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クラ部(1)

 奉仕の婚活イベントが始まって4日目の放課後。

 俺と古江はお互いにポイントを50以上手に入れ、合格間違いなしの状況だった。

 今日も古江が俺のノートを書き写すまで隣で待っていると、クラスメイトの男から名前を呼ばれた。



「黒狼、白黄泉、帝音、古江、お前らに話があるって3年の先輩が来たぞ」



 3年の先輩?

 この学園に来て1週間以上経つが、上級生と関わったことはまだない。

 なんとなく、なんとなーく嫌な予感があった。



「なんでしょうか? 黒狼君、わかりますか?」

「いや、俺にはわからないな。帝音、わかるか?」

「僕も心当たりはないかな。白黄泉はわかる?」

「全然わかんない!」



 全員呼ばれた理由はわからないようだ。

 4人の共通点も、しいて言うなら恋人がいないことか。



「先輩を待たせるわけにもいかないし、行ってみようか」



 帝音の言う通り失礼があるといけないので教室を出る。

 壁に寄りかかりながら待っていたのは、チャイナ服を着た女の先輩だった。

 ただし、凄く美人。



 1年生ばかりの廊下に立つその先輩の大人びた佇まいは異彩だった。

 人を引き付ける姿勢を熟知しているのか、背中のラインはファッションショーやモデル雑誌で見るような綺麗なもの。



 何を食べたらそうなるのか、チャイナ服のスリットから見える太ももは肉付きがあるのにシュッと直線があるようにも感じさせ、服を圧迫しているほどの胸なのにハリがあって垂れていない、さらにはウエストがとても細い。

 古江が日常的に作られた自然的な美しさなら、先輩のは(みが)き続けた末の人工的な美しさだった。

 努力の日々を想像させるほどの美がそこにはあった。



『ロマン値が70%に上昇しました』



 ロマン値はそこまで高くならなかった。

 おそらく感服(かんぷく)がもっとも大きいからだ。

 指輪は見えないので結婚はしていないようだが、目の前にいる先輩を好きになることすらおこがましいと思ったからだ。



「帝音、大丈夫か?」



 金持ちの帝音なら釣り合いそうだと思い、心配で隣を見た。



「拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はコロリン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はゴスロリ拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン拙者はロリコン」



 コイツ、自分はロリコンだと自己暗示してロマン値が100%になるのを防ごうとしているだと⁉

 あと何か変な言葉が混ざってなかったか?



「しっかりしろ帝音!」



 バグを起こしている帝音の頭を叩き目を覚まさせる。



「はっ‼ マズい、意識が飛びかけてた! ありがとう流狩流君」

「全く、世話が焼ける相棒だぜ」



 古江と白黄泉が頭に?マークを出しながらこちらを見てたが流すことにしよう。

 まず目の前の先輩のことから対処した方がいい。



「こんにちは1年生たち。私は3年の(よる)(がお)美妙(びみょう)よ」



 美しく礼をする夜顔という先輩に、俺らも追うように頭を下げた。



「黒狼流狩流です」

「ふ、古江兎、です」

「帝音俊といいます」

「白黄泉花実でーす!」



 学生とは思えない堅苦しい挨拶だが、そうしないといけないオーラがこの先輩にはあったのだ。

 この感じは、怒っている時の俺の母に近い。

 いつものようにニコニコとしながらも確実にこちらへ緊張感を与える、あの不気味な感じ。

 この人には逆らってはいけないと俺は悟った。



「うん、礼儀正しい子たちね。私そういう人大好きよ」



 その言葉は真実なのかそうでないのか、そのことは大して重要ではない。

 ただ、相手に対して好きという言葉を軽く使えることに経験の違いがあることがわかることが重要だ。

 一体どれほどの人間がこの先輩の言葉によって(まど)わされてきたのだろうか。



「ええ、そんな大好きなんて、まだ会ったばかりなのに、えへへ」



 いたよ、すでに惑わされてる白黄泉(バカ)が。



「うふふ、言葉を素直に受け取る純粋な心、素晴らしいわね」



 夜顔先輩は可愛がるように白黄泉の頬に手を置いた。

 白黄泉は目を閉じて気持ちよさそうにしている。



 次に目を付けたのは帝音だった。

 帝音は身構えた。



「うん、あなたは逆に人を知ってるのね」



 金持ちゆえの人の悪い部分を見てきた帝音の心を一瞥(いちべつ)しただけで見抜いた。



「あなた……」



 今度は俺だった。



「やっぱり素晴らしい顔ね。私が見た男の中で一番と言ってもいいわ」



 白黄泉にように俺の顔も触ってきた。しかし今度は鼻や額に指を滑らせて、物を査定(さてい)するような動き。



「恐れ……私がどう怖いの?」

「……母に怒られてるようで、怖いです」

「お母さんは嫌い?」

「いいえ、むしろ1人で働きながら俺を育ててくれたので感謝しています。俺が悪さした時に見せてくる怒りだけが怖いんです」



 あの、全てを見透かしたように目を細めるのがとてつもなく怖い。

 蛇に睨まれた蛙のようなのに、俺への教育という愛も感じるから怖い。



「そう。お母さんが大切なのね」

「はい。働き始めたら絶対に親孝行します」

「ふふ、頑張りなさい」



 静かに笑みを浮かべたあと、最後に古江の方を見た。



「うーん……あなたも素晴らしいプロポーションね」

「え、あ、あの……」



 古江は助けを乞うようにこちらを見た。

 夜顔先輩はその視線を見逃さなかった。



「彼はとても頼りになるの?」



 夜顔先輩は鼻同士が当たるくらいまで顔を近づけた。

 古江に流れてる汗がつくが、無反応。



「え、えっと、はい……」

「んふふ、そっか……」



 顔を離して、また俺を見た。



「さっき、あなたとこの子が仲良く座ってたところを見たけど、何してたのかしら? もしかして、もうカップルになってたり?」



 からかうようにニヤニヤしながら聞いてきた。

 それを聞いて古江の顔が真っ赤になる。



「違いますよ。古江が汗でノートを書けないので、俺のノートを見せてるだけです」

「ふーん、でもそれってカメ……いえ、そういうことか……」



 何を察したのだろうか。夜顔先輩は薄笑いを浮かべた。



「……あなたたち、意外に(いや)しいのね」

「ん?」

「え?」



 俺と古江はわからない顔をする。



「……それを自然にやれてるなんて大したものだわ」



 何の話なのか全くわからない。

 夜顔先輩の目には俺と古江がどう見えたのだろうか。

 古江から離れると、夜顔先輩は俺たち4人を見た。



「実はね、あなたたちに紹介したい部活があるの」

「部活! どんな部活なんですか!」



 キラキラした目で白黄泉は食い気味に聞いた。

 俺も気になる。

 ドロヌマ学園に来てすぐ婚活イベントで忙しかったから、部活のことを考えていなかったのだ。



「クラ部よ」

「クラ?」

「「「部⁉」」」



 おいおいおい、高校にそんな部があっていいのかよ!

 よくわかっていない白黄泉以外は全員目を皿のように大きくした。



「安心しなさい。お酒は飲まないし、経営目的でもない。ただの男女の触れ合いの場が目的の健全な部活よ」



 いやその男女の触れ合いが一番問題なんですけど!



「あの、先輩、俺と帝音は独身派なのでそういう部活に興味はないのですが……それに俺たち男なのでクラブは無理なのでは?」

「大丈夫よ。クラブと言ってもバーの要素もあるから。それに、あなたたちが独身派だからこそ誘っているのよ」



 夜顔先輩の言っている意味がさっぱりわからない。

 異性と交際をしたくない独身派だからこそ入部しないべきなのでは?



「2人とも独身派、だけど女慣れしてないでしょ?」

「「うっ……」」



 夜顔先輩の言っていることは正しい。

 顔や金でモテるといっても俺たちは女遊びをしているわけではない。

 好かれないよう、好きにならないよう立ち回る、それでも告白してきたら断る。

 今までそれだけしかしていなかった。

 だから大抵は後手に回る。

 女の扱い方など俺たちは知らないのだ。



「それに人当たりは良いって思われたいから告白を断るのが苦手」

「「どうしてそこまで⁉」」

「経験上わかるわ。モテたくないけど顔や金で異性は近寄ってくる、でも悪い人には思われたくないから優しくしてたら好意を持たれてしまう」



 こちらの悩みを寸分(すんぶん)(たが)わず当ててきた。



「いっそのこと清々しいクズだったら楽な人生だったでしょうね。だから同情しちゃったのよ」



 その通りだ。

 俺が女をモノ扱いできるような奴だったら告白に恐れることもなかった。



「……もしかして、夜顔先輩も似たようなことが?」



 同情ということは、夜顔先輩には相手の苦悩を自分のことのように感じられる心があるということになる。



「さあ、どうかしらね。でも入部して異性に慣れれば私のようにロマン値は上がることなく多分一生独身でいられるわよ」



 夢のような話だ。ロマン値が上がらなくなればもう女の告白に怯える日常もなくなる。天国だ。



「でももしクラ部でロマン値が100%になったら……」



 接客はいろんな女と会うことになる。

 慣れるぐらいとなると100人以上は確実か。

 慣れるのが先か、ロマン値が100%になるのが先か。

 リスク込みの誘いだ。



「そこは、あなた達次第よ」



 ウインクをこちらに見せたあと、次に古江と白黄泉を見た。



「2人は単純にビジュアルが目当て。2人とも、女を磨いてみたくない?」

「女を磨くぅ⁉」



 白黄泉はワクワクするように前のめりになった。



「あの、わ、私は別に女を磨こうとは……」



 逆に古江は乗り気ではないらしい。

 性格から考えて当たり前か。



「でも自信はつくかもしれないわよ」

「じ、自信、ですか」



 自信という言葉に古江は目を大きく開いた。



幾人(いくにん)もの人と話せばいずれは慣れる。あなた次第だけど、今の怯えた態度くらいは改善できるわよ」



 確かに、クラ部で男と話し続ければ古江の自信の無さも改善できるかもしれない。



「はいはーい! 私やってみたいでーす!」

「わ、私も!」

「僕も!」



 マジか、俺以外全員やる気だ。



『流狩流もやりましょう。でないと古江兎を誰かに取られる可能性があります』



 なんでそこで古江が出てくるんだよ。



『古江兎は現状流狩流の運命の相手に最も近い女性です。それに流狩流も女性に慣れたいと思っているではありませんか?』



 アイの立場ならむしろダメなことじゃないのか?

 俺が女慣れすれば誰にも好意を抱かなくなるということだぞ?



『いいえ、計算によれば流狩流が女慣れすることはありません。流狩流の性格から考えれば誰でもわかることです。少しはご自分を客観視したらどうですか?』



 言ったな!

 だったらクラ部に入ってアイの計算は間違いだったって証明してやるよ!



「俺も入ります」



『チョロいですね』



 うるせえ!



「決まりね。でも特殊な部活だし、経験してみないとわからないことも多いわ。今回は体験入部ってことにしましょう。荷物を持って私についてきなさい」



 各自教室にある自分の荷物を持ったあと夜顔先輩について行った。


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