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Chapter1-21

再び化け物が立ち上がり、遼太郎に迫り来る。先の手榴弾により左腕から上半身に損傷が見られるが、これも恐らく近い内に再生してしまうだろう。


体力の差であろうか、遼太郎と化け物の感覚が徐々に縮まっていく。距離が稼げなくなれば、比例してその分、足への射撃回数は少なくなっていく。


「はー、はー、くそっ!このままじゃ……」


息を切らせながらも懸命に走る遼太郎。しかしそんな努力も嘲笑うかのように、化け物はみるみると遼太郎に迫る。



そうして、何の手立ても用意できず終着を迎えてしまう。

ついに、化け物が遼太郎を攻撃範囲に捉えてしまったのだ。遼太郎の体躯の倍はあろう振り上げられた腕が、再び遼太郎を襲う。

そして、体力的疲弊からなのか遼太郎は致命的なミスを犯してしまう。


そう、それは表示コマンドのミスである。


      "前方へ飛び退ける"


突発的に表示されたコマンド。しかし遼太郎は、化け物を自身の背後にして逃走している最中であり、判断が一歩遅れてしまう。焦った遼太郎がここでミスしてしまうのだ。



某ゲームでのコマンド入力の場合、難易度が上昇するほどタイミングはシビアになり、コマンドミス(タッチミス)は許容されにくくなる。最上位難度の場合は、ミス入力その物が失敗を意味するようになるのだが…



遼太郎の背中を狙うように化け物の腕が振り下ろされる。後方からの迫り来る攻撃を、コマンドにより遼太郎の体がワンテンポ遅れて回避行動に出る。しかし、やはり遅れた分だけ回避が甘くなる。


"ブォォン!!!"

"バキッッ"


化け物の腕に遼太郎は僅かに接触してしまう。さすが巨大な体躯から生じるパワーであろうか、それだけで遼太郎は吹き飛ばされ地面を転がる。


「ガハッ!!」


吹き飛ばされた遼太郎は、築城途中の城の土台に打ち付けられる。化け物は、獲物を捉えきれなかったことを悟ったのか、遼太郎へ再び歩を進め始める。それを見た遼太郎は立ち上がろうとするも……


(力が入らない…!しかも視界がぼやけて……)


自身の思考と行動が伴わないのだ。つまり、身体が言うことを聞いてくれない状態である。



遼太郎はこの時、いわゆる瀕死状態に陥っていた。某ゲームの場合こうなってしまえば、行動は一部を除いてほぼ制限される。しかも、時間をかけて自己復帰するか、仲間の助けがなければこの状態が続くのだ。


 


「(だ、誰か…………)」

 

 


果たしてその言葉は音として発せられただろうか?その間にも化け物は、ゆっくりと距離を縮めてくる。その距離を考えれば自己復帰は時間的に無理なのは明瞭である。



(や…めろ…、来る…な…)



遼太郎はもうダメかとも思ったその時……









「お頭!!しっかりしてください!」


「そうです!遼太郎様!お気を確かに!」




血生臭い戦場には似合わない、二人の少女の声が遼太郎に届く。



(ひよ…、ころ…)




必死になって走り寄ってきてくれ、呼び掛け、体を支えてくれる二人に気が付き、遼太郎は我に帰ることができた。



「お頭大丈夫ですか?どこか怪我は!?」



ひよ子が目に涙を浮かべながら遼太郎に聞いてくる。


2人の助けにより、遼太郎は瀕死状態から脱出することが出来た。



「いや、幸い動かせないような怪我はない…みたい…」



遼太郎が自身の体の調子を確かめながら答える。


(マジか、骨の数本は覚悟したレベルだったのに…)


自身の身体の丈夫さに思わず、感心してしまう。これが偶然なのか、それともゲーム似たこの世界の何か恩恵なのか、気になることではあるが遼太郎はそれを頭の隅においやる。



「遼太郎様!とにかく距離とりましょう!あれが迫ってきますので!」

 

「そうだな、2人とも走るぞ!」


転子の言葉に遼太郎は頷き、3人で再び逃走を開始した。



「でも、ころちゃーん!逃げるっていってもまたすぐに追い付かれちゃうじゃんよー!」


「そんなこと言ったって、今は走る以外ないじゃん!じゃあひよは何か逆転の案があるの?」




武士とはいえ、遼太郎の目の前の二人はまだ少女という年齢だ。体力のある遼太郎と比べ、すぐに限界が来てしまうのは考えるに難しくない。



遼太郎は走りながら思考に頭を使う。どうにか倒し切らないとこのままではジリ貧であるのだ。


化け物も再び遼太郎達を追うために走り出す。



そんなときであった。


「っ!?ひよ、ころ、ちょっと聞いてくれるか?」


なにかを閃いた遼太郎が、二人にある提案をする。


耳を傾ける転子とひよ子は、少し考えてた後に、


「いけます!やりましょう!」


「それしかないかもですが、で、でも!お頭、本当にお気を付けてくださいね!」


遼太郎に言葉を返す。



「よし、じゃあやろう!ここからが反撃だ!」



遼太郎の合図に二人は頷き、三人が別行動を開始するのであった…






ーーーーーーーーーーーーーーーー






"パァンッ!"


ハンドガンから弾丸が放たれ、乾いた銃撃音が戦場に響く。


「おらっ!もっとこいよ!」


遼太郎が化け物を挑発する。化け物は唸り声をあげるものの、その速度は明らかに低下している。


実のところ、遼太郎は追い付かれる前に、再び足にダメージを蓄積させることに成功したのだ。同時に遼太郎は自分にターゲットが集中するよう挑発をしている。


そんな遼太郎が、まわりを確認すれば転子とひよ子と視線がぶつかる。そして二人が、その視線に頷きで返した。


先程別れる際に取り決た合図である。


そんな合図を見た遼太郎は、残り二つとなった手榴弾の一つを、化け物の巨大な体躯目掛けて投げる。その手榴弾が体に当たり落下していき、地面につく寸前で爆発を起こす。



再び足元への強烈な攻撃に、化け物が堪らずに膝をつく。




「今だ!皆かかれーーー!!!」



「「「「「うぉぉぉぉぉぉーー!!!」」」」」


遼太郎の言葉に、堀の内にいた味方兵達の数十人が、ひよころを先頭に左右から一斉に槍を手にして突進を始める。


「ヴ、ヴヴァーー!!!」


化け物は左右から突撃してきた兵に槍で突かれた化け物が堪らずに呻き声のようなものを発する。


(ここでケリをつけてやる!)


遼太郎も出し惜しみなしに猛攻に出る。最後の手榴弾を手にして化け物へ突っ込む。


「もういいぞ!みんな引いてくれ!」


遼太郎の掛け声に、兵達は事前にそれを知っていたかのように一気に化け物体に距離をとる。そして、その兵たちと入れ替わりに、遼太郎が化け物の凹凸のある体表を利用して三段飛びの要領で瞬間的に顔面に迫る。



(これでとどめだ!頼むぞ!)



安全ピンをぬいて最後の手榴弾を半開きになった化け物の口に放り込む。そして遼太郎は、すぐさま回避行動に出る。



遼太郎が飛び退いて、地面に伏せたのとほぼ同時であった。


化け物の体内で、手榴弾が炸裂する。



轟音と振動と共に、化け物のいた場所から大量の瘴気が溢れ出す。誰もがその後の経過をじっと見つめる。


何秒、いや何十秒だったのだろうか。ようやく黒い瘴気が晴れる。



そこには上半身が砕けバラバラになり、下半身の残害となった化け物の成り果てがあった。



「や、やったのか………」


兵のどこかからかそんな声が上がる。


立ち上がった遼太郎がハンドガンを手に、ゆっくりと近づいてその残骸を確認していく。


突撃に参加した兵数十人やひよ、ころ、その他兵達も誰のもがその様子を固唾を飲んで待ち続ける。



それは一瞬の騒動から、一分以上経ってからだった。



遼太郎が大声をあげ、左手で拳を高くあげる。



「みんな!やったぞ!倒したんだ!」




「「「「うぉぉー!!」」」」




遼太郎の雄叫びにも近い喜びの声に、塀の中にいた兵たちから喜びの歓声が広がる。


「お頭ぁー!!怖かったですよーー!!!」


「遼太郎様ー!お疲れ様です!」


先ほど遼太郎の提案で兵を集め、合図を伝達してもらったひよ子と転子が駆け寄ってくる。ひよ子に関しては感激のあまり遼太郎の体にしがみついてもきた。


「ははっ!二人ともお疲れ!本当に助かったよ!」


二人の協力無しでは倒せなかった、遼太郎はその事で二人に感謝を伝える。


「けど、お頭が吹き飛ばされたときは本当に心配事したんですからぁー!」


「ごめんな、まぁ大事にならなかったみたいだし大丈夫だよ」


しがみついて涙目を浮かべるひよ子に、遼太郎は頭をポンポンと撫でてあげる。


「…それで、塀の外はどうなってる?」


遼太郎が気になっていたことを転子に尋ねる。


「化け物によって部隊に損傷が出たこと、塀の中に巨大な化け物を確認したことで、兵となる足軽たちが逃走を始めたことで美濃衆は撤退していきましたね」


「幸か不幸かそっちは化け物に救われたのか……」


化け物が出現してから状況がまったくわかっていなかった遼太郎に転子が告げる。


「それで、こちらの部隊の損傷はどれほどかな?」


さらに続けて遼太郎は現状把握に努める。


「美濃衆の防衛には弓による怪我人が数人と言うところです。一方化け物の方ですが、こちらは初動の恐怖のあまりに、無謀な攻撃を仕掛けた者が十名ほど返り討ちにあい戦死しました。ですが、遼太郎様が化け物と対峙してからは戦死者は出ていませんよ。結果としては快勝といえますね」



「うん、そっか……」


あの化け物との熾烈な戦闘で、死者がその程度であることは遼太郎としても少ない方だとは感じる。しかし、自身の打ち立てた作戦で、自身の指揮下で戦死者を出してしまった。さらには初めの騒動、つまりは遼太郎があまりの光景に呆然としてしまった間に奪われた命があるということ。この事は遼太郎の良心をズキズキと痛める。


「とりあえず、戦闘による被害の修復から始めよう。同時にひよの築城組はできる範囲で築城を再開してくれ」



「「はいっ」」



とりあえずやることを進めようと思った遼太郎が二人に指示をする。



(ふぅー、戦うことは慣れたつもりだったけどな…)



指示を受け持ち場に戻っていく二人の後ろ姿を見ながら、近くの木材に腰掛ける。


戦死者が出たものの快勝である、この認識からひよもころも自分より年下の少女とは言え、やはり武士なのだなと改めて認識する。



この世界に来て、自分の部下や仲間など知り合えた人を失うことの大きさを味わった遼太郎。先程の戦闘の肉体的疲労も合わさり、今はまだゆっくりしたいと空を仰ぐ。



そんな遼太郎目前では、化け物の死体が蒸発していく。その光景も目にしながら、遼太郎は自分の現実を噛み締めるのであった。






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