになる。
私は空席を見る。
そこには何もない。
だが、
次に立つ場所は、
もう決まっていない。
余裕がないとき、
選び続けることはできるのか。
それとも、
一つに決めるのか。
次は、
試される。
逃げ場はない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「余裕がないとき」の選択に入りました。
ここからさらに、正しさがぶつかります。
続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価をいただけると嬉しいです。
次話もお楽しみに。




