未来予知
ダイヤは右手を僕とつなぎ、左手でテオを抱いて玄関から外に出ようとする。
三人で出かけるのは初めてだ。
玄関でオルターさんが待っていた。
「ダイヤさん、もう少し待っていただけませんか。」
「一年待った。アルは何も話さない。」
「お願いします。もう一度だけチャンスを。」
「俺を引き止めるのに、お前を使っている時点で、アルは俺と話す気がない。」
「これは、頼まれてやっているのではありません。私の意思です。」
オルターさんは、必死にダイヤを留めようとしている。
少し外に出ようとしているわけではないのだろうか。
その時、一階の暖炉がある部屋から、慌てた様子でアルクス様が出てきた。
「ダイヤ!…あの、」
「アルクスさん、そんなやつほっときましょうよ。」
同じ部屋からララが出てきた。
アルクス様の話を遮って、ララは彼にくっつく。
「ララ様、アルクス様はダイヤさんとお話が…。」
「うるさいわよあなた、どこかに行ってちょうだい。」
「…。お前、俺とこの城の関係、知らないだろ。」
「知らないわよ。」
「そうか、じゃあな…アルクス。」
「ダイヤ、待って!」
ダイヤは、アルクス様の声に耳を傾けず、そのまま城の外に出る。
ダイヤが城の外に一歩足を出すと、二階と三階の扉が全て開いた。
扉の開く音で、後ろを振り返ると、開いた扉の向こうにあるはずの部屋がない。
部屋がないというよりは、家具などのものがない、まっさらな部屋があった。
「どういうことよ、ちょっと待ちなさいよ!」
ダイヤは、ララの言葉を無視し、魔法で白い扉を出す。
その扉の先は、東の国の城下町。
ダイヤは、一度も振り返らずに、扉をくぐった。
僕の手を引くダイヤの手には、いつもより力がこもっていた。
東の国の城下町はいつものように、人がたくさんだ。
他の三つの国より、国土は小さいが人口は二番目に多いらしい。
そんなとき、テオの腹がなった。
「腹減ったよな、いいとこ知ってるぜ。」
ダイヤに連れられて、たどり着いたのは、緑の屋根のテラス付きのカフェ。
「いらっしゃいませ。いつもの席でよろしいですか。」
「あぁ、頼む。」
僕達が通されたのは、二階にあるバルコニーの席。
表の道とは反対の、お城と森が見える席だ。
「ご注文はお決まりですか。」
「ホットティーを頼む。お前ら、好きなの食べろよ。」
「じゃあ、僕パンケーキとココア。」
「俺も、同じの。」
「はい、少々お待ち下さい。」
注文をとった店員は階段を降りていった。
「ここ、きれい。」
「アルとよく来てたんだ。最近はお互い忙しくて、来てなかったけど。」
「もう、あのお城には帰らないんですか。」
「アルの考えがまとまれば、話しに行くよ。ずっと帰らないわけじゃない。」
「クロム様が心配です。」
「大丈夫だ。リリィに色々頼んである。アイツらにいじめられることもないさ。
それに、俺が帰らないだけで、お前ら二人はいつでもクロムに会いに行けるからな。
どうするかは、お前ら次第だ。」
「…、少し考えてみるよ。
それと、ダイヤとあのお城の関係って何なの?あと、契約って…。」
「お待たせしました。パンケーキ二つ、ココア二つ、ホットティー一つです。
ごゆっくりどうぞ。」
僕の前にタワーのようなパンケーキが置かれる。
この光景、前にも見たことがある。
「デカ…。」
「ここのパンケーキは、デカいで有名だったな。」
「すごい…。」
僕は大きなパンケーキにナイフを通す。
ふわふわで、しっとりした生地に甘いシロップ。
これは美味しい。
とても大きいが、食べきれないことはなさそうだ。
テオも、小さな口で少しずつ食べ進めていた。
「城のことだったよな。
前に、ニーニャに言った通り、あの城は俺が動かしている。
正確に言えば、あの城の空間を俺が維持し、移動させながら、あの場所に留めている。」
「難しい。」
「うーん。あの城を中庭、城の部屋を小さなボールだとしよう。
ボールって、ずっと同じ場所に止めておくのって難しいだろ?
地面が平らじゃなかったり、風が吹いたりしたら動いてしまう。
そのボールたちを、中庭という限られた広さの場所に、なくならないように、動かないように調節しているって感じかな。」
「じゃあ、”移動させながら”っていうのは?」
「最近、西の国で起こっているようなんだが、ここらの地域では定期的に戦争が発生してしまうんだ。
そうなった場合、俺は国王であるアルクスを守るために、扉を利用して部屋を動かす。
もちろん、戦争以外の時も害からアルを守る。」
「同じ扉を開けても、同じ場所に繋がらんことがあるんは、そういう事やったんや。」
「そんなこと、あったかな?」
「ニーニャは指輪をしているからな。その指輪をつけていれば、俺の魔法の干渉を受けない。」
「なるほど。」
「テオのは、まだできていないんだ。指輪に付いている魔法石が完成してなくてね。」
「この魔法石が、ダイヤの魔法の干渉を絶っているのか。」
「ダイヤが、どこで誰が何をしているか分かるって言っていたのは、中庭に敷き詰められたボールたちを、上から監視しているからだったんだね。」
「まぁ、そういうことだな。」
「そういう大きな空間魔法には、どこか穴がありそうやけど…。」
「なるほどな。テオは俺のこと、その程度の魔法使いだと思っているわけだ。」
「い、いや。そういうつもりで言ったわけや…。」
テオは少し焦った様子だ。
ふと見ると、テオの皿にあった大きなパンケーキは、いつの間にか姿を消していた。
「じゅ、純血の魔法使い…、しかもダイヤさんがやってるんなら、大丈夫やと思うけど。
…その魔法って、例えば誰かが扉開けっぱやったら、部屋の移動はできへんやん?
全部開けっぱになったら、その魔法意味ないんやないかなって。」
「いいとこに気づいたな。でも、これが俺の家計魔法だとしたら?」
「そっか…、家計魔法なら。」
「家計魔法?」
「王家や有力な貴族など持っていて、魔力が強い家計の特別な魔法のことやで。」
「テオよく知ってるね。」
「この城来る前に、ちょっと勉強した。…俺の話より、ダイヤさんとアルクス様の契約の話やろ。」
「そうだ、契約って何したの?」
「んー、詳しいことは言えないが、俺は何があってもアルを守らないといけない。」
「何があっても…。」
「そういえば、テオ。お前は俺のことが怖いか?」
「や、そんなことないけど…。」
「初日に怖がらせてしまったなら、すまない。俺の気持ちの整理がついてなかっただけなんだ。
俺のことも気軽に”ダイヤ”でいいぞ。今は、一応親子関係だからな。」
「…俺も、変な態度取ってしもうてたし、関わりにくかったと思う。ごめん。」
「じゃあ、今までできなかった分、今日はいっぱい遊ぶぞ。」
僕のパンケーキも無くなったタイミングで、このあとどこに行くかの計画会議が始まった。




