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【書籍化決定】無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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8.あなたと一緒に(5)


 ◇ ◇ ◇


 リディアが消えた直後、レイは混乱していた。

 すぐにしゃがみ込んで地面を確認するが、転移陣は既に消えたあとだ。


「リディア! リディア!!」


 自分が付いていながらなんたる不覚かと、レイはぐっと唇を噛む。


 黒幕がレイの予想通りの男であるなら、彼はリディアを殺すことに躊躇しないだろう。もしかしたら、散々いたぶって死にゆく様を楽しむ可能性すらあった。


「すぐに捜さないと」


 そのとき、「レイ?」と呼ぶ声が聞こえた。レイはハッとして顔を上げる。


「先生!」

「やっぱりレイか。お前、なんでこんなところにしゃがみ込んでるんだよ。今追われている身なんだぞ。わかってるのか!?」


 シリルはレイのほうに駆け寄る。


「……先生、リディアが誘拐された」

「は?」

「リディアが誘拐されたんだ! すぐに捜さないと!」


 レイは立ち上がる。


「おいおい、ちょっと待て。リディアが誘拐されたってどういうことだ?」

「今さっき、転移の魔法陣が展開されて強制移動させられたんだ。早く見つけないと」

「おい、待て。落ち着け」


 今にもどこかに行ってしまいそうな勢いのレイの肩を掴み、シリルは止める。


「離せ。いくら先生でも、邪魔する奴は容赦しない」

「待てって! お前、捜すっていっても心当たりはあるのか!?」

「…………」


 黙り込んだレイを見て、シリルは額に手を当てはあっと息を吐く。


「やみくもに捜す気だったのか?」

「もし俺が予想している人物──前のご主人様が首謀者なら、あいつはフォシニを閉じ込めておく地下室を持っているんだ。そこじゃないかと思ってる」

「ただ、地下室がどこにあるのかは知らないってことだな?」


 シリルに問いかけられ、レイはこくりと頷く。

 逃げ出したときは捕まらないように必死だったので、振り返って建物を確認したり、道を覚えたりする余裕はなかった。

 ふたりの話を聞いていたカーティスが、一歩前に出る。


「ひとつ確認させてください。あなたの前の主人は、この人ですか?」


 カーティスは、持っていた鞄から冊子を取り出すと、開いたページを見せるようにレイに差し出す。そこに書かれていた挿絵を見て、レイは目を見開いた。

 忘れるはずがない。自分をフォシニにして散々魔力を奪い続けた男が、そこには描かれていた。


「なんでこの男が?」

「やはりそうですか。これは、魔法庁長官のダリウス・クロウウェルです。これは、つい最近開催された魔法学会で議長を務めた様子が、学会誌に掲載されたものです」

「ダリウス・クロウウェル……」


 レイはさんざん自分を苦しめ続け、リディアまでもを奪った宿敵の名を呟く。絶対に忘れないように。


「もしこの男に間違いないなら、もしかするとレイさんの言う場所はこの塔の中かもしれません。地下に、長官専用の研究室が用意されていますので」


 カーティスは白亜の塔を指した。


「すぐに助けに行かないと。あいつ、善人づらしているけど実際はクズなんだ」

「あー、それには俺も同意する。丁寧な態度なのは認めるが、一緒に働いているとき『平民のくせに』ってこっちをバカにしてるのが言葉の端々から伝わってきたもんな。それに、フォシニを家族だと思っていると公言している割に、フォシニの地位向上に向けた活動は一切しない」


 シリルがレイに同調する。


「行きましょう。私が案内します」


 カーティスが言った。



 現役の王宮魔術師であるカーティスがいるおかげで、一行は難なく塔の中に入ることができた。

 カーティスに案内されて、レイは廊下を進む。

 突き当りにぶつかると、ドアがあった。先頭を進むカーティスがドアを開けようとするが、開かない。


「魔法錠か。厄介だな」


 シリルがカーティスの脇からドアノブを眺め、片手で顎を擦る。

 魔法錠とは魔法を使った鍵のことで、登録してある魔力に反応して自動的にドアが開錠される。つまり、登録されていない魔力は反応しないのだ。


「どいて」


 レイは前に出るとドアノブに触れる。カチャッと音がして、鍵が外れた。


「開いた! そうか、ダリウスはレイから魔力供給を受けていたから、登録されていた魔力もレイの魔力に酷似してたんだな」


 シリルは興奮気味に言う。


 中に入ると、ひんやりとした空気が皮膚を撫でる。

 窓のない石造りの部屋。レイにとって、二度と足を踏み入れたくない場所だ。


「リディア!」

「レイ!?」


 リディアは部屋の片隅に座り込んでいた。頬には先ほどまではなかった擦り傷と痣があり、足首には足枷が付いていた。服も薄汚れ、裾の一部が裂けている。


 その姿を見た瞬間、頭に血が上る。


「あのくそ野郎。リディアにこんな酷いことをするなんて──」


 レイはリディアに駆け寄ろうとする。そのとき、リディアの首に絡まる魔法の紐を見てハッとする。


「リディア、それ……」

「動くな」


 低い声がした。

 いつの間にか、ひとつだけしかない部屋の入り口に、ダリウスが立っていた。



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