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無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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2.リディアとレイの共同生活(3)

「黒髪の青年と言えば、リディアは最近噂になっているイケメン君のことはもう見た?」

「最近噂になっているイケメン君?」


 リディアは首を傾げる。

 

「私も直接見たことはないんだけどね、最近時々ふらっと現れては買い物していくらしいのよ。二十歳すぎ位の黒髪の男の子らしいわ。すらっとしててかっこいいって若い子たちに噂になっているみたいよ」

「……へえ」


(それって、レイなんじゃ?)


 なんとなく嫌な予感がした。

 リディアはイマンから買い取り額である7キャラットを受け取ると、レイが先に買い物している辺りに向かう。


 食品店の軒先に人が見えて、リディアは目を凝らす。レイが店員とおぼしき女性と話していた。


「これ、もう少し安くならないかな?」


 レイは芋を手に店員の女性に尋ねる。


「レイ君のお願いなら少しおまけしちゃおうかしら」

「いつもありがと」


 八百屋の店番をする女性がおまけの芋を袋に入れると、レイはそれを受け取ってふわりと微笑む。女性の頬がほんのりと赤くなった。


「また来るね」

「いつでもお待ちしてますよ」


 普通に話しているだけなのに、レイが言うとなぜか恋人に囁いているかのように聞こえる。


(……恐るべし、天然のたらし)


 本人にその気はないのだろうが、完全に女性を手玉に取っている。かくいう自分も住む場所を提供している時点で、既に懐柔されているのだろうか。


「あの人、かっこいいね」

「本当、素敵だわ」

「声かけてみる?」


 リディアの近くを歩いていた女性たちがこそこそと話している会話が聞こえる。

 そのとき、レイが視線を上げた。リディアの姿をとらえたとたん、レイはうれしそうに表情を綻ばせる。


「リディア!」


 名前を呼ばれ、リディアはドキッとする。

 レイはまっすぐにリディアに近づき、たくさんの野菜が入った袋を差し出した。


「リディア、見て。この芋、1キャロットで買ったんだよ。それに、こっちも。凄いでしょ」


 レイは褒めてもらえるに違いないという期待を込めた目でリディアを見つめる。家の中であろうと外であろうと、これがレイの平常運転なのだ。


「うん、凄いね」


 リディアは苦笑いする。

 レイに買い物を任せると掘り出し物をよく見つけてくると思っていたが、まさか店員さんにおねだりしてまけてもらっていたとは。絶対にリディアにはまねできない芸当だ。


「あとは鶏肉だよ。肉、いるでしょ?」

「うん」

「じゃあ、あっちだね」


 レイは自然な所作でリディアの手を引く。歩き始めたそのとき、遠巻きにリディア達のやり取りを見ていた女性グループのひとりが口を開いた。


「あれって……無能魔女じゃない?」


 ──無能魔女。


 その言葉が聞こえた瞬間、胸がドクンと跳ねた。

 父であるグリーン子爵はいつもそう言って、リディアを激しく罵倒した。そのときの恐怖と悲しみが甦る。


「え、あの人が? お母さんに聞いたことがあるわ。魔法使いなのに魔法を使わないから親に勘当されて、今は町外れの森に住んでるって。魔法使いなのに力を人のために使わないなんて、酷いわね」

「ほんと、無能魔女のくせに、若い男を侍らせていい気なものね」


 若い女性達は急に盛り上がり始める。人の陰口は蜜の味、ということなのだろう。


 リディアはぐっと唇を引き結ぶ。


 聞こえないふりをするのは得意だ。

 実家を追い出され、幼少期に決められた婚約も破談になったリディアにとって、陰口は日常だったから。実家を出て一人ぼっちだったリディアに手を差し伸べてくれたのは、たった一人だけだった。リディアはその人から薬の調合を教わり、手に職をつけたのだ。


「リディア? どうかしたの?」


 レイは突然立ち止まったリディアを、不思議そうに見つめる。


「ううん、なんでもないよ」


 はっとしたリディアは努めて明るく答える。

 レイには、こんな暗い過去を知られたくなかった。


「さっさと買い物を終えて家に帰ろう」


 リディアはレイの手を引く。 


 この辺は貴族御用達のブティックも多いので、社交界に出入りしている人もいる可能性がある。彼女たち以外にも、リディアがグリーン子爵家から勘当された過去を知る人がいてもおかしくないのだ。


(あとは肉を買うだけ。さっさと帰ろう)


 そう思ったのに、悪い偶然は重なるものだ。


「おや。リディアじゃないか?」


 背後から聞き覚えのある声がして、リディアはぎくっとする。


 恐る恐る振り返ると、リディアがもっとも会いたくないと思っている人のひとりがこちらを見つめていた。


「セドリック様……」


 整えられた薄茶の髪。

 こちらを見つめる薄茶色の瞳。

 そして、すっと背筋が伸びた端整な立ち姿。


 見るからに貴族の優雅さを纏った彼はアルバーン侯爵家嫡男であり、かつてのリディアの婚約者でもあるセドリック・アルバーンだ。

 ちょうど馬車を降りたところのようで、傍らには豪奢な馬車が停まっている。


「やはりリディアか。こんなところで奇遇だな」


 セドリックは口もとに微笑みを浮かべ、リディアのほうに近づいてくる。

 

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