Chapter2-1
第2章開幕です。ひとまずの導入はシナリオに準じていきますが、chapter2-5からオリジナル展開になっていきます。
"パチッ"
まるでそんな音が聞こえる勢いで遼太郎が目を覚ます。
ここは及川隊の長屋。遼太郎は隊長として、長屋の中でもいちばん大きな二十畳ほど一室を宛がわれた。本人としては一人なのだから小さい部屋で良いと言ったのだが、
「お頭がそれじゃあ、示しがつきません!」
ひよ子に即断られてしまったのだ。
「電気もガスもないけど意外とどうにかなるもんだなぁ」
遼太郎が長屋に移動してきて一週間、この世界に現れてから既に一ヶ月が過ぎている。
人は何だかんだ、その場その状況にに適応出来るようになっているものだと実際に遼太郎は体験して思い知ることとなった。
そんなこんなで、遼太郎は寝起きの顔を洗うために庭先の井戸に向かう。
「お頭、おはようございます!」
「今朝もいい天気ですね!お頭」
先に井戸にいたひよ子と転子から、元気な声がかかる。
「おー、おはようさん」
遼太郎も二人に挨拶を返す。転子に水を汲み上げて貰い、遼太郎も顔を洗う。
「くぅー!冷てぇー!暑くなってきたけど井戸水は冷たいなぁ」
遼太郎がキンキンに冷えている井戸水で顔を洗いながら言う。
「ふふ、お頭なんだかオジサンみたいなこと言いますね」
「おいおい、やめてくれよー。まだまだピチピチの青年だってば」
そんな遼太郎に、ひよ子と転子の二人は顔を見合わせながら笑う。朝から元気の良いものだと思う遼太郎である。
「けど、二人揃ってなんてめずらしいな。何かあるの?」
長屋に移動してきてから一週間で遼太郎はどちらかには朝から井戸で会うことは多かったが、二人揃ってと言うのは今回が初であるのだ。
「ええっとですねー、私ところちゃんが初めて武士としてのお給金を昨日もらったので」
「はい、それでひよと今日は外で朝食を食べようってなったんです。良かったらお頭も一緒にどうですか?」
「おっ、それはいいね!俺も是非ご一緒させてもらうよ」
二人のお誘いに遼太郎は断る理由もないので乗ることにした。
「やったー!」
「それじゃお頭、参りましょう」
ひよ子と転子は嬉しそうに答え三人は長屋を後にするのであった。
「それで、外で朝食ってどこにするの?」
遼太郎が二人の後を歩きながら尋ねる。出店の屋台等で買い食いはするようになった。遼太郎であるが、本格的な外食と言うのは今回が初であるのだ。
「それはやっぱり一発屋に決まってますよー」
「そうだね、ひよ」
どうやら二人は既に行きつけの食事処があるようだ。遼太郎も未知なる体験にワクワクし始めているところであった。
通りを歩く遼太郎達の横を馬が駆けていく。それもかなりの速さである。恐らく早馬として火急の知らせを持ってきたのであろう。
「あれは…早馬みたいだよね」
遼太郎もそう思い二人にも尋ねる。
「ええ、どうやらそのようです」
遼太郎の問いに転子が答える。
「よし、それじゃ先に登城して知らせを確かめよう。朝飯はそのあとだな」
早馬を使うと言うことは何かあったのだろうと考えた遼太郎が行き先を変更する。
「へぇぇ~……朝ご飯がぁ~」
そんな決定にガックリと肩を落とすのはひよ子。
「ちょっとひよ、早く行くよ!」
そんなひよ子を転子が引っ張りながら三人は城へと向かうのであった。
城門前にて、三人はすでに顔馴染みの二人に声をかけられる。
「おっ?及川隊の三人じゃん。お前らも登城か?」
「遼太郎君にお二人さん、おはよーだよー」
三若の内の和奏と雛である。
「ああ、早馬が城に向かうのを見てね。朝飯前に登城した方が良いと思ったんだ」
遼太郎がそんな二人に答える。
「何だ、お前らも気がついたのかぁ」
「まぁー、こんな時期だしー、多分美濃関連だねー。とりあえずー、登城して詳しく聞こーよー」
雛の言葉にその場にいた全員は城門をくぐり抜ける。すると、和奏が思い付いたようにあることを口にした。
「それにしても、この時期に早馬ってことはやっぱり美濃絡みかな」
「えっ?それじゃ墨俣で何かあったってことか?」
昨日墨俣の攻防を終え、何とか築城を終わらせた遼太郎にとっては他人事ではない。
「可能性としてはありそうだねー。けどそれだけって決めつけるのも早い気がするよー?」
驚く遼太郎に対して、雛がいつも通りおっとりとした口調で言ってくる。
「そっか、そうだよな。まぁどちらにせよ悪い知らせじゃなきゃいいんだけど…」
ひとまず落ち着きを取り戻した遼太郎は、その真偽を確かめに評定に急ぐのであった。
「おう、及川隊にバカ二人か。早いな」
和奏たちを連れたって評定の間に入ると、そんな一同を壬月が出迎える。その隣には麦穂もすでに控えていた。
「お二人ともお早いですねぇー」
「ちょっ!壬月様!バカじゃなくて若、ボクら織田の三若だから」
雛、和奏の順で家老二人に挨拶代わりの言葉を返す。
「それで、何かあったんですか?」
遼太郎がそんなやり取りをする二人の後ろから麦穂に尋ねる。
「どうやら美濃方面で動きがあったようです。殿が今使番から報告を受けていますよ」
麦穂が遼太郎の質問に答えてくれる。
「美濃…か、それって墨俣からですか?」
遼太郎が先日の作戦を思い出して、気になってしまう。
「いえ、聞くところ墨俣ではなく稲葉山のようです」
「そう…ですか…」
少しずつ安心をする遼太郎。自分たちが築城したからか、少し情が入ってしまっているようだ。いくら重要語拠点でもそこが攻められるのは心苦しくなる。
"カンッカンッ"
そんな立ち話をしていると、使番からの報告が終わったようで、評定の合図が鳴り久遠が上座からやってくる。その場に各々も下段の定位置に腰をおろす。遼太郎もすでに定位置となった上段の久遠の隣に座る。
「朝早くから苦労」
久遠の挨拶から評定が始まる。
「今、先ほど美濃の稲葉山城より早馬が届いた。その内容なんだが……」
「どうしたでしょうか?」
歯切れの悪い久遠に対し、上段に一番近い位置に座る壬月が尋ねる。
「それが……、よくわからんのだ」
「?」
久遠の言葉にその場にいた誰もが疑問に思う。
「すまない。正確に言うとそんな事が可能なのかと疑ってしまうようなしらせだったのだ」
久遠が自身の言葉に説明を加える。
「どういうことですー?」
雛が疑問を口にする。
「そうだな、それを今から説明する」
そう言った久遠の言葉に、その場の全員が姿勢を正す。
「先ほど稲葉山城に放った草の報告を受けた。その内容なのだが…、どうやら稲葉山城が何者かに占拠されているらしい」
「「「なっ!?」」」
予想もしなかった言葉に、壬月をはじめとした織田家武将が驚きを表す。
「ちょっちょっ、稲葉山城って天下の堅城って言われるほどの強固なお城ですよね!?それが占拠されるなんて……」
和奏がパニックを起こしたように驚く。恐らくそれほどに攻めにくい城なのであろう。
「まぁ堅城なんて呼ばれるお城はまだ他にもあるけどねー」
雛が和奏の言葉に補足する。
「その稲葉山城がいつの間にか落とされるなんて、よほどの手勢で攻めいられたのでしょうか」
麦穂が一般的な解釈で事態を推測する。
すると久遠が口を開く。
「それが……十六人ほどだそうだ」
「じゅ、十六人!?」
これには間近にいた遼太郎も驚いてしまう。
それもそのはず、前回の墨俣防衛、あれも言い方を変えれば敵方の一種の城落としの防衛とも言えるのだ。基本的に城に立て籠っての防衛は、まもり側の方が有利とされる。つまり、城落としなどの攻め入りは防衛側の手勢の数倍はないと厳しいのだ。
「まぁその手勢でどうやってやったか、と言うより誰がやったのかと言うのが気になりますね」
若手がびっくりするなか、壬月が冷静に分析して発言をする。
「そういうことだ、首謀者の情報が一切無くてな。調べて来てくれぬか?遼太郎」
久遠が隣の遼太郎に向きなおり、依頼してくる。
「いいよ、こう言う裏方は少数の及川隊の本領ってやつかな」
遼太郎が久遠に返す。遼太郎としても功をあげられる仕事が与えられるのは願ってもないことなのだ。
なにせ、部隊の運営と言うのはとにかくお金がかかるのだ。及川隊は現状遼太郎の知行と言う、ある一画の土地を与えられそこからの税収が及川隊の運営資金となっているのだ。
これがやはり、武功を立てて土地を広げて貰わなければ、ひよ子と転子のお手伝いを十人ほど雇っただけの現状で、かなりキツキツ状態なのである。
しかし、武功を立てるとしても戦で活躍、つまり敵将の首を討ち取ると言うのは、遼太郎ならともかくひよ子と転子にはやや厳しい。となると及川隊は正面からの武力衝突は苦手な部類となるのだ。
そう言うわけで今回のような裏方は仕事は、もってこいなのである。
「それじゃあ、これから美濃に潜入して稲葉山の真偽を確かめてくる。そんでもって首謀者も調べる。まぁその他にも色々と調査してくるよ。片道一日もかからないから、十日ほどで戻るよ」
「あ、あの……り…遼太郎…。その…な…。き、気を付けてな」
遼太郎の言葉に、久遠がなにやら口ごもるように言う。
「ありがとう。大丈夫、ちゃんと無事にもどるさ」
「うむ!待っているからな。…………あ、違うぞ!その、し、報せを待っている。ということだからな!」
久遠が顔を赤らめながら、言葉を言い直す。しかし……
(さすがにそれは苦しいのぉ……)
(いいじゃありませんか。若々しくて)
大人な家老二人にはお見通しな状態なのであった。
こうして、遼太郎、ひよ子、転子は及川隊としての美濃潜入任務に望むのであった。
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