笑顔
ようやく、ダイヤがクロム様と共に返ってきた。
クロム様は痩せており、体調が悪そうだった。
クロム様を抱えていた、ダイヤの後ろには、小さな子供が二人。
金髪で、不思議な青い角が頭に付いていた。
ダイヤは、クロム様をオルターさんに預けると、二人の子どもを連れて地下に降りていった。
何をしているのか気になったが、雰囲気的に、聞き出せなかった。
ダイヤとちゃんと話せたのは、次の日だった。
あのあとから、子どもとダイヤはずっと地下にいたらしい。
何をしていたのだろうか。
二人の子どもは双子で、名前はソレイユとリュンヌというらしい。
遠い国で戦争があり、鬼の住んでいた地域は全焼。
取り残された二人を、東の国で保護するということが、決まったらしい。
鬼はどの国でも、あまり好かれていないようで、今後どのように扱うかもこの国が決めれるということになったそうだ。
双子はよく、ダイヤの診察を受けている。
異国から来たこともあって、感染症などの病気を警戒しているのだろうか。
それに、不思議なことに、双子は両方とも目を隠している。
あの状態で、前は見えているのだろうか。
午後三時。 紅茶の準備をしなければ。
キッチンで湯を沸かし、カップを準備する。
第一日曜日は、朝顔の紫のカップにミルクティー。
シュガーポットに砂糖を足し、ワゴンに乗せてダイヤの部屋に向かう。
ダイヤの部屋の前に着いた時、中から声がした。
ダイヤとテオの声だ。
そのまま中に入ろうとした時、はっきり話し声が聞こえた。
「なぁ、もうニーニャには隠されへん。 あいつになら、言うても大丈夫ちゃうか。」
「俺は、ニーニャを巻き込みたくない。 勝手に俺が連れてきてしまった子だ。 自由に、何も知らないまま育ってほしい。」
「あんたのこと、ニーニャからよう聞かれる。」
「俺もだ。 でも…。」
「何の話ししてるの。」
いつの間にか、僕は扉を開けて、部屋の中に入ってしまっていてようだ。
「ニーニャ…。」
「僕に何を隠しているの。」
「…。」
「どうして教えてくれないの? 僕はもう十七歳だ。」
「ニーニャ、それは…。」
ダイヤは、口を閉じてしまった。
いつも、ダイヤやテオのことを教えてもらえない。
自分では、どうにもできない気持ちが、ダイヤたちには伝わらない。
「もう、いいよ。 僕のことが信用できないんだよね。」
「っ、それは違う。 だって…」
「自分が信用してる人じゃないと、自分のこと話したくない。 僕もそうだから。」
僕はそう言い残すと、ダイヤの部屋を飛び出してしまった。
廊下を駆け抜けて、隣の棟まで走る。
今までで一番早く走った。
僕が向かった先は、先生の秘密の中庭。
僕は庭の中に入り、扉を閉じた。
この庭は、扉を締めてしまえば、外からもダイヤの魔力探知でも見えない。
中庭の花が植わっている隅にうずくまった。
ダイヤが養子として迎えてくれたが、所詮よそ者。
テオのように色々と知っているわけでも、ダイヤのことを知っているわけでもない。
そして、二人の話を聞く前に庭に逃げてしまった。
いつの間にか、涙が頬を伝う。
何処かにおいてきたはずなのに。
ふと、庭の中に鐘を見つけた。
先生が、困っているときに鳴らせと言っていた鐘だ。
なんとなく、鐘を鳴らしてみた。
もう、この城に先生はいないし、外から見えないこの庭に、誰も入ることはできない。
噴水の水盤に座り、水に映る自分の顔を見つめる。
少しすると、水に僕以外の顔が映った。
パッと上を見上げると、そこにいたのは先生だった。
「先生…。」
「どうしたんですか? 元気が無いようですね。」
「どうして、…。」
「私は言いましたよ。鐘が鳴れば、ここに来ます。」
収まった涙が、また溢れてきてしまう。
先生は、ハンカチで僕の涙を拭いてくれた。
僕の隣に、先生は座ってくれた。
久しぶりに会った先生に、今までのことをたくさん話した。
ダイヤとテオの仲が、少し良くなったこと。 秘龍の国のこと。 クロム様とアリス様が王になったこと。
新しく来た、双子の鬼のこと。 そして、今日起こってしまったこと。
今まで、思っていたことを全部話した。
何も教えてもらえず、寂しかったこと。
ベルリアルと合った時、とても怖かったこと。
未来が見えることを、どう伝えればいいか、わからないこと。
先生は、親身に話を聞いてくれた。
「そうですか。 よく頑張りましたね。」
先生は、僕の頭をポンと撫でてくれた。
包むような優しい手。
「ニーニャは、ダイヤさんのことが知りたいんですよね。」
「うん。」
「では、ダイヤさんはあなたの昔のことを知っていますか?」
「え、」
「この城に来る前のこと、ダイヤさんに話してないですよね。
まずは、話してみてはどうですか? 今の私にしてくれたように。
もちろん、すべて話す必要はありません。 あなたが、伝えたい、聞いてほしいことだけを伝えてみましょう。」
「僕が伝えたいこと…。」
「私も一緒に行きましょうか?」
「お願いします。」
僕は、先生と共に中庭を出た。
中庭を出た瞬間、眼の前に扉が現れ、中からダイヤが出てきた。




