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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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2.リディアとレイの共同生活(6)

「……なんでそんなこと聞くの?」

「俺があいつのこと、消してきてあげよっか?」


 リディアはひゅっと息を呑む。


「レイ? 何を言っているの?」


 消すとはどういう意味だろうか。セドリックに遭遇した際にレイが『あんた、死にたいの?』と告げていたことを思い出し、嫌な予感がする。


「もう二度と会いたくないんだよね? さっきあいつにそう言ってた」

「それはそうだけど……消えてほしいなんて思っていないわ。社会的制裁を受けて痛い目を見ればいいとは思うけど」

「ふーん」


 何をするのか不安に思うリディアに気付いたのか、レイはにこっと微笑む。


「安心して。俺、リディアが嫌がることはしないよ」

「そうね……」


 その言葉に安心する一方で、また不安になる。


(嫌がらなければ、何かするつもりなの?)


 普段のレイは少年のようにあどけない。なのに、今はなんだか知らない人を見ているような気分だった。



 ◇ ◇ ◇



 ここはアルバーン侯爵家の一室。

 若き当主であるセドリック・アルバーンは怒りに震えていた。


(リディア!)


 苛立ちに身を任せて鞭を振るうと、足元に血が飛び散った。

 彼の前には瀕死のフォシニが転がっている。


「おまえがあの若造にフォシニだと見破られたせいで、とんだ大恥をかかされた。どうしてくれるんだ?」


 床に這いつくばり肩で息をするフォシニに、静かに問いかける。


「ご、ご主人様……どうか……お許しを……」

「それでは答えになっていない。どうしてくれるんだと聞いているんだよっ!」


 フォシニを力一杯蹴り飛ばす。彼は人形のように転がり、ぴくぴくと痙攣した。


「この能無しが」


 酒でも飲もうかと召使を呼ぶために手を振る。しかし、何も起こらなかった。


「くそっ、魔力切れか」


 セドリックはチッと舌打ちする。

 床に転がるフォシニの服をまさぐると、刻印に手を当てる。しかし、魔力は一切供給されてこない。


「なんだ。死んだのか」


 フォシニが死んでは、魔力を供給することはできない。セドリックは動かなくなったフォシニの体を蹴飛ばす。


 この世には三種類の人間がいる。

 魔法使いの素質を持ち魔力を利用して魔法を使うもの、体内に魔力の核を持ち魔力を作り出すもの、そして、そのどちらでもないものだ。

 セドリックはこのうち、〝魔法を使うもの〟に該当する。魔法使いの素質を持つ人間は全体の一割にも満たない。そのため、国は魔法使いの才能を存分に発揮できるよう、魔法使いが魔力を作り出すものを従えることができる〝フォシニ〟という制度を作った。


「フォシニと言えば、あの男は邪魔だな。始末するか」


 リディアに寄り添う若い男の姿を思いだし、また苛立ちを感じる。


 グリーン子爵家の令嬢であり、まだほんの子供のときに決まった、セドリックの婚約者。一目見たときからセドリックは彼女のことを気に入っていた。


 くりっとした大きな瞳に、さらさらの茶色い髪。色白で頬はほんのりとピンク色に色づいた、快活で愛らしい少女。

 明るく笑う彼女を見たときに、思った。


 ──この子を完全に屈服させ、自分の支配下に置きたいと。


 だが、気の強いリディアはなかなかおとなしくセドリックの言うことを聞かないどころか、生意気にもときには彼に諫言してきた。

 だから、セドリックはグリーン子爵と一緒に彼女の自尊心を傷付けることにした。自分など取るに足らない人間だと思わせ、セドリックなしでは生きられないと洗脳するためにだ。 


 リディアがグリーン子爵に勘当されたときは、喜びで胸が震えた。追い詰められたリディアはセドリックしか頼る人間がおらず、彼が婚約破棄を申し出たらなんでもするから捨てないでくれと泣いて縋ってくるに違いないと確信していた。

 

 ところがだ。

 リディアはセドリックの婚約破棄の言葉を聞いても表情すら変えず、あっさりと彼の元を去っていった。


 町はずれにひとりで住んでいる愚かな彼女に懺悔するチャンスを与えようと、何度か偶然を装い町で遭遇するよう仕向けた。それでもリディアはセドリックに縋ってこない。


(よりによってあんな若造に、しかもフォシニに慰めを求めるとは)


 落ち着きかけていた怒りが再燃する。


「リディア。きみは私の支配下にいるべきなんだ」


 今からでも泣いて縋って何でも言うことを聞くと許しを請えば、セドリックは彼女を愛人として受け入れてやるつもりだ。そして最初は優しく、徐々にじわりじわりと痛めつけて、完全にセドリックに依存させてみせよう。


「リディアがなんでお前の支配下にいるべきなんだよ? あんた、マジで頭いかれてるな」


 ふいに背後から声がしてセドリックはハッとする。

 いつの間に現れたのか、そこには昼間リディアと一緒にいた若造──レイがいた。


「どこから入り込んだんだか。自分からのこのことやってくるとは貴様、よほど死にたいようだな」

「んー。まだ死ぬ予定はないかな。リディアと一緒にいたいから。でも、あんたは二度とリディアの前に現れないようにしないと。リディアは二度とあんたに会いたくないんだって」


 レイはくすっと笑う。


「ふざけるな!」


 カッとなったセドリックはとっさに魔法を使おうと腕を振る。しかし、何も起こらない。


(そうだった。魔力が切れだ)


 フォシニを殺してしまったのは、早計だったと後悔する。


「なーに、今の? 魔法、使えなくなっちゃったの?」


 レイはセドリックを挑発するように、せせら笑う。


「黙れ!」


 カッとなったセドリックは腰にぶら下げている銃を手に取ると、それをレイに向ける。最近出始めた最新の武器で、入手するために大金をはたいたものだ。


「フォシニごときが私に楯突いたことを、あの世で後悔するんだな」


 引き金を引くのと同時に、耳をつんざくような爆発音が響いた。

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