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【書籍化決定】無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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7.対決(1)

 カーティスが魔法庁にレイのことを報告したのは、リディアの家を訪ねた翌朝のことだった。


 白亜の塔の上層階、重厚な扉の前で、カーティスは一度だけ息を整えてから扉を叩いた。


「入ってください」


 中から聞こえた声はとても丁寧なのに、どこか冷たく聞こえる。


「失礼いたします」


 カーティスは執務室へ入る。

 広い部屋の奥で、この部屋の主であるダリウスが書類に目を通していた。


 魔法庁の頂点に立ち、いつも穏やかで誰に対しても丁寧。慈悲深く聖人だと評判の天才魔術師。


 だが、カーティスはふとしたときに彼が見せる冷たい表情が気になり、苦手意識を持っていた。何を考えているのか腹の底が読めず、気味悪ささえ感じる。


「カーティスさん。どうかしましたか?」


 ダリウスは読んでいた書類から顔を上げると、カーティスを見つめる。


「ご報告がございます。先日の王宮魔術師採用試験で首席をとりながら辞退した青年についてです」


 ダリウスの指が、ぴくりと動く。


「続けてください」

「昨日、私はかの青年に会って参りました。その結果、彼は亡くなった第二王子である可能性が極めて高いと考えます」


 ダリウスは表情ひとつ変えず、カーティスを見据える。その反応に、カーティスは戸惑った。


(驚かないのか?)


 この報告をすれば誰もが驚くと思っていたので、予想外の反応だ。


「カーティスさん。あなたがそんなバカげたことを言い出すとは驚きです。いかなる魔法にも不可能なことがふたつあります。死者を生き返らせることと、時間を巻き戻すことです。これは魔法学校の1年生で習う、基本中の基本ですよ」


 ダリウスは静かに、カーティスを諭すように言う。


「しかし、年頃も性別も、見た目も第二王子と一致しています。確度は高いかと」

「見た目?」

「銀の髪に青い瞳でした」

 

 ダリウスははぁっと息を吐く。


「そこから間違っています。王宮魔術師採用試験を受けに来た青年はグレーの髪です。第二王子を騙るために染めたのでしょう」

「ダリウス長官! 話を聞いてください。彼は第二王子に間違いありません。証拠もあります!」


 カーティスは負けずと言い返す。

 ダリウスはスッと目を細めた。


「……根拠とは?」

「王族に施される加護の痕跡です。私はかつて、側妃殿下のお腹にいた御子に加護を授けました。あの青年から、同じ魔力の残滓を感じました」

「記憶違いでしょう。もう、二十年以上前のことです」

「いいえ」


 カーティスは首を振る。


「私は、王族の加護を何人にも施したわけではありません。後にも先にも、側妃殿下の御子である第二王子殿下と第三王子殿下のふたりのみです。間違えるはずがありません。第三王子殿下はご健在ですので、彼は第二王子殿下です」


 ダリウスはゆっくり顔を上げた。

 黒い瞳が、カーティスを見据える。


「その青年は、第二王子を名乗ったのですか?」

「いえ。本人に自覚はありません。しかし、間違いないかと」

「話になりません。第二王子は亡くなりました」

「しかし、確認は必要です!」

「必要ありません」


 これまでダリウスから聞いたことのない、冷たい声だった。


「何度言わせれば気が済むのですか。第二王子は、すでに亡くなっています。死亡確認には私が立ち会ったのですから間違いありません」

「ですが――」

「公式記録にもそう残っています」


 ダリウスはトンっと書類を机に置く。


「カーティスさん。きみは少し疲れているようだ。少し休んではどうかな?」

「…………」


 その態度に、カーティスはダリウスは何を言っても話を聞く気がないことを悟った。


「それにしても、問題ですね」


 ダリウスは嘆息する。


「偽物の王族として利用されかねない不安分子を、野放しにしておくわけにはいきません」


 カーティスは眉をひそめる。


「彼自身は何もしていません」

「ならば、周囲の者が利用しようとする前に、不安の芽を潰すべきですね」

「長官! 正気ですか!?」


 思わず声を荒らげる。レイ自身は何もしていない。王族を騙ってもいないし、城に戻ることも望んでいない。それなのに、ダリウスの発言はまるでレイの存在を消してしまいかねない不穏さを孕んでいた。


「カーティスさん。言葉使いには気をつけてください」


 ダリウスの口元に、薄い笑みが浮かんだ。


「平民出身の君が、王族の血を見抜いたと本気で思っているのですか?」


 侮蔑を含んだ言葉だった。

 

 貴族出身者が圧倒的に多い魔法庁で身分の低さを理由にバカにされるのは慣れている。けれど、ダリウスからここまであからさまに侮辱されたのは始めてだった。


 

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