ドラゴン娘、決断する
金色の巨龍が、防壁の穴を埋めるように侵入してくる。
体格は以前に町を襲った巨人よりさらに高く、ハリス達も怪物を見上げる。
「ば、バカな! その壁は巨人でも破壊できないと、言っていたぞ!」
顔を青ざめさせて叫ぶマスター。
ヴァイスは彼女をあざ笑い、ファブニルの上から見下ろす。
「伝説の龍とそこらの巨人を一緒にしないでよ、ねぇ?」
「くっ……!」
ヴァイスの言葉にマスターは苦しげな声を上げる。
だが彼女の瞳は、とっくのとうにレナへと興味を移していた。
「ファブニル……まさか貴様と、このような形で再会を果たしてしまうとは」
因縁の敵であるにもかかわらず、憐れむようなレナの言葉。
しかし感傷深い再会は許されず、ヴァイスは大きく前へ手をかざすと、自身の駆る黄金の龍へと命じる。
「じゃあさっそく……ここにいる連中、全員踏み潰しちゃおっか」
彼女の言葉に操られるように、ファブニルは足をゆっくりと持ち上げる。
空から注ぐ光は遮られ、多くの冒険者たちの頭上が影に隠れる。
咄嗟に逃げだす彼等だが、足は無慈悲にも振り下ろされようとする。
そこにハリスは指鉄砲をかまえる。
「『ステラキャプチャー』!」
指先から放たれた魔法陣が、光の鎖と共にファブニルの足を拘束する。
それを眼下に見下ろすヴァイスは不満たらたらに叫ぶ。
「えぇー!? そんなこともできるなんて聞いてないんだけど!」
「俺はモンスターテイマー。初戦の戦いこそが応用で、こっちが基礎だ」
「むうぅぅぅぅ……ま、いいけどさ」
キヒヒと不気味な声を上げ、ヴァイスはいつもの張り付いた笑みを浮かべる。
それでもハリスの拘束が成功したことには変わらない。
彼の機転で生まれた大きなスキに、ポーラが叫ぶ。
「みんなは町へ退避して!」
「あの龍はどうするつもりかね!?」
「あたし達で何とか食い止めるから、早く!」
必死に訴えるポーラに、ハリスとレナも同意するように頷く。
崩れた防壁をくやしそうに一瞥し、逃げだすマスターと冒険者たち。
そんな彼等を、ヴァイスは凍るような視線で見下す。
「逃がすわけないだろう? ねぇ、みんな」
軽く手を持ち上げ、パチンッ! と指を鳴らす。
その途端、壁に空いた大穴を飛び越え、ならず者たちがなだれ込んできた。
『この前はよく一方的にやってくれたなァ! あの時の借り、返しに来たぜェッ!』
『略奪だ! 奪って奪って奪い尽くす!』
『生き残れると思うなよテメェ等アアアッッッ!』
普段の凶悪さに輪をかけて攻撃的な彼等。
斧を持った一人の男は、すさまじい跳躍力で冒険者に斬りかかる。
冒険者はそれを剣で止めるも、直後に声をもらす。
「な、なんだこの力は……!?」
『どォした? まだまだ余力は残ってるぜ!?』
少しずつ力を籠め、ギチギチと斧を押し込んでいくならず者。
それを見ていた魔術師含む二人の別の冒険者が、助太刀してならず者を引き剥がす。
地面に倒れた男は、関節の曲がる方向を無視し、くねくねとした奇妙な動きで立ち上がる。
異様な状況にハリスは冒険者と共に戦慄する。
そんな彼に死角から三つの影が襲いかかる。
『死ね! クソテイマー!』
反応したハリスは、一撃目、二撃目を回避し、三度目の攻撃をリベイルケインで受け止める。
彼の目の前にいるのは、酷く血色の悪いリーダーだった。
「まさか、ゾンビになったのか?」
ハリスの問いに、口角を上げて瞳を歪めるリーダー。
彼と対峙するハリスの背後からは、ゾンビになることで強化した大男と髭の男も迫りくる。
しかしそこにレナが割り込み、尻尾で二人を薙ぎ払う。
背中を守られたハリスは、一気に力を込めてリーダーを弾く。
しりぞけた三人は、ぐにゃりと体を回して立ちあがる。
そんな彼等を見るハリス達の視界には、次第に劣勢になる冒険者たちの姿も映っていた。
「『サンクチュアリ』を使え! ゾンビならきっと効くはずだ!」
「ダメだ! 三人で一人を相手するのがやっとで、とてもあんな魔術、集中して使えない!」
「くっ……! ならせめて、発動の隙を作るんだ!」
互いに指示を出し合い、励まし合い、持ち応える冒険者たち。
徐々に激しさを増していく戦場を、ヴァイスはファブニルの上から見物する。
……そんな彼女を強い衝撃が突き上げる。
ゆっくりと視線を落とすと、銀色の刃が、生えてくるかのように突き抜けていた。
「やるじゃないか、後輩ちゃん」
呟きながら振り向くと、ポーラの姿がそこにあった。
彼女はより深く剣を突き入れながら、光のない目でヴァイスを見る。
「こんなに嬉しくない言葉、初めて受け取った」
「ボクは純粋に褒めているのだけどね、後輩が育っている現状に」
あやすように語りかけるヴァイス。
歯を食いしばるポーラを見つめる彼女は、人差し指を立てて告げる。
「でも、状況を確かめることを怠ってはいけないよ? 今もほら」
突き抜けた剣を指さすヴァイス。
確かに体を貫いているはずの刃は、なぜか血濡れていない。
剣の柄にも血が滴ることはなく、気づいたポーラは驚愕する。
その一瞬の隙を突き、ヴァイスは体をひねって彼女の手から剣を振り解く。
「言ったばっかりだよ? 注意を怠ってはいけないって」
「な……っ!?」
不意を突かれたポーラに、思いきり蹴りを見舞うヴァイス。
ファブニルの肩から地面に落ちた彼女は、衝撃で意識が飛びかける。
見下ろすヴァイスは背中に手を回し、自身を貫く剣を器用に引き抜く。
「さすがにファブニルの加護があるといえ、痛いものは痛いんだ」
確かめるようにそう言う頃には、ファブニルの拘束は解かれていた。
足元に冒険者はいないが、代わりに勇者が地面に転がっている。
「数より質なら、こっちのほうが気持ちよさそうかな?」
宣言めいた声とともに、下ろされていくファブニルの足。
ハリスは再び『ステラキャプチャー』を放つため手を構える。
しかしそれよりも早く、彼の隣にいたレナが翼を広げ、飛び立つ。
彼女はポーラに迫る足の下に立つと、両腕を大きく掲げて受け止めた。
「ハリス様ッッ!」
歯を食いしばって耐えながら、鬼気迫る声で主人の名前を叫ぶレナ。
彼は襲い来るゾンビたちを薙ぎ払い、顔を上げる。
「どうした、レナ!」
「このままでは埒があきません! 一部の敵はすでに町へ向かっています!」
状況を確かめるように語ったレナは、覚悟を決めて告げる。
「今の私には、フェンリルから受け取った莫大な魔力があります! 敵が同じ龍である以上、使うしかありません!」
多くの人が戦う中で、堂々と彼女は言ってのける。
わずかな一瞬、手の空いた冒険者たちは、彼女の言葉に違和感を覚える。
いっぽうで全てを知るハリスは、決意のこもった彼女の言葉に力強くうなずく。
背後からリーダー達が攻撃を仕掛けようとする中、ハリスは彼等を無視して走りだすと、途中で数人のゾンビを弾き飛ばしてレナへ駆け寄る。
そして気絶するポーラを抱き上げ、頭上の足を見る。
「俺にできることは?」
「許可をください。皆に……町の仲間に、本当の姿を見せる許可を」
彼女の声は、元の姿を戻ることに震えている。
脳裏には町で過ごした記憶がフラッシュバックする。
明るく楽しい日々を失うことに恐怖し、覚悟が折れかけるレナ。
そんな彼女の肩に、そっとハリスが手を乗せる。
「随分と変わったな。会った頃は俺を警戒して、人間を恨んですらいたのに」
「………………」
「そんなに人間が好きになったのか、レナ」
励ますようなハリスの声に、彼女は頬に一筋の涙を伝わせ、頷く。
それを見届けた彼は肩に置いた手へ力を籠め、命じる。
「なら今は、アイツ等を助けるために力を使え!」
「――はいッ!」
瞬間、ファブニルの足の下から、まばゆい光が放たれる。
太陽のようなその光に、冒険者もゾンビもまとめて目がくらむ。
直後に光は膨張し、ファブニルを弾き飛ばしながら、地面に倒れる黄金の龍と、同じ大きさの龍の形をかたどっていく――!
『グオオオオオオオオオォォォォオオオオォオオォオオオォォオォォッッッ!』
光の中から現れた漆黒の龍は、取り戻した力を放つように咆哮した!
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