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いつかあなたを  作者: Jun
救済の世界

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64 過去の闘いの記録 1

 大通りに出ると左に曲がり、しばらく進んで行くと神殿が姿を現した。毎日通っていたはずの神殿は、記憶どおり清浄なオーラに包まれた石造りの建物で、記憶よりも少しだけ石の色が深まっていた。きっと聖女だったエリナの記憶を元に作られていた世界だったから、今より新しかったのだろう、とローズは考えた。

 神殿の前まで来ると、入口で参拝者の案内をしていた神官が、ローズを見て驚いた顔をした。ローズも彼を見て、自分が倒れた時家まで知らせに行ってくれた神官だと思い当たった。

(あの時よりも年を取って見える。やはり私が神殿で会っていたこの人は、お母さんの記憶の中の年齢なんだわ)


「あの、何年か前に悪魔と闘った方々の記録があると伺ったのですが、拝見させて頂けますか」ローズが頼むと、神官は「分かりました。それでは担当の者を呼びますので、中の椅子に掛けてお待ちください」と参拝者の座る長椅子へ案内してくれた。

 彼はそのまま係を呼びに行こうとしたが、ふとためらってから口を開いた。

「もしかしたらあなたは、聖女エリナのご親戚の方ですか。とてもお顔が似ていますし、あなたからも聖魔法の気配を感じます」

 母と似ていると言って貰えて、ローズは嬉しくて笑みを浮かべた。

「私は聖女エリナの遠い親戚の娘なんです。おっしゃる通り聖魔法使いなので、その時の事を詳しく知っておきたいと思い、こちらを訪ねました」


 それを聞くと神官は、とても懐かしそうな顔になった。

「やはりそうですか。私は聖女エリナと共に、当時からこの神殿で働いていたんです。彼女に所縁のある方にお会いできて嬉しいです。ご存知とは思いますが、彼女はとても努力家で優しい人でした」

「そう聞いています。治癒を頑張る余り、魔力の使い過ぎで倒れた事もあったんですよね」

 神官は破顔した。

「そうです。それまでも何度か注意していたのですが、彼女はどうしても患者さんを前にすると無理をしてしまって。倒れた時は、私がご夫君の働いている役場まで知らせに行きました。ご夫君がすぐ飛んできてくれましたが、エリナは相当注意されたようで、その後は無理をしない様になりました」

「そうだったんですね」ローズはエリナが心配性だと思っていたが、元はエリナがリアムに心配されていたと知って笑いがこぼれた。


「おお、これは話が長くなって申し訳ない。今担当の神官を呼んできますので、お待ちください」

 残されたローズは、長椅子に座って祭壇にいる女神像を見つめた。

 自然と手を組み目を閉じて、像に向かって祈る。

(女神様。両親の呼びかけに応え、そのお力を貸して下さってありがとうございました。あちらの世界を救う為にどうすべきかの、教えを乞いたくて参りました。どうぞ私をお導きください)

 祈りを捧げるローズに向かい、その時女神像から一筋の光が放たれた。光はローズの身体に吸い込まれて、身の内に力強い清浄な魔力が宿ったのを感じたローズの耳に、声が聞こえた。

『この力を汝に預ける。この力を用いてあちらの世界の悪魔を滅ぼしなさい』

 直接届いた女神の声に慄いて目を開けたローズの目の前に、さっきの神官に連れられたトムが立っていた。


「お待たせいたしました」と初対面のごとく挨拶するトムの姿は、自分の知っていたトムと何ら変わっていなかった。年を取っている他の人と違って、あの時のままのトムを見てローズは確信した。

(やはりトムとケイトさんがそうだったんだ)

 エリナとリアムが言っていた『女神様に力を借りた人がこの世界に他にもいた』

『その人もあららの世界と関係のある人なんだろう』と言う言葉が脳裏によみがえる。

 ケイトの体内に溜まっていた黒い魔力と、ローズを救ったそれを吸い取る力も、きっとそのせいなのだと思った。

「いいえ。待ってなどいません。すぐに来て下さって、ありがとうございます」

 ローズは自分が次に進むべき道を示す者として、トムがこうしてすぐに現れてくれた事を感謝した。


「それでは、聖女エリナ達の記録をゆっくりご覧になって下さい」初めに話をした神官は去り、後にはトムとローズだけが残された。

「それではこちらへどうぞ」トムの案内に従って、ローズは祭壇の隣の扉から神殿の内部へと入った。そのままよく知っている神殿の廊下を進んで行く。

(中も私の記憶と変わらない。つまりお母さんがいた時と変わらないのね。ここが書庫だけど、通り過ぎた。悪魔との闘いの記録は書庫には無いのね)


 トムはどんどん進み、神殿の一番奥にある神官達の祈りの間に入ると、部屋の奥にある扉の前に立った。

「ここが保管庫です。私達神官が朝晩捧げる祈りを一番近くで受け取れる様に、ここに聖女エリナの記録は置いてあります」


 誰の目も届かないその部屋に入り、二人きりになるとトムは口を開いた。

「君のご両親が作った世界を、俺たちの存在が壊してしまったならすまなかった」

 ローズは目を見開いて尋ねた。

「あそこが私の両親が作った世界だって、あなたは知っていたの?」

「最初は訳が分からなかったが、途中から気づいた。

 俺はある日目覚めたら、周囲の知人が十五歳くらい若返っていて、皆の記憶もその頃までのものになっていたんだ。神殿には俺の知らない人も大勢いて、街の様子も微妙に変わっているから驚いたよ。

 俺と母さんだけが年齢も見た目もそのままだった。それは俺と母さんが、この世界の理から外れている存在なのが原因なんだろうと思った」


「あなたとケイトさんが理から外れてるって、どう言う事?」

「君ももう、あちらの世界の事を思い出しているだろう。俺と母さんは、あららの世界で悪魔にやられそうになって、女神様に助けられてこの世界に逃がれて来た者だ。あららの世界で湖に沈んで、気づいたらここに来ていた」

「そうだったの…。だけどどうして、ここが私の為に両親の作った世界だと分かったの」

「まず最初に、こんな魔法は普通の魔法使いの誰にも出来ない事だと思った。世界を十五年前に戻して箱庭みたいに閉じ込めるなんて、それこそ女神様の力を借りないと無理だろう。だからちょうど十五年前、女神様の力を借り悪魔を倒した君の両親が、この世界に関係しているのだろうと思い当たった。

 俺がここの神官で、他の神殿から最近移ってきたというのは変わらなかったから、今まで通り神殿で働いて周囲の様子を探っていたんだ」

「あなたはあの世界でもそうだったけど、本当にここの神官だったのね」


「ああ。俺は悪魔と君の両親が闘った記録を読んでいたから、ベルフリーデの顔を絵姿で知っていた。だからこの神殿で、聖女として働くベルフリーデを見つけた時は、本当に驚いたよ。

女神様の力を借りて作られたこの世界に、何故悪魔を呼び込んだベルフリーデがいるんだろうってね。しかも彼女と親しい聖女は、姿を消した幼い娘ローズと同じ名前で、エリナにそっくりな君だった。そこでベルフリーデとエリナは元は親友だった事を思い出し、エリナの役を君が果たしているんじゃないかと考えたんだ」


「お母さんとベルフリーデは、本当に親友だったの?」

「少なくともエリナは親友だと思っていて、周囲もそう認識していた。最後に何が起こったかを見ると、ベルフリーデがどう思っていたかは分からないが。記録には、君の父親のリアムと三人で仲が良かったと書いてある」

「そうね、ベルフリーデが何を考えていたのかは分からないわね。私も彼女を大切な友人と思っていたけれど、ああして危害を加えられる程憎まれていたんだもの」


「それから俺はさっきの神官に、君にエリナという心配性のお母さんと、リアムという役場に勤める土魔法使いのお父さんがいると聞いて確信したんだ。ここは二人の娘である君が成長して戻って来て、主役を務めている世界なんだと。

 他の登場人物がご両親が生きていた頃と同じなのは、ご両親が作った世界だからなんだと。

 君がここに戻って来た理由は知らないし、ベルフリーデが登場した理由も分からない。だが少なくとも君の為に、ご両親が女神様の力を借りて用意した世界なんだと分かった」


読んでいただき、ありがとうございます。


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