【ルイン視点】伝えているのか?
「ルイン様、至急のご報告がございます」
「なんだ…」
俺は執務室で、先ほどフィレス公爵からもらった乗馬の返事を見て落胆しながら言った。
昨日フィオラ嬢を茶会に誘ったが、見事に断られた。
茶会みたいなのが嫌なのかと思い、体を動かす系に変えたが、こちらもダメ。
昨日と今日、全く同じ文面でのお断りだ。
興味がないことを察しなさいと伝えられているようだ。
王子からの誘いを断るなど、普通の貴族家ではあり得ないのだが、恐らくフィオラ嬢はそれで子爵家が目をつけられればこれ幸いとぐらいにまで思っているのだろう。
俺は彼女のことがもう少し知りたいというのに…。
あの瞳の奥にある意思。
それが知りたい。
あの優しさと悲しさが共存したような、その正体が知りたい。
「ジョルト子爵家が動きました」
「何をするのだ?」
「ウィルオス伯爵の次男との婚約を早めるようです」
「それはならん!!!!!!!」
思わず大きな声が出てしまった。
だが、それは問題だ。
いくら王家と言っても、既に婚約者のいる女性を誘うわけにはいかない。
それこそ今度は王家が目の敵にされる。
「すまない…。いつだ?」
「ウィルオス伯爵の所にもぐりこませている人員から聞くに3日後だと」
3日後か…。
ギリギリなんとかなる…。
しかしジョルト子爵、俺やフィレス公爵とフィオラ嬢に接点があると見るやすぐさま外に出すなど、自ら見られたくない後ろめたいことがあると言っているようなものだぞ。
まさか…。
フィオラ嬢は、力を借りたくなったらと言っていた。
それが今ということか?
彼女は俺の誘いを断ることで、助けてくれと伝えているのか?
「直ぐに、伯爵家と子爵家の爵位をはく奪できるように手配しろ」
「貴族家に手を入れるのですか?」
「ああ」
「ジョルト子爵家はトリップの方の証拠が不十分で、ウィルオス伯爵家の方は我々が動くと、カイエン殿下の方から横やりが入るかと」
「子爵家は別件で勾留する。その勾留期間の間に証拠を集めろ。カイエン兄上の方は俺が動く」
「承知しました」
「ディアッハ」
俺がそう言って執務室の脇の机で執務を行うディアッハを呼んだ。
「なんでしょう殿下」
「ティエルはどう動く?」
「そうですねぇ。ティエル家はセルジュ殿下を担いでますからねぇ。本来なら、手を貸してくれるからもしれませんが、俺が側付きから離れた上に、フィレス公爵家の後押しもあってこうやってルイン殿下の側付きになりましたから、良くも悪くも何もしないかもしれないですねぇ」
ディアッハ・ティエル。
ティエル公爵家の次男で、フィレス公爵令嬢の婚約者だ。
元々は学院で同期だったセルジュ兄上の側付きをつとめていたのだが、夜会のその日に、俺の側付きとなった。
フィレス公爵の後押しと言う超強引な方法で…。
どうも、婚約者のレミア嬢から、そうしろと決められたらしい…。
レミア嬢は伯母上になるな…ディアッハ大変だろうな…。
「そうか。フィレス公爵家は動かないだろうから、カイエン兄上さえ説得できればなんとかなるか」
「ウィルオス伯爵家はカイエン殿下の派閥に多額の資金提供をしていますからねぇ」
「知っている」
「そう簡単にうんとは言わないと思いますが…。それこそ、カイエン殿下は正義感のお強い方なので、ウィルオス家と言えば色々噂のある家ですから納得してくれるかもしれませんが、母君がうんとはいわないでしょうねぇ」
「それをこれから整えに行く! ディアッハついてきてくれ!」
「は、はぁ…」
「ザッハ。サシェル義兄様に来ていただけるようお願いして来てくれ」
「畏まりました」
俺はディアッハを連れて執務室を出ると、カイエン兄上に会うために騎士団の練兵場へと向かった。
カイエン兄上は、現在第2騎士団の騎士団長を務めている。
小さい頃から身体を動かすことが得意で、かつ正義感が異常に強く、以前騎士団の不正を暗部で明るみにした際、対象となった騎士団員の中にカイエン兄上の部下もいて、もうその場で処刑してしまうのではないかと思うぐらいボコボコにしてしまい、謹慎処分を受けたりもした。
これで頭が良ければ、賢王になるのであろうが、いかんせんカイエン兄上は真っすぐで一直線で、考えるよりも先に体が動いてしまう。
そんなことを考えながら、俺は第2騎士団の練兵場の扉を開けると、カイエン兄上に挑みかかる騎士団員たちがいた。
「どうしたルイン! 次!」
「カイエン兄上、少々お話があるのですが」
「そうか、少し待っていろ! 次!」
「では、騎士団長室でお待ちします」
「わかった、すぐいく! 次!」
俺は練兵場の奥に進み、2階にあがり第2騎士団長室のソファーに腰かけた。
「カイエン殿下は相変わらずですね」
後ろに立っているディアッハが苦笑いしながら話しかけてきた。
「あれでもう少し落ち着いて考えてくれれば、素晴らしい王になると思うのだがな…」
「今のままでは、貴族が半分ぐらいに減ってしまうかもしれませんね(笑)」
「悪いことをしている奴が裁かれることはしょうがないが、適切な裁量で裁かれるべきだ…。カイエン兄上の裁量だと、例え意図していない小麦1俵の収入報告漏れでも処刑にしてしまいそうだ…」
「それはもう恐怖政治ですね(笑)」
「流石にそれは避けねばならぬからな…」
と話していると、大きな足音が近づいてきてドアが開いた。
「ルイン! 久方ぶりではないか! 元気にしていたか?」
俺は立ち上がりおじぎをして、
「はい。お陰様で元気でございますカイエン兄上」
と言うと、俺の向かいのソファーにドカッと座った。
「ハハハ! 夜会を開いたらしいじゃないか! なんだ王太子に興味でも出たか?」
「いえ、そのような意図はございません」
「しかも、セルジュの所からティエル家の次男まで引っ張ってしまって!」
「それは伯母上の孫の所業です」
「ハハハ! 伯母上の孫ならば仕方ないな!」
「はい」
「それで話とは一体何だ!」
と何とも快活にカイエン兄上は聞いてきた。
「一人、気になる女性がいます」
「ほう。あのルインにか?」
「はい」
「もうしかしてお前がファーストダンスを申し込んで、噂になっている白銀の姫君か?」
「その通りでございます」
「ハハハ! お前はそんなもの見向きもしないと思ったが、それほどの姫君か!」
「容姿云々ではなく、私は彼女の考え方をもう少し知りたいのです」
「うーん、なんだか難しいな! しかしお前が惹かれているという姫君か…流石に私も会ってみたいな!」
「別に惹かれているわけでは…」
「そうなのか? こうやってそのことで俺に話に来るなんて、惹かれていでもしないとやらないだろ!」
俺はフィオラ嬢に惹かれているのか?
いや確かに、同じ年ごろの女性で一番フィオラ嬢のことについては考えてきた。
それは仕事としてだぞ?
しかし、もう少し考え方を知りたいと思っているのも事実。
それは惹かれているということなのか? わからん…。
「実はその女性が近日中に婚約を結んでしまいそうなのです」
「ほう! それは止めねばならんな! どこの家だ!」
「ウィルオス伯爵家の次男のアルジェ殿です」
俺はそういうと、カイエン兄上は、これまでのにこやかで快活な表情を一変させた。
「なるほど。それで俺の所へ来たわけか」
「はい」
「どうする気だ」
「潰そうと思ってます。伯爵家を」
「本気か?」
「はい。カイエン兄上も噂ぐらいはお耳に挟んでいるでしょう」
「…うむ。しかしなぁ噂だけでは…」
「私は暗部の指揮官ですよ? 証拠はもう揃っています」
「ふむ…。しかし俺がそれを見過ごすわけには流石にいかないな」
「存じております。故にこうやってお話しに参った次第です」
「そうか。しかしウィルオス伯爵は流石にな…」
「兄上。兄上は悪事を見逃されるのですか?」
俺がそう言ってカイエン兄上を真剣に見ると、カイエン兄上は目を細めて俺を見た。
「そんなことは俺の信条に反する。しかしウィルオス伯爵に多大な恩があることも事実。それを無視するのも薄情であるとも思う」
カイエン兄上はこめかみをつまんで考え出した。
カイエン兄上は本当にどこまでも真っ直ぐで、人間味のあるお方だ。
だから自分の大切にする信条と、人を大切にする気持ち、そして母君を大切に思う気持ちにずっと葛藤しているのだろう。
俺はそんなカイエン兄上を見て決めた。




