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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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2.リディアとレイの共同生活(5)

(でも、レイはなんでそんなことが分かるの?)


 セドリックからあの男の魔力が漂っていると言っていたが、そんなものを感じるものなのだろうか?

 正直、リディアは聞いたことがない。


 一方のセドリックは鬼のような形相でレイを睨むと、大きく片手を振る。すると、突然突風が吹いてレイの体が吹き飛ばされた。


「発言には気を付けろと言ったはずだ」

「レイ!」


 リディアは地面に倒れたレイに駆け寄る。


「セドリック様! 無抵抗な市民に魔法を使うなんて!」

「無抵抗? とんだ濡れ衣をかけて散々私をこけにしたのに、無抵抗だと?」


 セドリックは憎々しげにレイを見やる。そのとき、何かに気付いたように一点を凝視した。 


「ああ、なるほど……」


 彼はゆっくりと口角を上げ、にんまりと笑う。


「この男はフォシニか」


 リディアはハッとする。

 吹き飛ばされた拍子にレイの上着が捲れ上り、レイの脇腹が見える状態になっていた。


「フォシニの制度に反対しながら、きみも結局はフォシニを持っている。しかも、若い男に慰めを求めるとは落ちぶれたものだな」

「……若い男に慰め?」


 スーッと顔から血の気が引くのを感じた。

 レイを買ったときに、奴隷商に夜の相手もさせるんだろ? と言われたことを思い出す。


(どいつもこいつも……)


「よく知りもしないくせに、勝手なことを言わないで!」


 リディアは強く反発する。


「では、そのフォシニはなんだというんだ? 憐れだな。一時は私の婚約者だったきみがこんな落ちぶれた人間になってしまうとは、見ていられない」

「レイは──」


 反論しようとしたそのとき、「あーあ。汚れちゃった」と低い声がした。レイだ。

 レイは立ち上がると、服に付いた土埃を叩いて落とす。


「これ、リディアが俺に買ってくれた服なのにどうしてくれるんだよ? 俺の宝物なのにさぁ」


 レイはくいっと顎を上げ、見下ろすようにセドリックを見る。


「あんた、死にたいの?」


 言われた本人ではないリディアですら、背筋がゾクッとするような冷えた声だった。


「はっ。たかがフォシニ風情が生意気な」


 セドリックは乾いた笑いを漏らすと、再び片手を上げようとする。


(いけない!)


 また魔法を使おうとしている。


 セドリックの性格からして、相手がフォシニだと分かっていたら手加減なんてしない。平気で重傷を負わせるし、下手すると死んでしまうかもしれない。

 セドリックが最低な男であることは間違いないが、腐っても貴族。争っても何もいいことなんてない。


「レイ、もう帰ろう!」


 リディアはレイとセドリックの間に体を滑り込ませると、レイの顔を包み込むように頬に両手を添える。


「早く帰って、一緒にご飯作ろう」

「……肉は?」

「まだ少し残ってるから大丈夫だよ。レイが大好きなスープを作ろうよ」

「そっか。じゃあ帰る」


 レイはへらっと笑うと、いつものようにリディアの手に頬擦りして甘えてくる。


(よかった。いつものレイだ)


 リディアはホッとする。

 さっきのレイはいつもとは別人のようだった。


「帰るよ、レイ」


 リディアはレイの手を握り、歩き始める。


「リディア、待て!」


 またもやセドリックに呼び止められ、リディアは立ち止まって振り返る。


「セドリック様。もうこれ以上私を失望させないでください」


 セドリックの目が大きく見開かれる。

 リディアはくるりとからだの向きを変えると、今度こそ振り返ることなく歩き始めた。


 帰りは二人とも無言だった。

 黙々と歩いて家にたどり着くと、リディアは淡々と料理を始める。いろんな感情が溢れてきて、何もしていないと涙が溢れてしまいそうだ。


「リディア、泣いてるの?」


 隣に立つレイが心配そうにリディアの顔を覗き込む。


「え? 玉ねぎを切ったせいかしら。やあね」


 リディアは無理に笑顔を作り、気丈に振る舞う。


「……ねえ。あいつリディアのこと婚約者だったって言ってたけど、本当?」

「あ、それは……」


 リディアは言葉に詰まる。

 

「……本当なんだ?」

「ずっと昔のことよ」


 リディアはスッと目を反らす。

 セドリックとの婚約が破棄されたのは、リディアが勘当された直後だった。もう五年も前のことだ。

 これまでも彼とは町で偶然遭遇することが何度かあったけれど、ここ一、二年は会わなあったのですっかり油断していた。


「……やっぱり殺しておけばよかった」

「え? 何?」


 レイがぼそりと呟いた言葉がよく聞き取れず、リディアは聞き返す。


「俺、あいつのこと嫌い」

「あいつ?」

「さっきのやつ。あいつがリディアに触ったことも、リディアを侮辱したことも、全部腹が立つ」


 レイは台所の作業台に片手をつくと、リディアを見つめる目を細めた。


「ねえ、リディア。リディアもあいつのこと嫌い?」


 ぞくりと、背筋に冷たいものが伝う。

 声は穏やかなのに、息ができないような圧迫感だ。

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