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ドラゴン娘、不死の龍と対峙する

 咆哮と共に、ファブニルの倍近く巨大な翼を広げる漆黒の龍。


 壁にもたれかかるように倒れていたファブニルは、身を起こして黒龍と対峙する。

 並び立つ巨影をマスターたちは見上げる。


「な、何が起きているのかね! なぜレナくんがドラゴンに!?」


 レナの本来の姿に、冒険者たちは息を飲む。

 そんな彼等の周囲をゾンビ化したならず者たちが囲み、一斉に襲いかかる。


 ファブニルと睨み合っていたレナだが、彼等のピンチに気づき、超極太の巨大な尻尾を思いきり地面に叩きつける。


 巻き上がる衝撃にゾンビ共は吹き飛ばされ、冒険者たちは何とか踏ん張る。


 地面に倒れ込むならず者たちの中に、塞がれていた退却ルートを見つけ出したハリスは、黒龍の肩の上からポーラを抱えたまま伝える。


「話は後だ! 俺達がこの龍を止める、だからマスターたちは避難を!」


「避難と言っても、町に安全地帯など……!」


 ならず者たちが侵攻を始め、絶望的な状況を吐露しようとしたマスター。


 だが彼はハリスの強い意志が籠った瞳を見て、気づく。


 彼は一瞬考えると、周囲のならず者ゾンビ達が起き上がるより早く、冒険者たちに指示を出す。


「我々は町に残る者たちと共に、一度世界樹へ避難する!」


「し、しかし、そうしたら町は!?」


「癪ではあるが命あっての物種、ありったけの食料や資材を持って避難するんだ! 町は一度くれてやる!」


 苦渋の選択に歯噛みするマスター。

 しかし彼の意思は冒険者たちにしっかりと届き、ゾンビ達の隙をついて走りだす。


 倒れるゾンビ達も身を起こし、彼等のあとを追いかける。


 眼下の光景に安堵を覚えるハリス。

 瞬間、レナの肉体を衝撃が突き上げ、彼は足をふらつかせる。


 なんとか鱗に掴まり状況を見ると、ファブニルが彼女に頭突きを食らわせていた。


「ヒャッホー! モンスター大決戦だ! 正体に気付いた時から、どうしてもやりたかったんだよ!」


 ファブニルの上で瞳を輝かせ、満足げなヴァイス。

 黄金の龍は正面から見た蛇の顔のような張り付いた笑みを浮かべ、鋭い歯を剥き出しにする黒龍と額をぶつけ合う。


 すると直後、衝撃によってポーラが意識を取り戻す。

 ハリスの腕の中で目を開けた彼女は、眼前に広がる光景に放心する。


「何が……起きているの……」


「気づいたか、ポーラ」


 意識を取り戻したポーラに、ハリスは全てを説明する。

 金色の龍と組み合い、力比べをする黒龍の正体を知り、悟った表情を浮かべる彼女。


 ハリスはそんな彼女から、ファブニルを駆るヴァイスに視線を上げる。


「アイツと少し話してくる」


「……わかった。気をつけて」


 ポーラの忠告に頷き、ハリスはレナの肩から跳躍する。

 その背を見つめるポーラだが、直後に走る二度目の衝撃に、必死に黒曜石のような鱗へしがみつく。


 彼女の足元では、黒龍とファブニルが、前脚で殴り合いを始める。

 鎧のような黒い鱗を纏ったレナは、刺々しい拳で金色の肉体を撃ちながら、ヴァイスへ仕掛けるハリスを橙色の瞳に映す。


 彼がリベイルケインを握り、飛びこみながら振り下ろすと、ヴァイスも腰から剣を抜いて受け止めた。


「いいのかい? パートナーから離れて」


「離れた程度で俺とレナの繋がりは消えない。お前と違ってな・・・・・・・


「ふぅん、やっぱり気づいてたんだね」


 ニヤリと口角を上げ、ハリスを弾き上げる彼女。

 彼は咄嗟にリベイルケインを伸ばし、ヴァイスの腕に絡め、落下しそうになる自分を彼女の元へ引き寄せる。


 迫りくるハリスへ、ヴァイスは刃を振りおろす。

 しかし彼はその刃に腕をかざし、無傷で受け止めた。


「へえ、君の場合はあのドラゴンの強度まで引き継ぐんだ。ボクなんて筋力と能力だけなのに」


「俺の『シンクロ』をどう真似たかは知らないが、本職を舐められては困る」


「さすがだね、でも負けないよ?」


 本来ならば敵対者にのみ使う『シンクロ』を、レナに使用することで、純粋な肉体強化を施すハリス。


 それはある意味、ヴァイスを説得する方向での対話を拒絶しているという事でもあった。


 ファブニルの力を手に入れた彼女と、正面から打ち合うハリス。

 しかしヴァイスはいくら傷つこうが出血せず、すぐに回復してしまう。


「ね? ボクにはファブニル譲りの不死の再生力がある。負けるワケないだろう?」


「だがそれを倒したのが、俺のパートナーらしいぞ?」


 剣と硬鞭とをぶつけ合う二人の足元で、二体の龍の戦闘も激化する。

 尾をぶつけ合い、拳と翼で殴り合い、互いに牙を向け合う。


 肉体を砕かれるたびに再生を続けるファブニルに対し、レナの鱗は一切の傷を負うこともなく、超常的な堅牢さを見せる。


 次第に粉砕された黄金の鱗が、花吹雪のように二人の元へ舞い散る。


「ヴァイス、お前の目的はなんだ? どうやってファブニルを復活させた?」


「気になるかい? 教えてあげるよ」


 互いの武器をぶつけ合いつつ、ヴァイスは彼の耳元でささやく。

 彼女の動機を聞いたハリスは、信じられないかのように目を剥くと、グッと歯を食いしばりながら声をもらす。


「そんな幼稚な事の為に、これだけ大勢の人間を巻き込んだのか?」


「そりゃそうさ。こうして君みたいな人らは、ボクの理想を語ったら全力で止めに来るだろう? だから止められないような騒乱を作ったのさ」


「ポーラから聞いてはいたが、ここまで稚拙とは……」


「何とでも言うがいいさ。ボクには見たい光景があるんだ」


「ファブニルとレナを再びぶつかり合っているのも、お前が見たかったからというくだらない目的の為だろう」


「……その通りさ」


 絡めるように彼を硬鞭ごと弾き上げるヴァイス。

 宙に浮くハリスの体に、彼女は渾身の刺突を見舞う。


 ハリスの身体は傷つかないが、強い衝撃が肉体の内側へ伝わり、彼に鈍痛を覚えさせる。

 苦痛で表情を歪める彼に、ヴァイスは煽るように告げる。


「君の仲間の魔法使いには世話になったよ。ファブニルを復活させるだけの魔力をもらえたからね」


「まさか、リンゴの不調は……!」


「そんな名前なんだ、興味ないけど。でもおかげで、ボクの魔力を全部集めても復活させられなかったファブニルも、しっかり起動できたよ」


 うすら笑うヴァイスの喉に、ハリスは怒りでリベイルケインを突き入れる。

 それでも彼女のお喋りは止まらない。


「アンデッド用の防護魔法、他の魔術師も使ってたけど、元はあの子の魔術でしょ? おかげであの子の身体まで逆探知して、魔力を吸い上げられたんだ」


「お前……ッ!」


「ボクの代わりのお礼言っといてよ、まあ君とあの子が無事に再会できたら……だけど」


 彼女の言葉に、ハリスは普段の自分を忘れ、一瞬怒りに飲み込まれる。

 鞭を引き抜いた彼は拳を握りしめ、勢いのままヴァイスを殴り飛ばした。


 強烈な一撃に倒れた彼女の胸に、ハリスはもう一度硬鞭を突く。

 そしてヨルムンガンドを倒した方法で、ヴァイスへ自身の魔力を流し込みはじめるが、彼女は忠告する。


「無駄だよ。ボクに入ってくる魔力は一定量ずつ、ファブニルに供給される。許容量を超えることはまずない」


「……お見通しか」


「伊達に勇者はやってないよ。リンゴって子の魔力も、今この瞬間だってボクが吸い上げて、ファブニルに送っているんだから」


 勝利を確信し、余裕を浮かべるヴァイス。

 彼女はハリスが作るであろう苦悶の表情を、いつもの出歯亀気分で待ち続けた。


 しかし彼は、ヴァイスの意図とは真逆に、不敵な笑みを浮かべた。


「……聞こえていたか、リンゴ」


 彼の呟いたその一言に、素っ頓狂な顔をするヴァイス。

 だがその瞬間、彼の言葉に応じるように、閃光がファブニルの頭を撃ち抜く。


 極太の閃光を顔面に食らい、地面に倒れる黄金の龍。

 崩れるファブニルから振り落とされ驚愕するヴァイスを、跳びながら見下ろしたハリスは、視線を世界樹へ向ける。


 そこには研究者や他の冒険者、町の人々と共に避難したリンゴが、多くの魔術師に支えられながら、赤らんだ顔で杖をかかげる姿があった。


「そういうことでしたか……私も、油断してしまいましたね……」


 ハリスの言葉に返事をするように呟いたリンゴは、一矢報いて、今にも意識を失いそうな顔にぎこちない笑みを浮かべた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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