8
ちょっとリアルがドタバタしてましたけど更新再開です。
――side リーナ=フロイス
「……ひゃ、ひゃあっ」
「お、落ち着いてリーナ、また揺れてるっ」
「そ、そんな事言われても……」
私を含めて、2学年の生徒にとっては初めてになる実地演習。そんな中で、私は絶体絶命の危機に陥って……ひゃあっ。
「しかし、学園側も酷い課題を用意したものですわね……」
そう言ってこちらを見るミレイの目がなんか痛い……いや、ミレイが同情してくれているのは分かってる。けれど、今はその暖かな視線が……痛いっ。
「でも変わった課題だよね……“風系の魔法を使って空中に浮かんだまま活動せよ”なんて」
「いえ、そうでもないわ。リーナは何の苦もなく使っていますけど、普通は風量の制御に莫大な集中と処理を費やす筈ですわ。それ故に浮かび続けるということは難度が高くなってしまう。それに、一部の生徒には生徒と戦って勝利することが条件の課題もあるはずなので空中に浮かんだまま活動するのはまさしくAクラスに対応した課題ですわね。まぁ……こんな問題は学園側も想定外でしょうけど」
私が必死の制御をしているのをよそに、2人は私そっちのけで話をしている。ひ、人がこんなに苦労しているのにぃ……。いつもよりも人の視線が気になる。いや、この場合は視線があるかどうかなんだけど……。
「そんな事は別にいいから。ねぇ、ホントに大丈夫? 見えてないよね?」
「まぁ、今のところは……」
「危ういバランスですわね」
ここで1つ話をしよう。
人が宙に浮くのによく使用されるのは風魔法だが、この風魔法は万能という訳ではない。当たり前だけど。
仕組みとしては、気流を制御して体の周りに上手く誘導して揚力を得て浮いているのだけど、このバランスはかなり繊細で、向かい風や追い風などの自然の風の影響をかなり受けやすい。そのために使われる状況も限定されるし、それほど利用する機会があるような魔法じゃない。
しかも気流の乱れによって受ける影響は乱気流の発生しやすい場所、特に今私たちがいる森みたいに木が多くある場所ではかなり大きいのでいつひっくり返ってもおかしくはない。
それだけに繊細なコントロールが必要なのだ!!
つまるところ、何が言いたいかといえば……少し気を抜けば最後、一気に転んでしまう。いや、転ばないようにように制御する際、確定でスカートがメクレテシマウノデス。
そしてその中には下着がある訳で……。
(こんな事なら、せめてもっと可愛い下着にすればよかったっ……)
実地演習といえば、魔物との戦闘も想定されていると聞いていた。ということで、今日は機能性重視の下着を選んだ。此処までは、当然の流れだと思う。
ただ、機能性を突き詰めた物というのは当然ながら無駄が無いデザインである事が求められる訳で……。ぶっちゃけ、可愛くない。それはもう可愛くない。理由は分かりやすく無駄な装飾が衝撃などによって肌を傷つける可能性を無くすためだと思う。
いや、流石に申し訳程度の装飾みたいな模様が入ってたりするけれど、それがまた更に可愛さから逆方向に突っ走っている。というか、作った人はこれを着た事があるのか突っ込みたい位だ。これを見られるのは絶対に阻止しなければ。いつものならともかくこれは絶対に見られたくないっ。
いや、見られないのがなによりも一番なんだけど。
その時だった。
「見つけた!! Aクラスの生……」
「っ!! 来ないでーー!! ブレイズ!!」
「えっ!? がはぁっ!!!」
物陰から男子生徒が見えた瞬間、私は既に炎系の爆発魔法を放っていた。未だかつてここまで高速で魔法を展開できたことがあるだろうか? いや、ない(反語)。
「よ、容赦ない……」
「それよりもむしろ、空中に浮かびながら魔法を多重起動する制御力が素晴らしいですわね……」
なんだか2人があきれ顔でこっちを見ているような気がするけど気のせいだろう、うん。
乙女には守らなければならないモノがあるんですっ!
――side ルイン=カーライン
「ぬわぁ、なんだありゃ……」
茂みと茂みを経由して移動している途中に、急に背後に爆発のものらしい衝撃を感じて軽くよろける。
すわ、敵の攻撃かっ!? なんて思った俺は、すぐさま何が起こったのかと思い後ろを見るが近くには何も異変はなく、少し遠くの方でで微かに何かの魔法が着弾したかのような煙が上がっているのが微かに見えた。
「あそこに着弾して、ここまで衝撃が来るってどんだけ威力が高いんだよ……」
あんなのを食らったら、俺でなくても即ノックアウトしそうだ。世の中恐ろしい奴もいるモンだな……。
知り合いの中であんな訳の分からん大規模攻撃しそうなのはフレアだが、アイツの攻撃は基本的に雷系統。攻撃速度に対して単体に対する威力が高いという利点がある一方で燃費は悪いそうだが、そもそもが殆ど単体に対して使用することが主体で複数の相手には連撃のような手段を取る。はっきり言うと、単発の攻撃が多い分攻撃自体は小さいものばかりだ。
そんなアイツが使えるような魔法でここまで大きな攻撃は……
「……いや、落雷があったな。もしかして、いやでもまさかなぁー」
やべぇ、一度考えだすとどうにもアイツが犯人なような気さえしてきた。思えばアイツは人間に電撃流しても無事で済むと考えてる節がある。
普通に考えればありえないだろう。だが、過去に一度前科がある……。無論、被害者は例の如く俺だ。
思い起こせばそう、あれは半年前の書物漬けの日々を送っていた時の事だ。
当時の俺は既に何度か述べたかもしれんが、魔力を利用せずに冒険者として魔物に対抗する術や魔法に対抗する方法を調べてそれを鍛錬に組み込むようにして自身を鍛えてきた。そしてその調べものをする時に発生する現象、それが肩こりという物だ。
恐らくは姿勢が悪かったというのもあるのだろう、お蔭で俺は自身の姿勢を矯正する必要に駆られたものだ……。
言いたいことは尽きないが、当時のやり取りを簡単に振り返ると以下の通り。
『ああっ、くそっ。肩が凝って筋が痛むな……』
『何、肩こり? なんか爺臭いなぁ……』
『黙れ脳筋。姿勢が悪いのかねぇ』
『それならボクが治療してあげるよ! 最近、雷の応用にちょっと凝っててね』
『いや、いい……』
『そんな遠慮はいらないよ! キミとボクの仲じゃないか』
『今までの経験上碌な事にならんのは分かっている。今までは物理系統だったからまだ無事だったが今度は……雷、だと? 死ぬわ!』
『大丈夫。人間の体には微弱な電気が流れているから、少しぐらいなら害もないよっ』
『いや、だからちょっと待っ……あばばばばばっ』
結果として言えば、肩こりは治った。
「……って、いやいや結果オーライじゃねぇよ!! あの後は体が痺れて数日体が動かなかったし!!」
とまあ、そんな感じでフレア犯人説が微妙に浮上してきた訳だが……。
――ドカンッドカンッドカンッドカン……
雷光がない様子から、その可能性は低そうだな……奴の新技の可能性も捨てきれんのが恐ろしいが。
しかしそれにしても、一体どこのどいつがあんな事やってんのか気にはなる。というかあの威力を連発できるってかなりすごいぞ、オイ……。
「いや、まぁ触らぬ神に祟りなし。巻き込まれない為にも離れているとしよう」
いつこっちに流れ弾が飛んでくるか分かったもんじゃないし。第一、アレに当たるのは即死しそうで……怖い。
え? 情けないって? やかましい。俺でなくてもこんな冒険者になる前の第一歩でモブ死にはごめんだって!!
そもそも魔物だけでも危険だってのに……。
「……って、そうこう言ってるうちに魔物に遭遇か」
茂みから目を凝らしてみれば数匹の魔物が全速力で逃げて来ている。恐らくは連続した爆撃に命の危機を感じて逃げてきたのだろう。哀れな……。
だが、
「残念、此処までだわ」
仕掛けの近くに走り寄って来た鹿型の魔物を糸を使って捕縛、そのまま仕掛けに必要な重りとして扱い、残りの3匹の体が罠に掛かった所で仕掛けを発動する。
「ギュアアアア!!」「ギャギィッ!!」
糸が体に絡まり、2体の体を走る勢いのままズタズタに引き裂く。そしてその2体が停止した時の慣性と2体分の重みで最初に重りとなっていた魔物はバラバラになる。
仕組みとしては糸と木を使った単純な罠だが、糸自体が強靭な分、魔物の勢いや重さをそのまま利用できるから効果は馬鹿に出来ない。一応、補足しておくと人間の重さでは体を引き裂くだけの力を出せないように調整しているから事故の起こる可能性は低くなってる。といっても、それでも誤作動の可能性もゼロじゃないけどな。
「しかし、数匹ならポイント加点されるからいいものの、何匹も押し寄せて来たら捌ききれんよな……」
一応、課題が達成できない時でも零点は防ぐために途中で討伐した魔物に関してもその魔物ごとに指定されている部位を提出すれば魔物の危険度に応じて点数が加点されるが、正直罠に頼る事がメインの俺としては大群への対処は難しくなる。
そうなる前にここを離れるのも手だが、持ち物的に他の生徒に発見されてからの逃走では分が悪い。出来ればここを拠点にして維持しておきたいんだが……。
―-ドゴンッ。
「どうやら他の魔物も逃げ込んで来る可能性もあるな……」
ここにいてもあの爆発のせいで逃げてきた魔物で罠が暴発してしまえば意味がない。動くならここらが潮時という事なのかもしれない。
まったく、厄介な。一体、どこのどいつがやってやがんだか……。
「とは言ってもどっちに動くべきかね……」
爆発から逃げるように進んでも他の学生に出くわす危険性が高い。でも内心としてはあんな爆心地に向かうのは怖い。なんか巻き込まれて死にそうだしな。
しかも爆発の中心地にいる生徒を狙って対学生の課題を与えられた生徒が向かって行ってる可能性も高い。
「前門の虎後門の狼といったところだよなぁ……」
そっと持ち物を確してみると半分位残った糸に煙玉1個、あとは短剣3本。5本あった短剣のうち2本はさっきの罠で糸に巻き込まれて使えなくなってしまった。本来なら割と楽に取り外しできるはずなんだが、ソコはソレ、俺の実力不足ということなんだろう。
残った3本も学生から逃げる際に何回も再利用して、刃が欠けてしまっているのもあるので武器として使用するには不安が残る。
「とりあえず、コイツらに糸を仕込んでっと……ん? あれは……」
即席の罠を仕掛けるための仕込みをしている最中に遠くで人影を見つけた。ちょっと近づいて見てみるとだんだんとその姿が分かる。
「アイツは……」
一見人の好さそうな憎たらしい顔。小太りの体型。
忘れる訳もない。憎たらしいその顔。
ダート=オルアス教諭がそこにいた。
「――です。分かって――。ですが――」
暗がりの森で何かを話す教諭。なんとも怪しい。
俺の中の補正も加えれば、このまま即通報して警備兵にひっ捕らえていただきたい位だ。そうすれば、流石に授業を担当するどころじゃなくなって俺の負担も多いに減るだろうに。いや、いっそこの際に冤罪でも……。
(つーかコイツは何してんだ? そもそもどうしてこんな所に?)
まぁこんな奴が勤められているのが不思議で仕方がないがコイツも肩書きの上では一応教師。だから監督としてか俺と同様の課題を与えられた生徒の標的役としてここにいる可能性は否定できない……か?
どのみち怪しい上に、見てるだけで清々しいまでの殺意が湧いてくるが。
「……しかし、リーナ=フロイスも――。そうですね、時間の問題ですかねぇ」
(あん? リーナ?)
急に出てきた名前に俺の意識は釘づけにされる。
だけど、急にどうして彼女の名前が? そもそもアイツは誰と話してるんだ?
なんとなく胸を握り締められるような緊張感が全身を強張らせる。なんだろう、此処にいては危険だと全身が叫んでいるようだ。
(どうする? これ以上先を聞くのは危険な気もするが……)
どうにも話をしているアイツの様子は少しおかしい。
まず、どうしてこんな森の影に隠れるような位置取りで話しているのか。普通の業務連絡でもここまで秘密主義を徹底することはない。
そして、話している内容だ。一見、普通の話をしているようにも思えるが、話している時のアイツの声音には聞き覚えがある。あれは、俺をいたぶっている時に出す猫なで声のような声だ。正直、関わり合いになりたくない。
(今は時間的には正午を過ぎた辺り。もしここで夕方のタイムアップまでいびられることがあれば……大けがで済むかどうかも怪しい)
正直なところ、何も見なかったことにしてここを離れるのが一番なのは分かってる。この距離ならアイツに見つからずにこの場を離れることも可能だろう。そもそも、いつもの俺なら悩む間もなく逃げてる。
それなのに今回に限って逃げないのは……。
(リーナの事を聞いちまったからだよなぁ……とーぜん)
背後から誰かに見られていて、すぐに襲われそうな恐怖感。そんな感覚を感じながらも俺は息を潜めて教諭の様子を探る方を選択した。
どこかで、俺の想像を超えるナニカが動こうとしているような予感があった……。




