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Chapter1-20

遼太郎率いる野武士傭兵隊が、美濃勢激突する。


敵方はおおよそ四、五千人と言うところだろうか、数字の上では二倍と少しの程度だが、堀や塀にピタリと取りつかれると言うのは、逃げ場がなくなりとても生きた心地がしなくなるものである。


だが、やはり堀の効果がてきめんだろうか。相手は堀をよじ登るどころか、降りることさえ四苦八苦している様子である。散漫的に放たれる弓矢に注意しながら、転子率いる防衛組が上ろうとする敵を上から槍で追い払う。


(どうかこのまま諦めてはくれないかなぁ)


遼太郎は希望的観測をしてみるが、やはり何かはあるだろうと気を入れなおす。



時間が経過するにつれて、あちらこちらで堀を埋め直そうと、土を運び入れようとするところも出てきた。


城が完成すれば久遠本隊との合流も可能になってくる。敵に執拗な妨害をして追い払うために、築城に割いている人手をすべて防衛に回すか。もしくは、このまま時間稼ぎで築城が終えるまで引き伸ばすか。


遼太郎にその判断の時が迫り来るのであった。





ーーーーーーーーーーーーーーー





対する攻め側の美濃勢


「えぇーい!何をウダウダやっているのか!さっさと中へ攻め入れぃ!」


攻める美濃勢の指揮官であろう少女が、中々攻め入れないことに不満を顕にする。


「ですが。飛騨殿、堀が幾分深く広いため突破が困難です。一度を撤退して資材を調達してからと言う手も……」


そんな少女の部下が、少女に進言する。しかし…


「えぇい!うるさい!向こうの手勢を見てみろ!明らかにこちらの半分以下ではないか!これは我が武功をあげる機会なのだ!他のものに取られてたまるものか!」


なんとも小物感溢れる発言であるが、指揮官にそう言われては引き下がざるを得ない。


そうは言うものの、現状打破する手立てのないことに指揮官の少女はさらに不満を募らせる。


(何か場面をひっくり返すような物はないのか……)


少女がイライラしながら考える。


前回の敵を追い返してから既に二週間以上、織田側はもう一度墨俣に築城する様子を全く見せていかなかった。(そのように美濃側には受け取られている)

昨日になって墨俣とは逆の街道から織田が攻める準備をしていることを嗅ぎ付け、美濃主力もそれを迎え撃つ手立てを用意したのだ。それが今日になって、朝方に墨俣に動きがあると急に一報が入った。幾分急な出撃となり兵の質も準備の質も良いとは言えないのだ。


しかし同時に、この飛騨と呼ばれた少女にとっては、街道側の本隊防衛組からあぶれた鬱憤を晴らし、上層部に実力を見せつけてやるのに絶好の機会であることも変わりはないのだ。


(どうにかして功をあげたい。この手勢の差なのだ。塀の中に入れてしまえばこちらのものなのだっ!)


少女が部下に向け、さらに野次を飛ばそうとする、そんなときであった。



「ばっ化け物だーー!!!」



美濃勢が攻めてきた北側出なく、南側から足軽の悲鳴が戦場に響き渡るのである……





ーーーーーーーーーーーーーーーー





「ばっ化け物だーー!!!」


塀の中にいた遼太郎にもその悲鳴にも似た叫び声が届く。


「んなっ!?まさか………!?」


叫び声の聞こえた方向に遼太郎は走り出す。


(まさか"あれ"がまた出てきたのか?けど今回は武装する仲間がこんなに居るんだ。うまく指示して立ち回ればなんてこと………)


遼太郎は前回遭遇した化け物を思い出す。確かに前回程度サイズのものが少数なら大人数で囲んで槍で突いてしまえば楽勝であろう。



しかし、それは前回と同じなら…であるのだ。



向かう方向からは、さらなる悲鳴が聞こえてくる。加えて、どこか聞き覚えのある嫌な重低音の唸り声までが遼太郎に耳に届く。


(クソッ!やっぱりあの化け物か!しかも外はどうなってるんだ!)


とにかく急ぐ遼太郎。ようやく到着すると、そこの塀に沿って配置された皆顔を青くして恐怖しているように見える。持ち場から逃げ出さないだけ、転子が集めた仲間なだけあろうか。


「外はどうなってる!?」


息を切らして到着した遼太郎が、その途中で野武士のリーダー格に遭遇し尋ねる。



「お、お頭さん。あ、あれを見てくれよ…」


リーダーの男が声を震わせながら塀の向こうを指差す。


指し示す方向へ遼太郎は、塀から身を乗り出して外を確認する。



この時すでに外からの悲鳴が、遼太郎の元には聞こえてこなくなっていたことに、遼太郎はまだ気が付いていない……



(は?う、うそだろ………?)


遼太郎はあり得ない光景に眼を見開く。


塀から身を乗り出して下をみれば、そこには巨大な化け物の顔が。そして今、まさにその化け物が人へかぶり付く瞬間であった。


"ぐちゃっ!"


喰われた人の胴体から、血が吹き出す。その飛び血が遼太郎の上半身を赤く染める。



あまりの光景に呆然とする遼太郎。やがて腰が抜けかけてしまい、視線がずれる。その先にあったのは赤い堀だ。仲間が作った堀が、そこから見える範囲内のほとんどが赤いのだ。そして、よく見れば所々に足軽の武器や防具の断片が見てとれる。


「そ、そんな………」


衝撃のあまり遼太郎が言葉を失う。



「し、死にたくねえっ!!」


やがてそんな光景を目にした味方の一人が、悲鳴をあげてその場から逃走してしまう。それはまた一人、また一人と伝播するように増えていき、瞬く間に塀の中もパニックになってしまう。



もちろん、悲鳴は外の化け物にも届く。外にいた人を殺し尽くし食べ尽くした化け物が、塀の中にも人が入ることに気が付けば……



塀を乗り越えて中へ侵入して来てしまうのは当然であろう。



この時遼太郎は、先程まで深い堀の中にいた化け物の全容を、始めて目の当たりにする。


その体は凡そ五、六メートルはあろうか。そして前回の化け物同様に長い牙と鋭い鎌のような腕もある。



「お頭っ!!避けてーーー!!」


これは誰の声だったのだろうか?


あまりの出来事に、未だ塀の近くに留まっていた遼太郎にそんな声が届く。同時に遼太郎の視界に、大きな腕が振り下ろされるのが映る。


       "しゃがんで避ける"


動かない体に対して、ついに最後の手段となるコマンドが表示される。その向こうには刻々と腕が振り下ろされる迫ってくる。


ゲーマーとしての矜持だったのだろうか?遼太郎は無意識的にそのコマンドに従うことに成功する。


固まっていた体が、無理やりだが動かされたことで遼太郎が我に帰る。


(まずい!マジで集中しなきゃ死ぬ!)


とにかく遼太郎は、自身が持つ武器であるハンドガンをホルスターから抜く。


(戦い方は前回の小さいのと同じで、距離をとらないと!)


飛び道具を使わない相手に対して、銃を手にする遼太郎はそう考え、走り出す。


「皆、とにかくこいつから距離をとるんだ!絶対に近づかれるな!」


一時的であろうと部隊の頭として、遼太郎は味方の兵に大声で知らせる。率先して巨大な化け物を誘導する遼太郎からの掛け声に、恐慌状態の兵達も幾分落ち着きを取り戻したようで、遼太郎と化け物の進行方向を避けて、自分達も距離を取る。


(よし、さすがはころの部下だ。すぐに指示を出せばイケるか)


なるべく兵がいない開けた場所に向け、遼太郎は走り出す。


そして遼太郎も走りながら、巨大な化け物に対して、狙いを頭か足に狙いを絞る。


(あの大きさに対して、ハンドガンなんかじゃクリティカルどころか怯ませるのも厳しそうだ!)


そうして遼太郎は足元から崩すことに決めると同時に振り返り、片手でハンドガンの銃口を向け、足の脆そうな部分を狙って引き金を引く。


"パァッン!"


遼太郎から放たれた弾丸が化け物の足へ放たれる。弾丸は一直線に化け物の足元に滑空していく。巨体のためか、あまり素早く動けていない化け物に命中する。


"ヴヴァーー!!"


化け物が雄叫びをあげる。そして、命中箇所からは黒い瘴気のようなものが放出される。だが、化け物をダウンさせるには程遠いようだ。


(こうなりゃ持久戦だ!)


遼太郎は走って距離をとり、撃つというrun & hitを繰り返す。


命中する弾丸が増えるにつれ、放出する黒い瘴気が量を増し、化け物の動きが徐々に鈍くなる。


そうして何発目だろうか。遼太郎の放つ弾丸の直撃で累積したダメージが限界をこえたのか、化け物が堪らずに足を庇うように屈み込む。


「よし!チャンスだ!これを待ってたんだ!」


逃走から一転、遼太郎は化け物に近づき、化け物がしゃがむことで地面に近くなった頭部にありったけの弾丸を撃ち込む。


(どうか倒れてくれ………!)


とにかく、引き金を繰り返し引き続ける。気が付けば、ハンドガンに籠められた十発の弾丸が撃ち終わる。


(もう、弾切れか!)


遼太郎は瞬時考え、リロードでなく昨日拾った手榴弾をピンを抜いて化け物に投擲する。


同時に遼太郎も後方へ飛び退き、衝撃に備える。


遼太郎が手に入れた一般的なこの手榴弾は、ピンを抜いてからタイムラグがあるとはいえ、近距離で炸裂すれば自分にもダメージが入る。土壇場でやむ無くとはいえ、初めて使う武器であるので、遼太郎も内心はヒヤヒヤである。



爆音と衝撃を放ち、手榴弾が炸裂する。



「ヴヴヴァァァーーーー!!!」



絶叫する巨大な化け物。


距離をとって、防御姿勢にはいっていた遼太郎にもその衝撃が全身を揺るがす。



「おおぉっ!」


まわりからは兵達の驚きと、やったのかという期待の歓声が上がる。


しかし……


「ダメだ!みんな、もう一度距離をとれ!動き出すぞ!」


遼太郎から叫び声が再度上がる。そう、遼太郎は倒し切ることが出来なかった。しかも悪いことに、化け物は再生でもしたのか、先程の化け物の足のダメージがすでに癒えていたのだ。


この光景に、誰もが絶望的の表情を浮かべる。それは遼太郎とて例外ではない。


(弾切れが近い…これが正攻法じゃないのか…?)


正攻法。それは遼太郎がよくやっていたゲームで、ボスキャラを与えられた武器やギミックで倒すためにある戦い方である。これを見つけられない、もしくはキーアイテムを未所持で行うとボスを倒せなくはないが、かなりの弾丸やアイテムを消費してしまう恐れがあるのだ。



そして遼太郎の残弾は、

ハンドガンの弾が三十発強、手榴弾が二つとなっている。確かに初見でこの残量では焦りもあるのは当然である。





遼太郎の焦りとは裏腹に、戦闘はまだ続く………















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