第8話:ただのお母さんよ
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任務完了の直後、ギルドから言い渡された非情な口封じ。しかし、怒りに火がついた元主婦・茜の逆襲が、今まさに始まります。第8話「ただのお母さんよ」――容赦ない無双劇の開幕です!
鮮血が舞い散る育児室の床で、最初に飛びかかった暗殺者が音もなく崩れ落ちた。
「なっ……馬鹿な! 一瞬で急所を……!」
ミリアンダの顔から、いつもの冷徹な余裕が消え去り、焦燥の色が浮かぶ。彼女が知る「召喚されたばかりの素人の主婦」の姿はそこにはなかった。あるのは、百戦錬磨の殺し屋をも凌駕する、底知れぬ狂気と戦闘勘を身に纏った死神だった。
「ひるむな! 所詮は素人の女だ! 囲んで始末しろ!」
ミリアンダの号令に従い、黒ずくめの精鋭暗殺者たちが一斉に茜へと襲いかかる。
四方八方から放たれる死角なしの斬撃、暗闇に紛れる忍びの技、そして毒を仕込んだ無数の暗器。常人であれば一瞬で蜂の巣にされているような絶望的な状況だった。
だが、茜は微動だにしない。
(……遅い)
茜の脳裏に蘇るのは、かつての戦場ではなく、毎日の圧倒的な修羅場だった。
夕方のスーパーのタイムセールで、ワゴンに群がる主婦たちの凄まじい突撃。夏休みに一日中、家事と育児の合間を縫って三食+おやつの準備を同時並行で完璧に回し切る驚異的なマルチタスク。家族の健康を守るために培った、わずかな変化も見逃さない洞察力。
暗殺者の連携など、毎日の家事の忙しさに比べれば児戯に等しかった。
ガキィィンッ!
茜は最小限の動きで敵の刃を弾き、相手の重心の崩れを見逃さずに懐へと潜り込む。
華麗な技も、無駄な見得もない。ただ、相手の急所を最も効率よく、最も確実に潰す――限られたリソースで最大の結果を出す、主婦の究極の効率化がそこにあった。
「がはっ……!」
二人の精鋭が、喉やみぞおちを正確に抉られ、立て続けに床に倒れ伏す。
返り血を浴び、冷たい瞳を光らせる茜の姿は、もはや人間というより、愛するものを奪われかけた雌の猛獣そのものだった。
「ば、化け物め……!」
暗殺者たちが恐怖に足元をすくませ、一歩、また一歩と後じさっていく。
屈強な男たちが、たった一人の若い女性に気圧されている。その事実がミリアンダのプライドを激しく逆撫でた。
「ふざけるな! 生意気な口をきくな!」
ミリアンダは自ら懐から仕込み鞭を抜き放ち、猛毒を纏わせた鋭い刃を茜の顔面めがけて容赦なく叩きつけた。
ヒュッ、と空気を切り裂く凄まじい風圧。
だが、茜はその軌道すら冷ややかに見据えていた。
「……あなたのその打算的なやり方、本当に胸糞が悪いわね」
茜は鞭が直撃する寸前、身をかがめてその鋭利な刃を素手――革の防具を纏った手でガッチリと掴み取った。
「なっ……!? 素手で受け止めただと……!?」
驚愕するミリアンダの眼前へ、茜は一瞬にして踏み込む。
その距離、わずか数センチ。
「家族を奪おうとしたこと、そして私を舐め腐ったこと――」
茜は冷徹に囁くと、その空いた左手でミリアンダの腹部へ渾身の掌底を叩き込んだ。
ドグッ、という重い鈍い音が響き、ミリアンダの体がくの字に折れ曲がる。彼女の口から血の泡が吹き出し、そのまま床へと盛大に崩れ落ちた。
「――一生、後悔させてあげる」
静まり返った血塗れの部屋に、茜の冷たい声だけが響き渡った。
精鋭たちはもはや戦意を喪失し、震える足でその場にへたり込んでいる。
地面に這いつくばり、苦痛に顔を歪めるミリアンダが、恐怖に震える瞳で茜を見上げた。
「お、あなたは……いったい……何者なんだ……。本当に、ただの人間か……?」
茜は血に染まった短刀を納め、冷ややかな視線をミリアンダに投げかけた。
「いいえ」
彼女は静かに、しかし力強く言い放つ。
「――ただのお母さんよ」
その夜、暗殺者ギルド『カナリア』の精鋭たちは、たった一人の元主婦によって完全に平伏させられたのだった。
しかし、茜の戦いはここで終わらない。ギルドを制圧した彼女の瞳には、さらに大きな野望――この国そのものを掌握するための、壮大な計画が映し出されていた。
第8話「ただのお母さんよ」をお読みいただきありがとうございました!
舐め腐った暗殺者ギルドの精鋭たちを、主婦の執念と効率化スキル(?)で圧倒していく爽快な無双回でした!ついにギルドを完全制圧した茜ですが、ここからどうやって王国を乗っ取っていくのか……?
次回、第9話もお楽しみに!よろしければブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!




