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モンスターテイマー、魔法少女を隷従さてしまう

 巨人との激闘から数日。

 世界樹の町には、普段冒険者への報酬を提供している研究者や、周辺国の調査団などが、今回の事件を纏めるために訪問していた。


 最終的に巨人を封じた穴の周囲には、白衣の一団が周辺捜査をしている。

 その一人、眼鏡をかけた女性が穴を覗き込み、巨人と目を合わせる。


「健康状態に異常はなし……連行は可能みたいだな」


 猿轡代わりの丸太をかまされ、『ステラ・キャプチャー』により身動きの取れない巨人を確認し、研究者は穴から顔を上げる。

 彼女の前には、同行するマスターがその様子を眺めている。


 研究者は抱えていたファイルを開くと、マスターに語りだす。


「動機は世界樹の地下にあるとされる貴石の鉱脈の独占。こんな図体をしている割に、実にみみっちい理由だ」


「俺もこの町を仕切っていた先代から、伝説は聞いていたのだけどね」


 腕を組み、リラックスした格好で、研究者に返すマスター。

 眼鏡を鼻にかけ、自身を見上げる彼女の可愛らしい姿に、少し下卑た笑みを浮かべている。


 彼女はそんなマスターに触れず、世界樹を軽く差し示す。


「ヨルムンガンドは巨人の放った使いだ。地上での移動は目立ちすぎるから、地下を通って世界樹に潜伏したワケだな」


「つまり、世界樹の根元に出来た洞窟は?」


「奥で鱗が見つかった。つまりそういうコトさ」


 世界樹を巡って起きていた異常事態が、一つの線で結ばれる。

 事件が解決を迎え、ホッとするマスターだが、いっぽうで研究者はもう一度穴を覗き込む。


「ただ……まさか伝説が本当だったとは、私も信じられないよ」


 巨人の横たわる穴の下、土から顔を出す貴石に研究員は呟く。


 彼女やマスターが語るように、世界樹の地下に珍しい貴石の眠る鉱脈があるという伝説はあったが、これまでの研究で発見されることは無かった。

 怪我の功名とも言える世紀の発見に、研究員は笑みを零す。


「人工的に彫り抜かれた跡もあるから、ひょっとすると何かの遺跡かもしれない。これからの調査が楽しみだ」


「それはいいが、この巨人はどうするつもりかね?」


「協議の結果、西の都へ護送したうえで裁くことになった」


「こんなデカブツの裁判とは、ご苦労なことだ」


 そう言いながらマスターが辺りを眺めると、周囲の研究員たちとは違う、奇妙な少女の姿を目にする。


 桜色の髪を靡かせ、腰に白鞘の剣を携えた色素の薄い少女は、瑠璃色の瞳を輝かせて穴の中を覗き込む。

 すると研究員も彼の視線に気づき、少女を指して答える。


「ここまでの道中を警護してくれた、私の知り合いだよ。別件ですぐにこの町を立つから、護送には参加してくれんがな」


「あんな可憐な少女が警護? 腕が立つのかね?」


「物を知らないな君は。彼女はな――」


 風の音が遮る研究者の説明に、マスターは目を剥いて驚き、もの珍しそうに少女を見つめる。

 やがて風も止み、研究員は腰に手を当てて尋ねる。


「ハリスだっけか、巨人制圧の功労者は。彼等にも会いたがっていたから、君が良ければ紹介してあげてくれ」


「あ、ああ……構わないが」


 やっと落ち着き、頷くマスター。

 彼の答えに研究員はニヤリと笑うと、少女を呼んで手招きする。


 呼びかけに答えた彼女が二人に駆け寄る中、研究員はマスターを横目に見上げ言葉を漏らす。


「私はしばらくこの町に常駐するつもりだよ。鉱脈が本当なら、『破壊龍伝説』も本当かもしれないからな」


 そんな彼女の言葉に、マスターは町を見つめ、物思いに耽る。


(破壊龍……いや、まさかな)


 *


 その頃、当のハリス達は、酒場の丸机を囲むように座っていた。

 三人は皆、顔の前で指を組み、どんよりと俯いている。


 非常に気まずそうに、リンゴを横目に見るハリス。

 二人に目配せをしつつ、落ち込んだ空気と状況の打開を考えるレナ。


 そしてリンゴ――彼女の首には、金色の錠前が輝く黒い首輪が、とてつもない存在感を放っていた。


 彼等以外に冒険者の姿は少ないが、皆一様に彼等を見て、腫物にでも触れるような顔をしている。

 するとその時、酒場の扉が大きく開かれ、冒険者たちがなだれ込んでくる。


「ハリス! 解呪できる魔術師、連れて来たぞ!」


 先陣を切った冒険者の声に、三人はバッと顔を上げる。

 一番先頭の彼が道を開けると、冒険者たちに囲まれた女性魔術師が、おずおずとハリス達の前に立つ。


 彼女は顔を上げ、三人を見て瞳を輝かすと、改まって口を開く。


「ど、どうも。巨人との戦いでは、見事な作戦指揮と戦闘を見せてくださり……えーっと……」


 無理やり言葉を繋ごうとする彼女に、ハリスは握手を求めつつ口を開く。


「こちらこそ、その度はどうもありがとう。それでなんだが……」


「飛行魔術を使える子ですよね? 見せてもらっていいですか?」


 促されてハリスが道を開けると、魔術師はリンゴの横に立つ。

 不安げに顔を上げるリンゴの前へ、彼女がしゃがみ込むと、レナも立ち上がりハリスと共に様子を窺う。


 それから数秒もしないうちに、店内じゅうの冒険者たちが三人を囲んで見守りだすと、魔術師が声を漏らす。


「うわぁ……初めて見たなあ、これ」


「巨人との戦闘が上手くいかなかった時のために、最終手段として仕入れておいたのだが……」


「ああー、賢明な判断だと思いますが」


 リンゴより低い視線から、首輪を指先と短杖で弄る魔術師。

 彼女は溜息を吐きつつ、ハリスへ顔を上げると、首を傾げて尋ねる。


「なぜその最終手段であるところの『隷従の首輪』を、彼女は付けてしまったのです?」


「それは……」


 物々しい名前を挙げる魔術師に、ハリスは勿論、レナもリンゴも気まずい表情で視線を逸らす。


 なぜこのような状況になってしまったのか、それは時間を少し遡る――。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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