お友達
その後しばらく四人で談笑をした。
普段は、シンシアとエヴァン様のお茶に付き合わされて、相槌を打つだけの私。
家族間での会話でさえ、私が自ら話すことは無い。
両親は、シンシアの話を心待ちにしてシンシアのことにしか興味がないからだ。
私がする話は誰も求めてはいないし、私もそれがもう分かっている。
友達もいないので、あまり歳の近い人とこうやって話す機会がない。
だが、皆が聞かせてくれる話はとても楽しくて、胸が踊った。
私に話を振ってくれて、ちゃんとその話を聞いてくれる。
久々のことで、私はそれがとても嬉しかった。
「それじゃ、そろそろ今日はお開きにしましょうか」
だから、サンドラ王女にお茶会の終了を告げられた時に少し寂しくなってしまったのもしょうがないことだと思う。
楽しかった時間がもう終わってしまう。
「あ!では最後に、あの、クローディアがよければなんですが……私達とお友達になっていただけないでしょうか?」
「!!」
エルシー様が恐る恐る右手を上げてした提案に、私は目をひんむいた。
三人は私から見るとキラキラして眩しく思えた。
容姿も勿論だが、存在感も、立ち振る舞いも、堂々とした姿も何もかも。
そんな方達と、私が?
「私で、よいのですか?」
つい問うてしまった。
それを聞いた三人は、ぱちぱちと瞬きをした。
そして、言った。
「あなたでいいんじゃない、あなたがいいのよ!」
瞬間何か暖かいものが私の頬を伝った。
不思議に思って撫でると、それは涙だった。
この人達は、シンシアじゃなくて、私を求めてくれているんだ。
妹しか見ない両親とは違う。
「っ!?そんなに嫌だった!?」
三人は私の涙に気付くと、さあっと顔色が悪くなった。
それに慌てて訂正する。
「違うのです、嬉しくて、ありがとうございます」
溢れる涙を拭い、なんとか笑顔を作ると、三人もホッとしたように笑った。
「じゃあ今日から私達四人はお友達ですわ!またお茶会を開きますから、是非いらしてくださいね!」
この楽しい時間に次がまたあることが嬉しい。
―――――……
「お姉様!おかえりなさい!」
「……ただいま」
自分の屋敷に到着して、いの一番にシンシアが声を掛けてきた。
どうやら私の帰りを待っていたらしい。
たたたた、と小走りで目の前まで来た彼女は心配そうな声色を出してはいるが、瞳が楽しそうにキラキラと輝いている。
お得意の茶番が今から始まるらしい。
私はそれを見てげんなりしてしまった。
「お帰りが思いのほか遅かったですけれど、大丈夫でしたか、あの、きちんと謝罪してこられました?」
……さっきまでの気分が台無しである。
彼女の中で私がお茶会に呼ばれた理由は、サンドラ王女達に失礼なことをして目をつけられその粛清のためだということになっているらしい。
決めつけもいいところ。
「あのね、シンシア。私はそういった理由で招待を受けたのではないわ、誤解しないで」
「あら!では、どうして?」
彼女が心底不思議そうに首を傾げた。
それ以外にはないでしょう、というような表情。
艶やかな金髪がふわりと揺れた。
お友達に、と言いかけて口を開きかけて私はハッとした。
これって周りに言ってもいいものなのかしら。
相手はサンドラ王女と公爵令嬢達。
私なんかと、友人に、なんて。
それに、こんなことシンシアが信じてくれるわけがない。
思わず口を噤んだ私に、シンシアはやっぱり、と呟いた。
その声色は喜色を含んでいた。
「お姉様、嘘は駄目ですわ」
「クローディア、どういうことだ?」
「おかえりなさい、クローディア」
……思わず舌打ちしそうになった。
後ろを振り向くと歩いてきた両親の姿。
普段は私が帰っても姿を見せないが、二人とも今日の事が余程気になっていたらしい。
「……ただいまかえりました」
とりあえずお母様におかえりなさいと言われたので、そちらだけに返事をした。
「で、嘘とは?」
「私はお姉様が今日のお茶会できちんと謝罪できたか、失礼なことはなさらなかったのか、と心配してさしあげたの。なのに、お姉様は意地を張ってお茶会に呼ばれたのはそんな理由ではないと仰るの」
私に対して聞かれたことだったのに、シンシアが悲しそうな顔をしてつらつらと話した。
「何故そのような嘘をつく。正直に言えばいいだろう、お前は昔から変に意地を張る。そんなもの張らなくともお前がどんな人間かは家族が一番よく知っている」
高圧的な態度でお父様が私を見下ろして言った。
一番よく知っているなどと、どの口が言うのだ。
こういった時だけ都合よく家族という言葉を使わないでほしい、あなた達が見ているのは今も昔もシンシアだけだ。
「まあ、クローディア、それはいけないわ。お母様は怒らないから、正直に言ってしまいなさい」
……二人がシンシアより私を信じてくれることは、無い。
無意識に噛んでしまった唇が痛い。
悔しくて悔しくて堪らない。
「……謝罪は、出来ました」
「初めからそれを言いなさい」
「……申し訳ございません」
「お母様たちは怒っているわけではないの、でも最初からそれを言っておかなかったあなたが悪いわよ?」
「……。私は着替えがあるので、失礼致します」
逃げるようで嫌だったけれど耐えきれなくなった私はその場を去ろうとした。
シンシアの横を通り過ぎるときに、彼女の顔をちらと少しでも見たのがよくなかった。
口元に添えていた手の下から見える笑みに歪んだ口角。
―――……私はいつまでこんなことを続けなければいけないのだろう。
いつまで、こんな馬鹿げた家族ごっこに付き合わされるのだろう。




