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【書籍化決定】無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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8.あなたと一緒に(4)

 震える手に気付いたレイが、リディアの手に自分の手を重ねる。


「リディア、大丈夫だよ」


 安心させるような、優しい声。手元が鈍く光り、レイの魔力が自分に流れ込むのを感じた。温かくて、安心するような心地よい魔力だ。


「……レイ。大丈夫?」


 魔力を奪いすぎてレイが体調を崩していないか、心配でならない。不安な顔をするリディアとは対照的に、レイはけろっとした顔をしていた。


「全然大丈夫。ほぼ魔力減ってない。それより、見て。リディアの付けてくれた刻印」


 レイは自分の脇腹をリディアに見せつける。

 そこには、フォシニの刻印がしっかりと刻まれていた。


「ははっ。リディアは刻印も可愛いね」

「え⁉ 普通の刻印と一緒のはずよ?」

「リディアが付けたと思うと可愛く見えるんだよ」


 レイは笑う。

 そんなバカな、とリディアは思ったが、レイはいたく気に入っている様子だ。そして、リディアのほうを見てまた満足げに笑う。


「うん。思った以上にいい。リディアに俺の魔力が満ちているの、すごくいいね」


 レイは魔法使いからフォシニの魔力を感じることができる。リディアには全くわからないが、今の自分からはレイの魔力の気配が漂っているようだ。


「なんでそんなに上機嫌なのよ」

「だって、リディアから俺の魔力が漂ってるって最高だろ。俺のものって感じがする」

「私はものじゃないわ」

「わかってるよ。でも、嬉しいんだ。俺、もしリディアが自分以外の男の魔力を漂わせていたら、そいつのこと殺すかも」

「冗談でもやめて」

「リディアが嫌なら、半殺しくらいでやめる」


 冗談じゃない気がするから恐ろしい。

 リディアはふうっと息を吐いてから、レイを見つめる。 


「ねえ、レイ」

「何?」

「絶対に、自分だけ犠牲になったりしないでね」

「リディアがそう言うなら」


 レイは少ししゃがむと、リディアのこめかみに唇を寄せた。


「今から、魔法庁へ行こう」


 レイはリディアの手を取る。


「リディアを悲しませる要因になるものは、俺が全部潰すから」



 リディアとレイは一緒に魔法庁へと向かった。

 魔法庁は王都の中心、王宮のすぐそばにそびえている。

 

 リディアはすうっと息を吸い、白亜の塔を見上げる。いつも遠くから眺めるだけの美しい建築物は、今日は真っ白な怪物のように見えた。


「ここからどうすればいいんだろ?」

 

 リディアはレイに尋ねる。

 魔法庁に来いとは書いてあったけれど、誰を訪ねるかは書かれていなかった。訪問先もわからないまま突然訪ねて行って大丈夫なのだろうかと不安になる。


「ひとまず、誰かに声をかけて──」


 リディアは辺りを見回した。そのとき、足元が鈍く光る。


「え?」


 足元を見るのとほぼ同時に、レイが「リディア!」と叫ぶのが聞こえた。必死な様子のレイがリディアに手を伸ばしているが、その手がリディアに触れるより先に、地面が抜けるような浮遊感を覚えた。


(落ちる!)


 落とし穴にでも落ちたかのような感覚。周囲が一瞬で暗闇になる。その直後、ドスンと床にたたきつけられるような衝撃を受けた。


「痛ったー! ……ここは?」


 ハッとしたリディアは周囲を見回す。


 さっきまでいた塔の前とは、明らかに違う景色。

 窓ひとつなく、部屋の四方は石が積まれた壁で覆われている。ドアは鉄製の扉がひとつだけ。

 地下室なのか、ひんやりと湿った空気にカビの匂いが混じっていた。


 壁には吊り下げランプが付いており、薄暗い中でもなんとか周囲を目視することが可能だ。

 部屋の隅には木製の質素なベッドと、小さな机がひとつ。そして、注目すべきは壁に付いた太い鎖だった。鎖の先には、足枷と思しき金具が付いている。


「何ここ? ……もしかして、牢獄?」


 明らかに誰かを閉じ込めていたと思しき室内を見回し、リディアは眉を顰める。


「レイ……。レイ!」


 レイを呼ぶが、反応がない。きっと、先ほど足元が光った際にリディアだけが強制転移させられたのだろう。最後に見た、レイの必死な顔が脳裏に蘇る。


(きっと心配して私を探しているよね。戻らないと)


 ここがどこだがわからないが、ひとまずこの薄気味悪い部屋を出よう。

 リディアはそう思って、部屋にひとつしかないドアのドアノブに手を伸ばす。

 そのとき、ドアが向こう側から開かれた。


「あなたは……」


 そこに現れたのは、王宮魔術師の衣装を着た黒髪の男性だった。年齢はシリルより少し上に見える。

 髪の毛は後ろで結んでおり、その身なりからある程度の地位のある人物に見えた。


「はじめまして。リディア・グリーンさん。会いたかったですよ」


 男はリディアを見て、にんまりと口の端を上げる。


「あなたがイマンさんを誘拐した犯人ね! イマンさんを返して!」

「誘拐とは人聞きの悪い。正当な手続きを踏んで拘束したのです」

「何が正当な手続きよ! レイは反逆罪なんて犯してないし、イマンさんも何も関係ないじゃない!」


 リディアは男を睨みつける。

 王宮魔術師の衣装を着ているのだから、王宮魔術師なのだろう。どこかで見たことがあるような印象を受けたが、どこで見たのかは思い出せない。


「ふむ。随分と騒がしい女性ですね。少し黙っていてもらいましょうか」


 男が一歩近づいて、リディアは後ずさる。


「私をどうする気⁉」

「あのフォシニはあなたに懐いているようですので、利用させていただきます。なに、殺しはしませんよ」


 今はね、と最後に付け加える声が聞こえた。『あのフォシニ』とは間違いなくレイのことだろう。


(聞いていた通りのクズ野郎だわ!)


 こんな奴に利用されるなんて、絶対に許せない。

 

(なんとかして逃げないと)


 ざっと部屋の中を見回すが、武器になりそうなものは椅子ぐらいしかない。

 リディアは咄嗟に走って椅子を掴む。持ち上げて殴りかかろうと振り返ったら、楽しげに笑う男と目が合った。


(こいつ、なんで笑って──)


 リディアの意識は、そのまま闇に呑まれた。


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