1-7 息吹の灯火
さて、どうしたものか。
本来魔物とは、人に仇なすものだ。
魔物と言えば、人すら狩りの対象とし、人を見かければ、問答無用で襲ってくるもの。
故に、見つけ次第、早急な対処が必要とされる。
しかし、俺がアシスから聞いた精霊獣は、一応魔物に分類されてはいるが、基本滅多な事では人間は襲わない。
そう言ったのは、襲われた場合の防衛や、自らの縄張りに侵入してきた者への迎撃だったりする。
どちらかと言えば、精霊獣は、人間の欲の対象とされる方が大きい。
だからこそ、俺は別に精霊獣をどうこうするつもりは毛頭ない。
ない、が…………仔虎が気掛かりだ。
まだ、生まれてそれ程時間は経っていないだろう。
体は小さく、きっとまだ狩りの仕方も教わってない筈だ。
間違いなく、生きてはいけない。
この先待っているのは、確実に『死』だけだ。
…………分かってる。それは自然の摂理。
弱者は淘汰されるもの。
それは、この世界でもあちらの世界でも変わらない。
半端な同情や優しさだけで、今手を差し伸べた所で、一体どれだけ変わるのだろう。
ただの自己満に過ぎないのではなかろうか?
ーーと、前の俺ならそう思い、諦めて踵を返していただろう。
しかし、今の俺なら、この現状を打開出来るかもしれない。
俺は一歩前へ踏み出した。
すると、草を踏み締める音を聞き付け、そこで漸く仔虎が俺の存在に気付いて振り向く。
「「「「「ぐるるるっ……」」」」」
母虎を背に庇い、精一杯の威嚇を持って、俺を睨みつける。
「………………」
その必死な様子に、微笑ましくなる。
……なあ、アシス。確か俺のスキルに、〈死者蘇生〉ってあったよな?
[はい。あります]
それを使えば、あの母親助かるよな?
[……確かに『生き返らせるだけなら』問題ありませんが……トーヤ様は、あの母虎を【従属】させるおつもりですか?]
……んん?どゆこと?
[本来、〈死者蘇生〉は【死霊使い】が使用するスキルです。死霊使いは、亡者を生き返らせ使役する者。つまりは、〈死者蘇生〉を使えば、必然的にその者は、トーヤ様の配下となり、トーヤ様に逆らう事はありません]
……つまりは、【奴隷】の様なものって事か。
[そうなりますね]
んー。それは俺の望む事ではないな。
出来れば、今まで通り、普通の生活を送ってほしいんだが……。
さて、どうしたものか。
俺はまたもや頭を悩ます。
すると、アシスがある提案をしてきた。
[でしたら、〈創造〉しては如何ですか?]
〈創造〉かー。
ぶっちゃけ、俺の現在の魔力でも使えそう?
[現在所有している魔力では、正直厳しいでしょう。何せ、普通の蘇生術になる訳ですから]
ですよねー……。
[ですが、ですからこそ、例のアレが役に立つのでは?こういう時の為に、毎日コツコツとストックしてきたのですから]
!あ、そっか!
それがあったな。
俺は、アシスのアドバイスを受けて、異空間からある物を取り出した。
「ジャジャ~ン♪『魔力保管箱』~♪(ドラ○もん風)」
[……………………]
…………スルーされました。
アシスの白い目が見える(幻)。
こほん。気を取り直して、俺が取り出したのは、手のひらサイズの、ルービックキューブ程の大きさの黒い物体。
俺が初めて、〈天地創造〉で作り上げたものだ。
実は、〈創造〉にはデメリット?と呼べるものがあった。
それが、消費する魔力量が半端ないという事。
スキルや魔法については、本来この世界に存在しないものを作るのだから、当然といえば当然なのだが、魔力が十倍以上必要とされる(創造するものにもよる)のだ。
なので、それを改善するのにどうするべきか考え、コレを考案した。
コレは、『魔石』を材料に作り上げた、魔力を保存する容器だ。
本来は、硝子みたいな透明な器だが、魔力量がどれだけ入ってるかを目視出来る様に、魔力を入れれば入れるだけ、黒く変色する仕様となっている。
余談だが、〈創造〉について説明するならもう一つ。
〈創造〉は『物』を作る事も出来る。
無から有へ……何も無い所から、『物体』を〈創造〉する事も可能なのだ。
………………ほんと、何でも有りだよな。
まあ、それは良いとして、やはり此方も、それ相応の魔力が伴う。
その負担を減らすには、これまた方法があり、『材料』さえ揃えれば、問題は改善された。
例えば、『鉄の剣』を作りたいなら、『鉄』を用意してやれば良い訳だ。
鉄の分量の計算なども必要になるが(計算が狂うと、中途半端な形状になったりするので注意)、そこはほれ。俺には優秀な助手が居ますから。
それでも、作るとなると、それなりの魔力を要するが、『無』から作り出すよりかは、遥かにお得である。
閑話休題。
こうして俺は、魔力が足りない分を、ここから抽出出来るのだ。
名付けて、『魔力保管箱』!
………………まんま?ほっとけ。
ではでは、始めますか。
目を瞑り、イメージを確立する。
どんな物を創りたいか。
能力は?形は?
俺がイメージした物を、『世界』が読み取り、最適解に導き出す。
そうする事で、もっとも俺が求める
適した物を『世界』が授けてくれると言う寸法だ。
未だに、このシステムは謎である。
それに、何故俺にこんな能力が備わっているのかも謎である。
この世界、俺に甘過ぎないか?
俺何かした?怖ひよ。
十五分程で、ソレは出来上がる。
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【魔法スキル】
〈息吹の灯火〉←New!
魔力︰55
《概要》
死者を生前と同じ様に蘇生する事が可能。
触れても良いし、視界に捉えてるだけでも良い。
期限は48時間以内。それ以上は蘇生不可。
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この世界では、死者を普通に生き返らせる事は出来ません。
本編にもあるように、生き返らせるとしたら、唯一『死霊使い』が使用する〈死者蘇生〉の魔法のみです。
ただ、生き返らせる場合は、その状態のまま生き返らせます。
例えば、既に白骨化していれば、スケルトンとして。
肉が腐敗していれば、ゾンビとして。
みたいな感じです。
そして、このどちらも、命令には忠実ですが、自分で考えるのが出来ないので、傀儡みたいなものです。
もしも、生前と同じ姿(白骨化も腐敗もしていない)であったなら、一応生き返らせる事は可能ですが、その場合、莫大な魔力が必要となるので、そんな事が出来るのは、ほんの一握りだけでしょう。
こちらなら、ちゃんと自分で考えて行動する事も出来ます。
そして、〈死者蘇生〉で生き返った者達の共通点が、『術者には逆らえない』と言ったものになるわけです。
毎回毎回、後書きで長々と説明すみません。
本編だと、どうしても書くタイミングが無く、こちらを活用させてもらっています。
特に一章は、説明回とあって、こう言った傾向が強く出ていますが、多分二章からは後書きでの説明は減ると思います。
それでもたま~に、説明するかもしれませんが(笑)
作者が未熟なばかりに、皆様には面倒をおかけします。
今後も、日々精進し、皆様に楽しんで頂く作品作りをしていきますので、これからもどうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>