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第20話 知夏_どの業界にも暗黙のルールは存在する

 このルールのおかげで一定の客がふるいに落とされる。自前の携帯電話を登録することを嫌がる客は思いのほか多い。

 しかし、唯一、携帯番号を登録することなく、お店を利用できるお客様がいる。それは、政治関係者や芸能関係などのVIP客だ。

 このようなお客様とお店の間には必ず中間業者が存在し、中間業者の個人情報をお店側が把握することにより、キャストを派遣する仕組みになっている。

 キャスト勤務だけだったら絶対に知りえない裏事情を知った時は、好奇心が抑えられず藤本店長を質問攻めにした。当然、守秘義務があるので詳細は教えてもらえないが、視察で東京にきた地方のお偉いさん達は複数人でキャストを交えて高級焼き肉、高級寿司に舌鼓した後に、気に入った子を部屋にお持ち帰りして大いに楽しむらしい。

 さすが、お偉いさんだけあって金払いが大変良く、チップもかなり弾んでくれるという。

 まぁ、そのチップの見返りとして本番行為を要求されるらしいが、私はその話を聞いて何とも微妙な気持ちになった。

 その女遊びに使用しているお金の出所は税金だろうか。風俗業界に身を置く者としては、お金を落としてくれてありがたい限りだが、納税者としてはなんとも微妙な気持ちになる。

 1回限りだとしてもかなり稼ぎの良い仕事には違いないが、私はその話をきいてVIP客はお断りするようになった。様々な事情があることは理解できるが、自分の身分を隠して遊びたがるお客様にはどうしても好意的な気持ちを抱くことはできなかった。

 世間一般的な方々が風俗嬢と聞いてどのようなイメージを抱くのかはなんとなく想像できるが、実は店によってサービス範囲は決まっている。

 風営法で本番行為、つまり挿入行為は禁止されている。そのためデリヘルに分類されている当店も、もちろん挿入行為は固く禁止されており、各店舗の店長からしつこいくらいにキャストにその旨を伝えている。

 ただしどの業界、職業にも暗黙の了解というものが存在するように、デリヘル業界にも追加料金を支払うことで本番行為が成立している。

 私が相手をした客の半分は本番行為を要求してきた。客から提示された追加料金は大体1万円。高ければ2万円を追加で出す客もいれば、5千円で要求してきた客もいた。客の要求を受け入れた後、満足すればさらにチップとして追加で1万だしてくれる客も一定数いた。

 5千円はさすがに安すぎるので基本は断り、1万円出す客はよっぽど無理じゃなければ基本受け入れた。他のキャストがどのように対応していたか知らないが、客が本番行為を要求する際に提示する金額は、今の店でも、過去にいた店でも平均して1万だったことから、これが客側からみた普遍的な相場なのでは、と思っている。

 デリヘル嬢と本番行為をするのは風営法で禁止されているのに、暗黙の了解どころか公の了解として本番行為を行っているのがソープ嬢である。

 ソープではお客様が入浴するのをキャストが手伝う、ということになっているので、入浴料という名目で料金を支払う。そして、風呂場で二人きりになった男女が何をしていようが、店側は知らない体になっているのだ。

 鼻で笑いたくなってしまうほどの、屁理屈としか思えない建前にアホくさ、と知った時には思ったが、この性産業が性犯罪数を一定数に留めることに貢献している、と今では思うようになった。



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