プロローグ 第1話
「ロボオタのおっさんが、ゲームによく似た異世界で好き勝手やる話です。
シリアスとコメディが半々くらいの予定です。」
森のおっさんは金がない
レンは空っぽの財布を見てため息を吐いた。
「……終わったな」
革袋をひっくり返す。
転がり出たのは銅貨三枚。
銀貨一枚。
それだけだった。
今日の夕飯どころか、宿代すら怪しい。
このゲームそっくりな異世界に来て五年。
森に家を建て、畑を耕し、工房まで作った。
生活はそれなりに安定している。
しかし。
「またやった……」
原因は分かっていた。
昨日見つけた古い機兵部品である。
必要かと聞かれれば必要ではない。
だが欲しかった。
だから買った。
そして金が消えた。
「いや、でもあの部品は絶対使えるんだよな……」
後悔していない辺り救いようがない。
レンは頭を掻きながら街の門をくぐった。
アストラ王国南部。
交易都市。
城壁に囲まれた中規模都市だ。
石畳。
露店。
馬車。
行商人。
衛兵。
まるでゲームの中のような街並み。
五年も住んでいるのに、未だに少しだけ感動する。
◇
その時だった。
「うおおお!」
「機兵だ!」
「見ろよ!」
子供達の歓声が聞こえた。
広場の方だ。
レンもつられて視線を向ける。
そこには三機の機兵が並んでいた。
黒鉄の装甲。
鋼鉄の四肢。
人間の3倍ほどの高さを持つ巨大な人型兵器。
機兵。
この世界の力の象徴だった。
周囲には人だかりができている。
子供達は目を輝かせていた。
「かっけえ……」
「俺も乗りてぇ!」
「無理だろ!」
楽しそうである。
一方。
機兵の傍らに立つ冒険者達は得意げだった。
どれも上級冒険者。
高ランクの証。
機兵を所有できる者は少ない。
だからこそ誇らしい。
「おいガキ、近寄るな」
一人の冒険者が怒鳴る。
「傷付けたら家が飛ぶぞ」
子供達が慌てて離れた。
笑いが起こる。
それを見ながらレンは思う。
(やっぱロボはいいな……)
男の子は何歳になっても男の子である。
「兄ちゃん、機兵は初めてかい?」
横から老人に声を掛けられた。
「いや、知ってるよ。好きなだけ。」
「そうかそうか」
老人は嬉しそうに笑った。
「ありゃな、冒険者の憧れじゃよ」
杖をついて機兵を見上げる。
「村一つ守れる」
「魔獣の群れを追い払える」
「騎士十人分とも言われとる」
「うんうん。」
レンは素直に感心した。
「値段や価値も驚くほどに高い。」
老人は苦笑する。
「機兵一機で屋敷が建つ」
「維持費で農村が養える」
「普通は一生縁がない」
子供達が聞き耳を立てていた。
「じゃあもっと強い機兵もあるの?」
少年が尋ねる。
老人の顔が少しだけ曇った。
「あるにはある・・」
「魔核機じゃ」
周囲が静かになった。
レンも少し反応する。
「失われた古代兵器」
「今じゃ国でも数えるほどしかない」
「動けば国を守る」
「暴れれば国も滅ぶ」
子供達がごくりと唾を飲む。
「見たことある?」
「無い」
老人は即答した。
「わしも無い」
少しだけ安心したような声だった。
どうやら伝説的な存在らしい。
レンは内心で苦笑する。
(そりゃそうだよな)
そんなものが街中を歩いていたら大騒ぎになる。
◇
広場を離れようとした時だった。
視界の端に荷車が映った。
奴隷商だ。
鉄格子付きの荷車。
中には数人の子供達がいる。
そして。
その隅に。
一人だけ動かない子供がいた。
十歳くらい。
痩せ細っている。
顔色も悪い。
今にも死にそうだった。
「こりゃ駄目だな」
奴隷商が吐き捨てる。
「今日持つか?」
「持たねぇだろ」
笑い声。
周囲は気にも留めない。
珍しくない光景だからだ。
レンも最初は立ち去ろうとした。
見なかったことにしようと思った。
自分も金が無い。
余裕も無い。
他人を助ける立場ではない。
それでも。
少年の目が合った。
何も言わない。
ただ。
諦めた目をしていた。
「……」
レンは財布を見た。
銀貨一枚。
ほぼ全財産。
宿代。
食費。
全部消える。
「はぁ……」
ため息を吐く。
そして。馬車に向かい、奴隷商に言う。
「その子、いくらだ?」
奴隷商が笑った。
「兄ちゃん物好きだな」
周囲も笑う。
良いカモを見つけた。
そんな顔だった。
レンは既に後悔していた。
だが今更やめられない。
数分後。
財布は空になった。
そして腕の中には死にかけた少年がいた。
「……俺、何やってんだろうな」
誰にも聞こえない声で呟く。
◇
その時。
冒険者ギルドの入口付近で、一人の少女が依頼書を受け取る姿が見えた。
栗色の髪。
安物の装備。
若い冒険者。
レンはこの子から目が離せない。かつて遊んだあのMMORPGに出ていた推しキャラに雰囲気の似ている容姿のせいで・・
◇
受付嬢が少し困った顔をしている。
ベテラン冒険者達が何か言って笑っていた。
少女は気丈に胸を張っている。
だが。
レンは嫌な予感を覚えた。
(その依頼、やめといた方がいいと思うぞ)
もちろん言わない。
関わる気もない。
今のレンには、死にかけの少年を抱えて帰るだけで精一杯だった。
だから知らない。
あの少女が。
そしてあの依頼が。
自分の人生を大きく変えることになるとは。
まだ知らなかった。
読んでいただきありがとうございます。
面白かったら評価、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。




