1.出会い(1)
新連載です。よろしくお願いします!
大陸の西方に位置する豊かな国家、アルファール。
木枯らしが冷たく感じる11月のある日、まだ生まれたばかりの王子が死んだ。
「可愛そうにねえ」
「でも、これでよかったんじゃないかい? 身分の低い側妃が産んだ王子なんて──」
「なんでも、正妃様が手を回したって噂があるらしいわよ」
「っし! 誰が聞いているかもしれないのに、滅多なことを言うもんじゃないよ」
水汲み場の脇を一台の豪奢な馬車が近づいてくると、噂話に興じていた女達は、視線を送り合いながら声を顰めた。
馬車に乗りながら耳を澄ませていたリディアは、隣に座る父──グリーン子爵のほうを振り返る。
「ねえ、お父さま。王子様はどうしてなくなったの?」
「さあな」
「病気かな?」
「そうかもしれない。昨日までは元気だったのに、突然のことだったらしい」
「ふうん」
どこか面倒そうに答える父の様子を見て、リディアは口をつぐむと再び窓の外に目を向ける。町を往来する人々は、いつもと変わらぬ様子だ。
まるで、王子など元から存在しなかったかのように。
「あっ」
黒髪の少年の姿が見えて、リディアは小さな声を上げる。
その後ろ姿が、リディアの大切な友人──ジェイのものとよく似ていたから。
「……ねえ、お父さま。ジェイは──」
「リディア。あの子のことはもう忘れなさい。あれは使い物にならなくなったからいなくなったんだ」
心底うんざりしたように答える父の態度に、リディアはショックを受けた。ジェイが死んだことなど、どうでも良さそうな言い方だ。
いや、事実として父にとってはどうでもいいことだったのだろう。魔力供給用の奴隷など、いくらでも代わりが効くのだから。
「……お父様。私やっぱり行きたくない」
「そんなことを言うな。きっとリディアが気に入るフォシニがいる」
「そうじゃなくって、私はフォシニなんていらな──」
言いかけた台詞を最後まで言うことは叶わなかった。父に思いっきり頬を引っぱたかれ、頬に鋭い痛みを感じる。
ジンジンと痛む頬に手を添え、リディアは呆然と父を見た。
「お父様……」
「いい加減にしなさい。お前が落ち込んでいたからこれまで黙っていたが、たかがフォシニがひとり死んだぐらいでいつまでもぐずぐずと情けない」
怒りに満ちた父の顔を、リディアは生涯忘れることができないだろう。
──たかがフォシニ。
父にとってはそうでも、リディアにとっては違った。ジェイはかけがえのない友達だった。
「ふっ、ふぇ」
気を抜くと大声で泣きだしてしまいそうで、リディアは必死に涙をこらえる。声をあげて泣いては、また父に怒られてしまう。
堪えきれない涙で滲む景色の端に、弔旗が映る。
(王子様は、死者の世界でジェイに会えるのかしら)
もしそうなら、ふたりには友達になってほしいと思った。
ジェイはとても優しい少年なので、きっと王子のいい遊び相手になってくれるはずだ。
(フォシニなんて制度、なくなってしまえばいいのよ)
小さな手の両指を絡ませ、リディアはひとり祈りを捧げる。
小さな王子と大切な友人が、安らかな眠りに付けますようにと。
リディア・グリーン、五歳のときの出来事だった。




