表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/25

2-4 猫のしつけ方

本当は、二話投稿します。

 バサリーー。


 今夜も、俺はいつも通りにレベリングをしに森に来てみたら、思いもよらない事態に遭遇してしまった。

 上空では、【ルフ】と呼ばれる魔獣が、黒い羽根を広げて、滞空している。


 あ、今日は満月だ。

 なんて、どうでも良い事を考える。


 地面に視線を向ければ、先程会ったばかりの、釣り目で少し長めの髪を後ろで縛った、黒猫(・・)のお兄さんが、何故か血だらけでぶっ倒れてるんだよ。


 こりゃ瀕死だな。


 まだ辛うじて息はあるが、それも時間の問題だろう。

 大方、帰り際にルフに見つかって、あの金髪縦ロールの女の人に見捨てられでもしたかな?


 …………………………仕方ない。

 折角見付けたのに、ここで見過ごしたら寝覚めが悪そうだ。


 俺は、ルフを見上げる。

 ルフも、ジッと俺を見下ろしていた。

 俺が、次にどんな行動をとるのか、観察しているのだろう。


 俺は、少し考えた素振りをしてから、〈異空間収納〉から、徐に肉類(・・)を取り出す。


 ルフは、高位の魔獣だ。

 高位の魔物には、知能の高い魔物と、そうじゃない魔物が居る。

 知能の高い魔物は、長く生きた魔物がなる傾向があるが、知能が高くても、好戦的でプライドの高い魔物もいて、人の話など一切聞く耳を持たないといった奴が多い。

 と言うか、そっちが大半だ。


 けれど、ルフは違う。

 腹が空けば、人間を狩る事もあるが、基本比較的大人しい部類に入る。

 ある種、魔物としては珍しいタイプであった。


 だからこそ、俺もこうして落ち着いていられるんだが。


 俺は、出来るだけ多くの肉類を敷物に詰めると、それを〈風魔法〉で浮かせて、ルフの所まで届けた。

 ルフは、俺の意図する事を察したように、その敷物を脚でキャッチする。


「ごめんね~、ルフ。食事の邪魔しちゃって。一応この人、俺の顔見知りだから、今回は見逃してくれないかな?」


 俺の謝罪とお願いを聞いたルフが、


「キュイィィィィィ!」


 と一声鳴いて、了承の意思を伝えると、そのまま西の方に飛び去って行く。

 俺は、そんなルフの後ろ姿に向かって、「()にも宜しくね~」と手を振った。


「さて、と……」


 俺は、ルフが見えなくなるのを確認すると、ディータと言う人に視線を戻した。


 因みに、彼のステータスは確認済みである。

 名前も、あの(ひと)の奴隷である事も。

 耳と尻尾を隠してはいたけど、実は獣人族の猫人だと言う事も。

 〈真眼〉で視て、彼が黒猫(忌み子は知っている)であると言う事も。


 〈真眼〉ーー『隠された(・・・・)ものを視る』事が出来るスキル。


「取り敢えず、傷を回復してから、いつもの所(・・・・・)に連れて行くかな」


 そう考え、早速俺は行動に移した。






「…………ん」


 ジュエリー・ホワイトタイガー親子の塒(俺は『基地』と呼んでいる。厨二病くさい?ほっとけ)に、ディータを運び込み、暫くしてディータが目を覚ます。


 血を流し過ぎた後遺症(治癒魔法は血までは回復しない)か、初めはボーッとしてたディータだったが、突如ハッとして起き上がり、ズボンの裾に忍ばせていた短剣を取り出す。


 …………は?


 そして、ジュエリー・ホワイトタイガー親子に向けて投擲。

 俺もすかさず『苦無』を取り出すと、短剣目掛けて放ち、短剣を撃ち落とす。

 そのまま、ディータの手首を掴み取り、背後(うしろ)に捻って襟首を掴むと、地面に叩き付けた。


「くっ?!」


 その(かん)(およ)そ五秒。

 何が起こったのか分からず、困惑した顔でディータが俺に振り向き、今漸く、俺の存在に気付いたように、驚愕に目を見開く。


「お前は……?」

「………………」


 俺は、質問には答えなかった。

 ただ無言で、殺気を放つ。


「………………ねえ?今何しようとしてたのかな?次、あの子達に何かしたら………………殺すよ?」

「ッ?!」


 声を低くして言い放つ。

 俺の殺気に当てられたディータが、息を呑む。


「……分かった?分かったら返事は?」

「わ、分かった……」


 それを聞いた俺は、フッと掴んでいた手を緩める。

 すると、ディータはサッと俺から距離を取り、壁際に逃げ込んだ。


 まるで、手負いの()だな。

 あ、別に間違っちゃいないか(笑)


 俺は、ホワイトタイガー親子の無事を確認しようと、そちらに目を向ける。

 無事……は無事なのだが、仔虎(あれから二年経ってるので、それなりの大きさではあるが)五匹はプルプル震え、足元には五つの水溜まりが………………うん!ちょっと反省!


 どうやら、俺の殺気は、ディータだけに留まらず、仔虎達にまで及んでいたようだ。

 後でご機嫌をとっとく必要があるかな?


 にしても、流石は母虎。

 俺の殺気などなんのその。

 どっしりと構え、堂々とした佇まいーーと思ったが、前言撤回。

 母虎も、良く見りゃ僅かに震えてんじゃん。

 漏らしてはいないけど、どうやら母虎も、完全に萎縮させてしまったらしい。


 ………………後で謝ろう。


 さて、これからどうするか。

 俺は、思考をディータのこれからの事へと切り替える。

 取り敢えず助けてみたものの、正直この後の事は特に考えていなかった。


 ……………………あれ?これ、前にも似たような事あったか?

 デジャブ?


 [………………]


 まあ、いいか。


 ディータは、未だに警戒心マックスで、俺を睨み付けていた。

 このまま睨めっこしてては埒が明かない。

 先に進めなくては。

 やはりここは、年上(前世二七歳+現世七歳)の俺から歩み寄るべきだろう。


 そう思い、俺はディータに、なるべく優しく声を掛けてみた。


「えっと…………大丈夫?」


 ピクリーー。


 ディータの、肩が震える。


 あー……駄目かな?これは……。

 話にならないかも。

 そんだけ怖かったのかな?


 そう思ったが、少しの間を置いてから、ディータはゆっくりと口を開き、言葉を選ぶように話し出した。


「お前……カエル、だったか?」

「あ、うん!そうだよ!名前覚えててくれて嬉しいよ」

「……いや、忘れられない(・・・・・・)だろう。普通」

「うん?」

「…………何でもない」


 何か、ボソリと言われたが、聞き取れなかった。

 僅かの沈黙の後、ディータが再び口を開く。


「おま……あんたが、俺を助けてくれたのか?」

「まあ、一応は」

「そこの……石持ちか?そいつはあんたの……」

「僕の友達だよ。もしまた何かしようものなら……」

「わ、分かってる!!」


 俺が、スっと目を細めると、ディータは冷や汗を流して慌て出す。


 ………………まだ殺気出してないんですけど?


「さ、さっきは悪かった。また魔物に襲われると思って、つい条件反射で……」


 ディータは、バツが悪そうな顔で頭を掻いて謝罪する。


「まあ、情状酌量の余地はあるよね。僕は謝罪を受け取るよ。皆は?」


 俺は一応、ホワイトタイガー親子にも確認を取る。

 母虎が、代表して「ガウッ」と返事をした。


「ガウッ(訳:許す)」


 ……多分。言葉分からんし。

 まあ、雰囲気で?


「あの子達も許すってさ」

「……そうか。良かった」


 ディータは、心底ホッとした顔をした。


「で?これからどうするの?」


 俺は話を変え、本題へと移る事にした。


「……これから?」


 彼は訝しむように聞き返す。


「え?だって、ディータさんってあの(ひと)の奴隷でしょ?戻るのは確定だとしても、今すぐには止めた方がいいかな?せめて、もう少し休んで本調子になってからの方が良いと思うし。ただ、そうなると、何処で体を休めるか……って話になるんだよね」


 まあ、俺としては、別にこの基地で休んでもらっても構わないとは思うけど、ホワイトタイガー親子がどう思うかが分からないし。

 それに、俺の目の届かない所で、ディータがこの子達に手を出さない保証は何処にもない。

 何せ、今日会ったばかりの人だ。

 人となりもまだ分からない。

 そんな人物を、簡単に信じれる程、俺はお人好しではない。


 俺の質問に、ディータは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「それは…………て、ちょっと待て。俺、あんたに名前教えたか?それに奴隷の事も……」

「……あ」


 そう指摘され、俺は漸く自分が失言してしまった事に気付く。


 やっべ。ついポロッと口が滑った。

 どうすっかなー?

 〈鑑定〉スキル持ちだって言うべき?


「あー……まあ、細かい事は気にしないで。今は、もっと気にするとこあるでしょ?」


 結果として、俺は取り敢えず誤魔化す事にした。

 二ヘラと笑う。

 ディータも、納得してはいないだろうが、追求もせずに「……そうか」と一言呟くだけに留めてくれた。

 有難い。


「……で、俺の今後だったよな?知っての通り、俺は奴隷だ。俺の【隷属紋】は、長期間主人の側から離れると死ぬ類のものなんだが……人にもよるが、それが大体一~二週間位だな」

「うん」


 奴隷には、主に二種類(・・・)ある。

 それに加え、『特殊』な奴隷が存在する。

 ディータは、その『特殊』な奴隷になるのだろう。

 奴隷についての説明は、また今度。


 ディータは続ける。


「だが、俺としては、正直あの女の所には戻りたくない」

「じゃあ、どうするの?このままじゃ、どちらにしろ、死んじゃうよね?それとも死んどく?」


 俺がそう聞くと、


「……………………」


 ディータは、暫く難しい顔で考えた後、「いや」と小さく呟いて軽く頭を振る。

 その彼の瞳には決意の色が宿っていた。

 それだけで、俺は何かを察した。

 そして、ディータは俺に驚きの頼み事を口にしたのだった。

【補足】

この世界でも〈念話〉はあります。

但し、それを使用出来る相手は、『人間』(同族)のみです。

なので、ホワイト・タイガーは人語は理解出来ても、話す事は出来ません。

『従魔』でもないですし、例え『従魔』であっても、『何となく言葉は理解出来る』程度で、ちゃんとした会話は出来ません。


…………勉強すれば、話は別ですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ