シーズン3 第2話:次元の観測者
シーズン3第1話をお読みいただきありがとうございます!
平和な日常を取り戻した女王・茜の優雅な朝から一転、第2話では王立研究所で研究を続ける橘によって、世界の境界線に走る「不可解なノイズ」が発見される緊迫の展開をお届けします!
クタバレ王国の地下深くに増設された、白亜の『王立魔導研究所』。
かつては暗殺ギルドや神殿の密室があったその場所は、現在、元・高校教師である橘の指揮のもと、この世界の理を科学的・魔導的に解明するための最先端の研究施設へと生まれ変わっていた。
「――陛下、お入りください」
自動扉が静かに開き、白衣を纏った橘が、険しい表情でモニターの前に立つ茜を迎え入れた。
部屋の中には、何台もの魔導演算機が複雑な光のグラフを描き出し、チカチカと不気味な警告音を鳴らしている。
執務室の優雅なドレスから着替えたスリーピース姿の茜は、腕を組みながらモニターを鋭く見つめていた。
「橘さん、さっきコンパスが変な揺れ方をしたから来てみたけれど……いったい何が起きたの?」
橘は手元の魔導ペンを操作し、巨大なスクリーンに宇宙の裂け目を模したような立体映像を映し出した。
「これを見てください。私たちが数ヶ月前に神殿のシステムを破壊し、この世界の理を正常化させたはずの『次元の境界線』ですが……ここ数日、その境界線のあちこちに、不自然な『ノイズ』が観測されているのです」
「ノイズ?」
「ええ。自然発生的な魔力の乱れではありません。例えるなら、綺麗に掃除されたガラス窓に、外側からわざわざ泥を塗りつけられているような……非常に意図的な干渉波です」
茜はスッと目を細めた。
「誰かが、私たちの世界を外側から覗き見ている……あるいは、こじ開けようとしているってこと?」
「おそらくは、その通りかと」
橘は深刻そうに眼鏡の位置を直した。
「神殿の連中は自分たちの都合で次元の扉を利用していましたが、彼らがやっていたのはあくまで『この世界の内側での操作』にすぎませんでした。しかし、今回観測されているノイズは、もっとこう……次元の壁そのものを踏み荒らすような、圧倒的で異質なエネルギーを感じます」
その言葉を聞いた瞬間、茜の背筋にわずかな冷たいものが走った。
平和な日常を取り戻し、ようやく「我が家」の平穏を守り抜いたと思った矢先に、今度は別の場所から厄介な影が忍び寄ってきている。主婦の目から見れば、それはせっかく綺麗に片付けた庭に、見知らぬ不法投棄のゴミを勝手に投げ入れられるようなものだった。
「……ふう。せっかく毎日美味しい紅茶が飲めるようになったっていうのに、またお騒がせな訪問者志望の不届き者がいるみたいね」
茜の声には恐怖など微塵もなく、ただ「勝手に部屋を汚す厄介な奴」に対する冷ややかな呆れと、静かな怒りが宿っていた。
「橘さん、このノイズの発生源――つまり、外側からの干渉が一番強く出ているポイントは特定できているの?」
「はい。正確な座標まではまだ割り出せていませんが、どうやら我が国の北方、かつてガルド帝国との国境付近に広がる『忘れられた谷』のあたりが怪しいとにらんでいます」
「分かったわ」
茜はスッと背筋を伸ばし、愛用の特製手帳にサクサクと予定を書き込んだ。
「今日の午後、視察という名の『近所パトロール』を兼ねて、私が直接その谷へ行って確かめてくるわ。あまりに変な虫が湧いているようなら、今のうちにしっかり『躾』をしておかないとね」
「陛下が自ら前線に……? しかし、護衛や軍の調査隊を同行させた方が――」
「いいえ、大勢でゾロゾロ行ったら、相手に警戒されるだけよ。こういう面倒な害虫駆除は、手際の良いお母さんが一人でサクッと片付けるのが一番早いのよ」
微笑みながらも、その瞳の奥には一切の妥協を許さない死神の光を宿した茜。
世界の境界線に走るノイズの正体を暴くため、最強の元主婦による新たな「お片付けの旅」が、今、静かに幕を開けようとしていた。
シーズン3第2話「次元の観測者」をお読みいただきありがとうございました!
平穏な日常の裏で、世界の境界線に走り始めた不穏なノイズと、それを察知して自ら調査に乗り出す茜の頼もしい姿を描いた展開でした。いよいよ次話からは、未知の脅威との直接接触へ向けて物語が加速します!
次回、第3話「消えた村の謎」もお楽しみに!よろしければブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!




