* The Rain Of Sarcasm
エデとカーリナがこちらに来ると、ゼインはひさしぶりだなと声をかけた。
メロン味のカキ氷片手にカーリナが、少々気まずそうにも挨拶を返す。「ひさしぶり」
「二人だけ?」ブルーハワイ味のカキ氷を持っているエデが訊いた。
またはじまった。
「まさか」ゼインが答える。「サビナ待ってんだ」
「サビナ?」
彼女たちは声を揃えて顔を見合わせた。先にエデがこちらへと視線を戻す。
「サビナは今日、親戚の集まりじゃ──」
「エデ?」彼女たちの背後から声がした。「カーリナ?」
振り返った二人のうしろに、サビナが姿を現した。ゼインのほうを見て口元をゆるめる。
「ゼイン」
「サビナ」
ゼインはほっとした様子でミスターを片手に抱えたまま、立ち上がって彼女にハグをし、額にキスをした。
「電話くれたら迎えに行ったのに。ベラじゃあるまいし、一人歩きは危ないって」
なんだお前。
サビナが苦笑う。「電池があんまりないから。わかんなかったら電話するつもりだったよ」そう答えると、彼女は私に挨拶した。「ハイ」
「ハイ」と、私。
「これ、ミスター・ピンキー・レオパード?」サビナはミスターを示してゼインに訊いた。「懐かしい。とったの?」
「ああ、違う違う。ベラが射的で当てたやつ」
「ほんとに? すごい」サビナの視線が再びエデたちに向く。「あ、ごめん。今日親戚のとこだったんだけど、みんながベラとここに来るって聞いて、行けそうだったら行くから一緒に行ってって、ゼインに言ったんだ。ディナーが外食で、パパとママに送ってもらって、今来たばっかり」
「あれー?」今度はサビナたちの後方から、アドニスの声がした。「もしかしなくてもエデ?」
視線が一気に彼らへと集まる。
「カーリナも」アドニスはこの状況を、特に気にしないことにしたらしい。「よ、サビナ」
「ひさしぶり。すごいね、それ」
「ぜんぶベラの注文だよ」
彼はビニール袋に入ったクレープを両手にみっつ持っている。サビナとゼインの背後を通ってテーブルにそれらを置いた。
続いてクリアカップに入ったパフェを両手にひとつずつ持つナイルが、ルキアノスと一緒にエデとカーリナのうしろをまわり込んでこちらに来る。
「すごい混んでんの。特にパフェとワッフル」向かいの席に腰をおろしながらパフェをテーブルに置いた。「ルキがワッフルなんていうよけいなもん見つけるから、よけい時間かかったし」
私の傍らでワッフル入りらしい小ぶりな白い箱をふたつテーブルに置きながらルキアノスが苦笑う。
「けどベラは絶対、好きだもん。あったらとりあえず訊かないと」エデとカーリナに向かって微笑んだ。「ひさしぶり」
エデが気まずそうに答える。「──ひさしぶり」
「サビナ」彼女の腰に手をまわしたまま、ゼインが声をかけた。「パフェとクレープ、どっちがいい?」
「え」
「ベラの奢り。適当に分けて食うつもりだったんだけど」
「チョコバナナクレープがふたつあるから、それひとつ持ってけ」アドニスはすでに、私のななめ背後でベンチに腰かけている。「したらあとは適当に分ける」
私はルキアノスに訊いた。「ワッフルってナフキンかなんか、ついてんの?」
「ああ、一応ラップバッグがついてる。ぜんぶ入るのじゃなくて、ハーフサイズのだけど」
「じゃあそれもあげる」私はサビナに言った。「ここで食ってくのでもいいけど、ミスターがすごく邪魔するの」
「お前のだろ」ナイルはつっこみながらもゼインに向かって手を伸ばした。「よこせ」
「こいつ持ってたら、なんか落ち着くのに!」
文句を言いながらもゼインがナイルにミスターを渡そうとすると、アドニスがそれを奪って抱きしめた。確かに落ち着くとか、でも食うにはちょっと邪魔だとか言った。背中に背負うものなのに。
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ワッフルの蓋を開けたルキアノスがエデとカーリナに訊ねる。
「二人もワッフル、持っていく? って言っても、俺のじゃなくてベラの奢りだけど。しかもカキ氷には合わないかもしれないけど」
「でも──」
カーリナが戸惑い気味にこちらを見る。私の奢り、というのが気にかかるらしい。
「持ってけば」と私は答えた。「食ってないから味の保証はしないけど」
ちなみに私、ワッフルは大好きだ。店ではどうもぼったくられている感があるのであまり食べないが、実は大好きだ。
「屋台近くで食べてたヒトは、みんなうまいって言ってたよ」
言いながらワッフルを箱からふたつ出すと、ルキはそれを彼女たちに渡した。受け取ったカーリナはありがとうと言ったものの、エデは私に向かって口を開いた。
「そのカチューシャ、可愛い」猫耳のことを言っているらしい。「それも景品?」
なんだかトゲを感じた。その隣でやめろという意味なのか、カーリナがなにか言いたげな様子で彼女の腕をつついた。
けれどエデは止まらない。「自分でとったの?」
私は質問を返した。「見てたの?」
「二番街で見かけた」
「へー」つまり。「誰がくれたかも見たってこと?」
「“誰がつけてくれたのか”をね」
静かながらも一部を強調して言われたその言葉に、私は天を仰いで笑った。口元をゆるめたまま、再び彼女の視線を受け止める。
「なにが言いたいの? ゼインが射的でとったカチューシャを私にくれたことが、頭につけてくれたことが、そんなに問題? サビナがいなかったから? っていうか二番街でそれを見かけたのに、わざわざさっき、二人なのかって訊いたの? あんたほんと、どんな神経してんの? なにがそんなに気に入らないの?」
エデは視線をそらしつつ鼻で笑った。
「またヒトの男に手出してんのかって思っただけよ」
一年の時にカーリナがつきあってた相手、カルロに私がキスしたことを言っているらしい。
こちらも止まらない。「ねえ。あの時とは状況が違う。私はゼインにキスした覚えなんかない。しかもそれ相応のことをしたのはあんたたちでしょ? っていうか、あいつとつきあってたのはあんたじゃないのに、なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないの? 私がゼインに手出したかって? そんなこと、天地がひっくり返ってもありえないわよ。仮にそうなってるとして、私はともかく、そんな状況でこの場にサビナを呼ぶなんてこと、ゼインにできるわけないじゃない。くだらないことでいちいち世界の終わりみたいに悩んでる男なんだから」
「くだらねえとか言うな」ゼインが口をはさんだ。「っていうか」呆気にとられるサビナに言う。「カチューシャは確かに射的でとって、ベラの頭につけたけど。似合うとも言ったけど。ベラが金出してたからだから。変な意味じゃないから」
「これこれ」ミスターを抱きかかえたままのアドニスが、テーブルの上の白いビニール袋の中からピストル型ライターの箱を取り出して彼女に見せる。「これをベラが欲しがってな。一回ぶんじゃ当然とれなかったからこいつ、さらに二千フラム追加して、俺らに撃たせたんだよ。で、弾があと一発ってとこで落ちて。ジャンケンして勝ったゼインが、その一発でカチューシャをとったってだけの話」
納得したのかしていないのか、サビナはよくわからない反応を見せた。
「ああ」
ゼインがまた彼女の額にキスをする。
「あとでなんかとろうな」
そう言われると、彼女の口元はすぐにゆるんだ。「うん」
「で?」こちらは再びエデに言う。「状況を理解してんならわかると思うけど、私は男友達四人と一緒にここに来て、屋台をまわって遊んでました。筋違いのことをした覚えはありません。っていうか、あんたになんの関係があんの? 今さっきサビナが合流しました。ゼインとサビナは食うもん食ったら別行動。最初からそういう話。まだなんか文句あんの? どんだけヒトに嫌味散らせば気が済むの? 私ひとりの時はいくらでもやっていいけど、連れがいる時はやめてくれる? 本気でうざいから」
エデは怒りでいっぱいらしく、なにも言わずに向きを変え、ひとりさっさと早足で歩き出した。
「ちょ、エデ──」
カーリナも慌てた様子であとを追いかけた。
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冷めたクレープとアイスの溶けかけたパフェを食べながら、彼らはあれが嫌味かと、呆れた様子の反応を見せた。サビナはこの祭りのことを話したのは自分で、親戚の集まりで行けないと言っていた自分のことを心配してくれたんだと思う、ごめんとあやまってきた。私はどうでもいいと答えた。
ワッフルを食べ終わると、ゼインとサビナは別行動でデートに。ルキアノスは釣りだと言って千フラムを私にくれた。残金六千フラム。
右隣でミスターを抱きかかえるアドニスは、エデの行動にまた苦笑っていた。
「あんな嫌味続けられたら、さすがにキレて殴ってるかも。よくあれに耐えたな」
「慣れてるもん」と、私。
ナイルが言う。「いや、耐えてもないような気がするけど。静かに反論してたような、喧嘩買ってたような、キレかけてたような」
「確かにキレかけてた。でも私はよっぽどじゃないと手は出さないよ。それにもともと不機嫌な人間だから、あれくらいじゃそこまでキレてると思われないんだよね」
「あ、それはわかる。笑う時はすげー笑うけど、怒る時はわりとポーカーフェイスだもんな。どんくらい怒ってるかって、かなりわかりにくい」
「でしょ。怒りとか嫌悪ってのは、あんまり表に出さない。出していいところなら出すけど、本人の前じゃ出したりしないし。だからいつまでたっても嫌ってることをわかってくれないバカもいたりするんだけど」
ハヌルとかメガネとかゴリラとか。あれ、ぜんぶハヌルだ。
誘ってごめんとなぜかあやまるルキアノスを、そこはあやまるとこではないとナイルが止めた。私も同意して、元はなぜか嫌われてる自分が悪いんだと言った。
アドニスが私に訊ねる。「お前ほんと、なんであんな嫌われてんの? 小学校の時からあんなだろ?」
「知らないよ。小学校三年の時にはすでに嫌われてた。まえに話したでしょ、同級生何人かで遊んでる時にひとりの女子が声かけてきて、一緒に遊びたいって言われたけど、リーダーが誰だとか言いだしたのが誰だとかで言い合ってるうち、仲間はずれにしてるみたいになって、担任にチクられたあげく、責任がぜんぶこっちに来たっての」
「あー」思い出したらしく、彼は数度大きくうなずいた。「え、あれチクッたのが? エデ?」
「そう。それとカーリナ。そのあとも私が男友達といたら、男好きだのなんだのって、陰で言ってた。共通の友達が何人かいるからね、そういうのは耳に入ってくる。で、私がつきあってた男は、エデが小学校の時から片想いしてた相手らしいのよ。私たちが中学に入った時、男は更生施設に入ってて、戻ってきたのが五月。私はすでにリーズたちとつるんでて、戻ってきたそいつも、目立つようにじゃないけど、一緒にいるようになった。で、つきあいはじめたのが七月。そのあとすぐに夏休みに入って、二学期には私たちがつきあってるって噂が、たぶん確定状態で学年にまわってたと思う」
彼は渋い表情で首をかしげた。
「つまり。とりあえず男か? チクりの件はよくわかんねえけど、やたらと男と一緒にいるうえに、好きな男まで奪られたから? キレてるみたいな?」
「まあ、そういうことなんじゃないの? よく知らないけど。って言っても、小学校の時にいつも一緒にいたって言えるのは、ひとりか二人なんだけど。しかもむこうだって、たいてい男と一緒にいたんだけど」
「ああ」ナイルは納得の声をあげた。「そっか。単に嫌ってるだけじゃなくて、惚れた男を奪われたから、バレンタインで嫌味散らしたわけか。もちろんサビナのイトコの存在ってのもあるんだろうけど」
「そう。私と友達が同期に配ったのと同じクッキーを、オトコが持ってるのを見てね、“先輩もみんなと同じなんですか?”、“本命のヒトにはちゃんとチョコ用意しなきゃ”、よ。ありえない」
ナイルは笑って、その時の返しを訊いた。
私は少し悩んでから思い出した。あまり言いたくない答えだった。
「つきあってた奴が、こいつ冷たいから、俺の好きなもんなんか用意してくれるわけがないんだわ、とか」
「そんだけ? トドメがないじゃん」
「トドメはあった。私があんたの好きなもんてなんだっけって訊いたら、“お前以外に好きなもんなんてないけど”、よ。私は照れたりもしないまま、“そう言ってるから、チョコはいらないらしいわ”って。絶句してたよ、あいつら」
アドニスは笑った。
「最強だな、マジで」
「そうでもないわよ。三月にまた浮気があったし。あれも得意だったからね、私を天国から地獄に突き落とすのが。でもまあ、誰かに嫌がらせしたり仕返しするのでは最強だったかな。エデたちも、あんたたちと連絡とらなくなってからしばらくおとなしかったのに、なんでまたこうなってんのかわかんないけど」
「サビナじゃないの?」ナイルが答えた。「サビナがゼインとつきあいはじめて、友情にヒビが、みたいな」
「えらく脆い友情だな。でもさっきのあれ見る限り、カーリナはもうあんま、嫌味言いたそうじゃなかったけど」と、アドニス。
「カーリナって、右のほうだよな? メロン味の。それは思った。なんかエデってほうが、ひとり暴走してる感じ」
「これ以上めんどくさいことにならなきゃいいけどな」アドニスは私に言っている。「気つけろよ。ヤンギャルはマジでなにするかわかんねえから」
笑えるが、負ける気はしない。「余裕」




