2-5 初依頼
本日二話目。
「いや……あんたに頼みがある」
「頼み?」
これからどうするのかとディータに聞いてみるが、ディータは彼女の元には戻りたくないと言ってから、そう切り出してきた。
俺は首を傾げ、聞き返す。
「ああ。本来なら、こんな事を頼むのは筋違いだし、助けて貰って厚かましいし……何より、子供のあんたに頼むのもどうかと思うが……」
「前置きが長い。先ずはその頼みとやらを聞かないと、僕も返答のしようがないんだけど?」
「あ、ああ。そうだな……」
ディータは、一拍間を開けて、息を吐いてから、真剣な眼差しでその願いを口にした。
「……あの女をあんたに殺して欲しい」
「ふーん」
俺は、気のない返事をする。
「ふ、ふーんって……それだけか?」
逆に、ディータの方が面食らった顔をした。
「だって、冗談で言ったわけじゃないんだよね?」
「そ、そうだが……少しは驚かないか?」
「まあ、これでも一応は驚いてるんだよ?ただ、予想の範囲内だったからね」
「……そうなのか?」
「目が、ね。全てが覚悟の上だと物語っていたから。分かってるよね?あなたに刻まれた【隷属紋】は、一定の距離から離れただけでなく、主人が死ねば、同様に奴隷のあなた達も長くは生きられない。そっちの【隷属紋】の筈だ。それを承知でそんなお願いをするって事は……大方、せめて最期位は、彼女に一矢報いようって腹積もりかな?」
「………………あんた、本当にただの子供か?」
ディータは図星だったらしく、驚きとも呆れとも取れない顔で、俺を凝視する。
俺は、その質問に苦笑で返した。
「けど、その頼みを聞いて、僕にメリットは無いよね?」
「っ?!それは……」
「それに、あなた一人が勝手にそれらを決める権限はないんじゃないかな?他にも、奴隷の人達居るんでしょ?その人達は?」
「…………あいつらも、俺と同じ気持ち、の筈だ」
「本当に?ちゃんと確認した事あるの?」
「………………」
俺の度重なる質問に、ディータが押し黙る。
「貴方が、どれだけ彼女を憎んでるのか知らないし、それは貴方の勝手だけど、勘違いで他の人まで巻き込むのはどうかと思うよ?」
「っだったら!だったらどうしろって言うんだっ!!」
とうとう、我慢の限界に達したディータが、血が滲む程手を握りしめて叫ぶ。
「このまま生きて戻ったって、俺に…………俺達に明日はない!あそこは地獄だ!!あの女は悪魔だ!!あそこでは、俺達奴隷はただの物で道具なんだよ!!人権も何も無い!!俺達は生きてても死んでるのと変わらない!!また何もかも諦めて死人同然に生きろって言うのか?!お前に何が分かるっっ!!俺だって本当は死にたくない!!それでも、あの女の所にはもう戻りたくないんだよ!!けど戻らなければ死ぬ!そして、俺が死んでもあの女は生き続ける!!別の奴隷を見つけてな!犠牲者をこれ以上増やしたくないんだ!!そんな事許せるわけねぇーだろっ!!」
「………………」
俺は黙って、彼の独白を聞いていた。
最後の方は、涙声になっていた。
全てを諦めて、死人同然、か。
それは、昔の自分を彷彿とさせた。
今までの、思いの丈を全部吐き出したディータは、「はあはあ」と肩で大きく息をして、少し落ち着いてから、頭を下げた。
「……すまない。こんなの、ただの八つ当たりだ。そもそも、子供に…………しかも、今日会ったばかりの奴に殺しを頼むなど、どうかしていた。許して欲しい」
「……………………僕は、確かに子供だけど、将来有望な暗殺者だよ?」
「……え?」
「まあ、まだ流石に人を殺した事は無いけど。多分、大丈夫じゃないかな?」
「そ、れはどう言う……」
俺の言わんとしてる事の意味を理解出来ずに、困惑するディータ。
「あの女を殺してあげるよ」
俺はニヤリと笑うと、何でもないように言った。
ディータがそれを聞いて、信じられないと言った風に、目を見開く。
「ほ、本当か?!」
「うん。但し、条件が二つある」
「じょ、条件……?」
「ああ。一つは、他の人達にもちゃんと確認を取る事。彼女がどれだけ奴隷を持ってるか知らないけど、貴方と同じ境遇の者達『全員』の了承を取る事。一人でも拒否をするなら、この話は無かった事にする」
「わ、分かった」
ディータは、首を縦に振って頷く。
「もう一つは……これを正式な依頼とする事」
「…………どう言う事だ?」
「そのままの意味だよ。成功の暁には、ちゃんと報酬を貰うって事」
「それは…………俺には、報酬を払う程の蓄えなんてないぞ?そもそも、給料なんて貰ってないしな」
俺の条件を聞いたディータが、悔しそうに歯軋りして言った。
「ん?そんなの、彼女が死んだ時に、金目の物を盗んでくればいい話じゃない?」
「っ?!」
さも当然のように、俺は言う。
死人に、金目のものなんて必要ないし。
人でなし?
そんなの綺麗事だね。
彼等にとっては、丁度良い慰謝料&退職金代わりになるだろうし。
俺がそう説明すると、ディータが、鳩が豆鉄砲を食った様な顔で驚く。
「この二つを守ってくれるなら、確実に、彼女を殺してあげるよ」
俺は今、どんな顔をしてるだろうか。
きっと、人の悪い笑みを浮かべてるかもしれない。
当たり前だが、俺は前世でも人を殺した事など、あるわけがない。
しかし、俺の心は意外と落ち着いていた。
これから人を殺すかもしれないと言うのに……。
これは、俺にも案外洗脳が効いてるのかな?
いや、きっとこれが俺の本質なんだろう。
こうして俺は、依頼としてディータの頼みを聞く事に決めた。
取り敢えず、ディータには、一度あの女の元へ戻り、無事な顔を見せる様指示した。
最初は渋っていたディータだったが、俺が「その方が面白いものが見れるよ?」と言ったら、渋々ではあったが、何とか納得してくれた。
連絡を取れるようにと、俺はディータに【通信石】を渡す。
【通信石】とは、直径五センチ程の半球の石で、対となる石を双方が持っていると、何処でも通信が出来る魔法具だ。
因みに、俺作である。
そんな物があると知った時に、念の為に作っておいたのだ。
まさか、こんな所で役に立つとは思わなかったが……。
それで、他の奴隷達の気持ちを確認したら、俺に知らせる手筈となった。
その返答如何によって、『一週間以内』に彼女は、確実に死ぬだろう。
その詳しい内容は、ディータには教えなかった。
楽しみが減っちゃうからね。
こうして、ディータは帰路に着いた。
その二日後、彼から連絡を受けーー俺は、彼女を殺したんだ。
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