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魔法

 

 ヘンリエッタ様もいらっしゃったので、席を立とうとしたが、彼女に話し相手になってと言われて何故か三人で話をすることになってしまった。

 ふいに、真顔になった彼女が私に向き直った。


「時に、クローディア、その銀髪は見事なものだね」


「ありがとうございます。でも、近しい親族にもこの髪色はいなかったので昔はよく気味悪がられたものです」


 私は苦笑して横に垂らした銀髪をひと房つまみあげた。

 私達は双子で生まれた。

 瞳の色は二人とも母の紫色の瞳がそのまま遺伝したが、髪の色は父の金髪を受け継いだシンシアに対し、私は誰のものでもない銀髪だった。

 今でこそ、金と銀のよく似た双子で対のようだ、と美しいと他人には言われるようになったが、幼い頃はヒソヒソと囁かれる陰口にいちいち心を傷めたものだ。

 両親のくれる愛情に差があるのも、この髪色も少しだけ関係しているかもしれない、なんて、考えた時期もあった。


 ヘンリエッタ様の顔が悲痛に歪んだのを見て、私は慌てて言った。


「でも今は大丈夫ですよ!」


「そう、……そこでだ、これは提案なのだが」


「?」


 提案、と言われて首を傾げた私だったが、エヴァン様は非常に嫌そうな顔をしていた。


「いやな予感しかしない」


 ―――――……


「おお!筋がいいぞ!クローディア!」


「ほっ本当ですか!ありがとうございます!」


 あの後ヘンリエッタ様に提案されたのは、魔法を習わないかということだった。

 魔法なんて使えるわけがないと思って最初はお断りしたのだが、私のこの銀髪。

 ヘンリエッタ様曰く、強い魔力を持つ者に現れる証らしい。

 所謂先祖返りというもの。

 先祖返りはレアケース、まさか自分がそうだとは思わなかった。

 この世に生を受けてからこれまで17年、魔法を使ったことはなかったから。

 それは何故かというと、私の体内には魔力が渦巻いているがそれを表に出す出し方というものを知らなかっただけなので、少し引き出し方を知ればばすぐに魔法は使えるようになるらしい。


 というわけで、私は今ヘンリエッタ様に魔法を習っていた。

 引き続きエヴァン様の部屋で。

 彼は私が魔法を習うと言ってから、ずっとぶすりと不貞腐れている。


「……クローディアはそんなの習わなくてもいいのに……」


「エヴァン!ほら!お前も見ろ!」


「言われなくても見ています!」


 興奮気味のヘンリエッタ様に、エヴァン様はキレ気味で答えた。

 今は私が持っていたハンカチを浮かせる練習をしていた。

 浮遊魔法というやつらしい。

 頭の中で浮け、と強く思い手をかざすとふわりとハンカチは浮いた。

 気を抜くとすぐにそれは地面に落ちてしまうので、なかなか難しい。


「一気に全魔力を集中させすぎだな、それでは10分ともたない。魔力は適度に効率よく分散して使わなければならない。それが、クローディアのこれからの課題だね」


 今日はここまでにしよう、パンとヘンリエッタ様が手を叩いた瞬間ハンカチが勝手に私の手元に舞い戻ってきた。

 私ではない、ヘンリエッタ様が魔力操作をしたんだ。


「それ、私にも、出来るようになりますか?」


 返ってきたハンカチをぎゅっと握って言うと、ヘンリエッタ様は楽しそうに笑った。


「初日でこれだけ出来たんだ、もっとすごいことが出来るようになるよ」


 次に魔法を習う日の約束をして、私はわくわくと胸を踊らせながら帰りの馬車に乗った。

 まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。

 ヘンリエッタ様に会えて、私が魔法を使えてそれを彼女に習うことになるなんて!


 それと、エヴァン様。

 今日は彼の意外な一面を見てしまった。

 うちの屋敷に来ている時はいつも貼り付けたような笑みを崩さないため、先程のようにコロコロと変わる表情は見たことがなかった。

 さすがの彼も、あのおばあ様の前では余裕がないみたい。


 ここに来る時とは真逆の気持ちで馬車に揺られていると、すぐに屋敷に着いてしまった。

 シンシアには、帰りが遅かったことに対して問い詰められたが、私は何も言わなかった。


 ―――……


 クローディアが帰ったあと、エヴァンはヘンリエッタを問い詰めた。


「どうして、クローディアに魔法を教えるなどと言ったのですか」


「何が気に入らない?」


「今この国に魔法を使いこなせるものはほとんどいません。下手に魔法を使えるようになったりすると、それを悪用されたり、危ない目に合うかもしれないのですよ」


「……あの子に、自信をつけさせたかった」


 ヘンリエッタは窓の外を眺めた。

 小鳥が青空を気持ち良さそうに跳んでいる。


「……知っていたのですか」


「……ああ、ハワード家の双子の片割れが銀髪だというのは魔法使いの間では有名だよ。家での境遇もな」


 銀髪のことを尋ねた時に気味悪がられたことしか、クローディアは口にしていない。

 妹のことも、家のことも。

 だが、ヘンリエッタは知っていた。


「今は大分吹っ切れてはいるようだが、あの子は妹に対して劣等感を抱いている」


「それでも……」


「お前が彼女を守ってやればいい」


「しかし僕は彼女の妹の婚約者なのですよ」


「いつまでその立場に甘んじているつもりだ?」


 ヘンリエッタがエヴァンに見えるようにして己の左手の薬指をトントンと右手の指で叩いた。


「クローディアのここ。お前だろ?」


「……。なんのことでしょう」


「ほう、あくまでもしらばっくれるつもりか。お前がそういった態度をとるならかまわんが、いいか、覚えておけよ」


「……」


 ―――――……

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