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ドラゴン娘、犬耳少女にやきもちを焼く

 翌朝、準備を整えて拠点の宿を出るハリス達。

 するとその玄関前に、居眠りする狩人の姿があった。


 腕を組んで眠っていた狩人は、彼らに気づいて目を覚ます。


「お早うございます、お待ちしておりましたぞ」


「どうして狩人がここに?」


「昨日約束したではないか、また明日と」


 当然のように語る狩人に、若干気圧されるハリス。

 彼の横に立つレナは、ぐいぐい来る少女を見て念話を飛ばす。


(ハリス様、お知り合いなのですか?)


(いや、初対面だと思うのだが)


(その割には随分と押しが強いように見えるのですが)


 目をキラキラと輝かせる狩人を見て、レナは怪しむ。

 尚も彼女は、当然のように同行する気満々である。


 だがそこへ、様子を見ていたポーラが割り込み、両者を取り持つように意見する。


「まあまあ。手伝ってくれるのは嬉しいし、手数も増えて。何より現地の人の協力は貴重だしさ」


「そうだな、確かにその通りだ」


 ポーラの言葉に納得し、ハリスは協力を受け入れる。

 するとレナも少し不満げながら受け入れ、一度引き下がった。


 *


 狩人に先導され、村から離れて霊峰へ分け入る四人。

 銀世界の山々には、多くの枯れ木が顔を出している以外、雪の他に見えるものはない。


 フェンリルどころか、他の生物の痕跡すら見当たらない一帯に辿り着くと、狩人はハリス達を制止する。


「この一帯こそ氷狼さまが住むと伝えられる、通称『氷狼三山』だ」


 紹介され、四人は各々に辺りを見渡す。

 どこを見ても白い景色しかない周囲に、ハリスは呟く。


「広いな、山が三つぶんか」


「巨躯の氷狼さまが身を隠すには、これでも狭いほうかと」


 狩人の言葉に説得され、ハリスは広大な山々を探す覚悟を決める。

 やがて狩人含む五人は、効率的に探索するため、二手に分かれることにした。


 話し合いの結果、リンゴとポーラの二人と、残る三人で分けられる。

 そこまで決まると、狩人は全員に小さな笛を手渡す。


「犬笛というものだ。万が一のことがあっても、これを吹けば私か村の犬娘が駆けつける」


「遭難防止というコトですね。使わないように気をつけます」


 意気込むリンゴに、狩人はニッと犬歯を覗かせて笑う。

 そうして集合時間を設定し、二組は本格的に探索を開始した。


 リンゴたちと別れてすぐ、ハリスは懐から召喚符を取り出し、詠唱する。


「『サモン・ケットシー』、精密性強化」


 途端に彼の頭部へ猫耳状の光が出現し、五感を強化する。

 狩人はそれを見ると、犬耳を揺らして反応する。


「お揃いですな、ハリス殿」


「俺は猫で、お前は犬だけどな」


「種が違えど、獣耳仲間であることは変わりませぬ!」


 今にも抱きついて来そうな勢いで、狩人は力説する。

 だが彼女の勢いより早く、レナがハリスの腕を引いて抱きしめる。


 バランスを崩しよろめいたハリスは、彼女の行動に少し驚く。


「どうしたんだレナ、危ないじゃないか」


「……何でもございません」


 不満げなレナに困惑するハリス。

 彼の腕には、重量感のある彼女のたわわな果実が、むにゅんと当たって存在感を示している。


 密着するレナに、ハリスは彼女を振りほどくことなく自由にさせ、狩人に質問する。


「村の犬娘はみなフェンリルと会ったことがあると言っていたが、狩人もそうなのか?」


「もちろん。数年ほど前になるが」


 狩人の話す内容は、女将のものと一致していた。

 記憶を失くして目を覚まし、何かを守りたいという意思に従い、村への害悪を退けるために狩人になった。


 そして村を守る役割に立った彼女は、昨日の話を引きだす。


「半月ほど前からアンデッドが村近くに現れるようになったので、あの時もちょうど巡回をしていたのだ」


「そうだったのか……アルミラージュは元気か?」


「ハリス殿の治療もあって、一日でだいぶ快方に向かっている。昨晩も私の拠点で騒いでいたな」


 狩人があの場にいた理由と、アルミラージュの無事を知り、ハリスは晴れやかな表情を作る。


 三人はその後も山を歩き回り、フェンリルを探し続ける。

 だがやはり伝説と呼ばれるだけあり、その姿は見つかる気配もない。


 朝から探し続けた彼らは、日が傾きはじめるのを確認し、いちど集合地点へ戻りだす。


 だがそのとき、三人の鋭敏な感覚が、帰路の途中に違和感を覚える。


「……この木は、先ほど倒れていましたか?」


「いや、倒木は一つもなかったはずだ」


 記憶を確かめるために、ハリスとレナは言葉を投げ合う。

 目の前の道を塞ぐように倒れた木は、折れた部分がまだ生き生きとした色をしており、とても自然と倒れたようには見えない。


 軽く木々を見上げると、他の木々に積もった雪もたいしたものではない。

 怪しんだ三人が周囲を確かめると、ハリスが気付いて指を差す。


「山頂方向に、同じように倒れた木々があるな」


「あと少々探索を継続されても、集合時間には間に合います」


 鋭い視線でハリスを見上げ、抱いた腕を離すレナ。

 二人は頷き、狩人にも確かめると、道になっていない木々の中へ入っていく。


 目印のように倒れた木々は、上へ行くほどに数を増す。

 やがて彼らは開けた場所に抜け、目の前の光景に驚愕した。


 小さな広場のようになった周囲は、木々がズタズタにへし折られ、雪面もあちこちが下の地面ごと抉れていたのである。


 さらに狩人が視線を落とすと、新たな異常を目にする。


「これは、アンデッドの残骸……!?」


 何か強い衝撃を受け、圧し潰されたような変わり果てたアンデッドに、三人はほぼ同じ結論へたどり着く。


 だがハリスだけは、二人と少しだけ考えを違えていた。

 彼はある一本の倒木へ歩み寄ると、真一文字に刻まれた傷を見て、確信する。


「フリーズアンデッドとモンスター。そしてあと一人、何者かがいたようだな」


「ハリス殿、それは一体……」


「この木の傷は確実に剣の一撃だ。モンスターがフェンリルだったとしても、爪と同じ数本の傷がつくはずだ」


 しかし、木に深々と刻まれているのは、一本の太い傷。

 瞬間、異様な危機感を覚えたハリスは思考を巡らせ、旅の始まりからここまでの状況を整理する。


 そして一つ、たどり着いた曖昧な仮定を、彼はボソリと口にする。


「アンデッドを作り出している何者かが、フェンリルを狙っている……?」


 呟いた瞬間、狩人の表情は強張り、腰に差していた片手剣を抜く。

 そして辺りを警戒しながら、ハリス達へ告げる。


「お二人は下山を。私は一晩、この山に残る」


「危険すぎる。一緒に降りるか、俺たちもここへ残ろう」


 ハリスの提案に、狩人は嬉しそうに微笑みつつも、首を横に振る。


「なりませぬ。私は村を守る狩人、役割を得た責任がある」


 優しい瞳ながら、真に迫る口調で、彼女はハリスへ語りかける。

 言葉を受けた彼は、狩人の意思を尊重するように頷く。


 狩人もまた、彼に感謝するように頭を下げると、背中を向けて言葉を残す。


「明日もまた会いましょう。可能であれば、ハリス殿一人で」


 直後、狩人は大きく跳躍し、山の中へ姿を消した。

 フェンリルを探しに来ただけにも関わらず、それを上回る異常事態が発生していることを予期し、ハリスの身もより引き締まる。


 その後ろでレナもまた、何か思い当たる節があるように、表情へ影を落としていた――。


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