○ The Same Kind Of
「エデとカーリナってのは?」マルコが私に訊ねた。「なにこれ」
「なにと言われても、ものすごく仲の悪い奴だってことしか言えない」
ケイが口をはさむ。「よく知らないけど、どっちかっつーと、ヤンキーの部類に入るほう。ってか、小ヤンキー? ヤンギャル? 男の前じゃ、すげーカマトトぶる感じ」
「男の前でそうすんの、わりと普通だぞ?」
「まあそうだけど。そいつらたまに学校で見かけるけど、ベラとオレが一緒にいたら、すげー睨んでくる。なんかひそひそ話したり。めっちゃうざい」
その時に限ったことではない。私が男と一緒にいればいつも睨んでくる。ひそひそと話すのは、私のことを男好きだと言っている。
マルコは笑った。
「嫌われてんだな。ヤンギャルだとしたら、男好きか。ただの僻み」
彼は肩をすくませる。
「ベラ、基本的に男のダチと一緒のことのほうが多いのに、どんだけだよって感じする。三年のフロア、嫉妬と僻みで溢れてそうだもん」
「やだねー。ま、この顔とスタイルじゃ、男が寄ってくんのはあたりまえだけど」マルコは携帯電話を確認した。メールが届いたらしい。「エルミから」と言って、届いたメール内容を読みあげる。「“え、ベラじゃなくて本人さんですか? 大人ですね! 早いですけど、誕生日おめでとうございます! じゃあ弟って、もしかして二年のケイのことですか? 知り合ったのがナンパだなんて初耳です。普通に先輩後輩だと思ってました。満足です、ありがとうございます! ちなみにハヌルからメールが届いたんですけど、少年院から帰還されたばかりなんですか? お疲れ様です! 少年院、どんなとこなのかちょっと興味があります”、だとさ」
「長いわ」ケイがつっこんだ。「しかもまともに話したことねえよ。馴れ馴れしくヒトの名前呼んでんじゃねえよ!」怒っている。
マルコはどうでもよさそうだ。「調子いいな。うざいわ、こういうの。けどな」ケイに言う。「これ、中高生だと普通だから。男好きの典型だけど、これが普通。知らない相手には、明るく性格よく思わせようとする。なんならメール続けようとする。知ったかぶりもかます。自分は仲いいですよみたいに。そんなのいちいち気にしてたら、女なんて吊れねえよ」
「こんな奴らは吊れなくていい」と、彼は無愛想に答えた。私が嫌う人間は、彼も嫌う傾向にある。
また携帯電話に返事が届いた。今度はハヌルからだった。マルコはそれを読みあげるのだが、内容は「“え、ベラじゃないの?”」、だけだった。それを無視すると、マルコは自分の携帯電話をジーンズのポケットから取り出し、勝手に電話番号とメールアドレスを赤外線で交換した。
携帯電話をこちらに返したマルコに、服を買いに行くのにつきあえと言われ、再びシモーナの車に乗せてもらい、四人でチック・ノーティド・ショッピングセンターへと出かけた。
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「教えてるとか、そんな大げさなものじゃないのよ」
買ってきた食材が詰め込まれたクラフトの紙袋をカウンターに起きながら、祖母は謙遜した様子で答えた。私は買い物の帰りに送ってもらい、今はすでに祖母の家にいる。マルコが帰ってきたことと、シモーナからレシピの話を訊いたことを話したのだ。
「そうなの? でもケイいわく、いくつかの料理は、まえよりおいしくなったって。マルコは久しぶりだから、少年院の料理に比べればなんでもおいしく感じるとか言ってたけど。シモーナが、よかったら今度、ディナーに招待したいって言ってたよ。っていうか、料理を教えてほしいって」
「あらあら」祖母は苦笑うと、控えめな微笑を返した。「私はかまわないわよ。あなたが決めてちょうだい」
そこでふと気づいた。私がアッパー・ストリートに行くなどとは、祖母は思いもしていなかったのかもしれない。
私からすれば、ケイがそこに住んでいることは昔からある事実として認識しているし、特に気にもしていなかった。けれど彼の家に行くことなどないと思っていたし、私だってもう一生、あの通りには行かないと思っていた。
こちらも、控えめな微笑みを返した。
「私もかまわない。いつでもいいって、あとでケイにメールしとく」
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翌日、朝。
ハヌルとエルミが、中学の第一校舎正面玄関前で私を待ち構えていた。あのあとの電話もメールも、一切を無視していたからだ。
本当に本人からだったのかと訊かれたので、そうだと答えた。その前提でメールを返したエルミはなぜか勝ち誇った笑みを見せ、疑いをかけたハヌルは、なぜかしくじったという表情になった。エルミは二度目の返事がこなかったことなどは一切口にせず、あれはケイのお兄さんだとハヌルに説明した。あと三週間で二十歳になることも。昔ケイが私をナンパしてきたというのは、当然言わなかったけれど。
そして私が教室で作業をしていると、またもマルコが現れた。ちょっとつきあえと。ものすごくイヤだったものの、状況的に拒否するわけにもいかず、しかたなく彼に続いて教室を出た。今日はヒトに見つかりにくいルートを通ってここまで来たらしい。三年D組のクラスメイトには思いきり“目撃”されているけれど。
「来るなっつったじゃん」私は廊下でマルコに言った。幸い、他のクラスの人間は廊下に出ていない。「なんのための携帯電話よ?」
彼は気にしていない。「んな怒んなよ。お前がメールだの電話だのを無視する人間だってのがわかったから、しても無駄だろーと思っただけ」
このすっとぼけぶりは、本当にムカつく。これほどイライラしたのは、いつ以来だろう。
「で、なんの用?」
口元をゆるめると、マルコは右腕を私の肩にまわし、中央階段のほうを向かせた。耳元で声を潜める。
「お前、マジで俺とつきあう気、ねえの?」
「あるかボケ」
そんな即答もやはり、彼は気にしない。「真面目に答えろよ。ケイの話じゃ、アゼルを待ったりはしてねえんだろ? 内心引きずったとしても、お前は戻る気がない。だったらべつによくね? 本気になれとは言わねえよ。俺もアゼルはキライじゃねえし、できれば会いたかった。だから奪うとか、そういうんじゃねえ。しかもケイいわく、俺とアゼルは同種。お前からすれば、たぶん俺は苦手な相手だろって話。けど同種だから苦手ってのは、逆に言えば、同種だからつきあえるってのもある。軽い気持ちでいい。もしつきあいが続いたとして、アゼルが戻ってきた時に、どうするかまた考えりゃいいんだし。どーよ?」
同種だから、苦手。同種だから、つきあえる。
そう言われてみればそうだ。けれど、マルコはマルコであって、アゼルではない。アゼルの代わりは、どこにもいない。アゼルはアゼルだ。
確かにマルコのことは、アゼルと同種だという理由で、少し苦手に思う。でもそれは、憎しみではない。私がアゼルを憎む気持ちとは、どう考えても比例しない。同種だからこそ、よけいにアゼルを思い出す。恨みや憎しみが募る。それらはすべて、アゼルに対してだ。アゼルとの記憶がまとわりつく。つきあえるはずがない。
私は、“そういう種類”の人間を好きになったわけではない。私が好きになったのはアゼルで、アゼルがたまたま、“そういう種類”の人間だっただけだ。それに厳密に言えば、ほんの一部がかぶっているだけで、根本的な部分は違う。世間や大人を憎む気持ちは同じなものの、そうなった原因は、アゼルとは違う。
思い出した。その根本的な部分でアゼルと同種なのは、むしろ私のほうだ。
だからこそ、アゼルを憎んだ。愛した人間に捨てられる気持ちを知っているくせに、私を捨てた。幸せな状態から、一気に地獄に突き落とした。その感覚を、真っ暗な闇に閉じ込められる感覚を知ってるくせに、私にそれを味わわせている。だからこそ、憎んでいる。そんな思いをしたくないからこそ、私はもう、誰ともつきあえない。
「無理よ」私は冷静に答えた。「だいいち、二十歳が中学生に手出したら犯罪でしょ」
「あ、やっぱそう思う? 俺もそう思う。けどお前は平気。高校生でとおすから」
なにを言っているのだろう。「もう離して。用がないなら帰って」
マルコはしかめっつらを見せた。「真剣に考えたか? もうさすがに、この年でバカやらかしてどうこうっつーのはないぞ?」
「普通に考えて無理。どう考えても無理。誰ともつきあう気、ないの。あいつのことなんか関係なく、恋愛なんかしたいと思わないの」
彼は小さく舌打ちすると、やっと手を離して腕を組んだ。
「んじゃ二番目の目的。お前を嫌ってる女っつーの、どれか教えろ」
私はぽかんとした。「は?」
「いいからそいつんとこ連れてけよ。来てんだろ、学校に」
「なにする気よ?」
「わけのわかんねえ詮索をやめさせてやんだよ」なぜか妙に喧嘩腰だ。「あと」再び口元をゆるめて身をかがめると、私の耳元で囁いた。「エデとカーリナっての教えろ。喰える顔なら適当に遊んで捨ててやる」
「本気?」
身体を起こし、マルコは悪意を込めて微笑んだ。
「ヒトの弟にイヤな思いさせる奴、放っとくわけにいかねえからな」
ブラコンは結構だけれども、気にしすぎだ。
しかたなく、私はエルミに電話した。D組の担任も、B組とC組の担任も、昨日に続いて今日も学校に来ていない。A組の担任は、毎日と言っていいほど学校に来ている。必死なのだ。エルミによると、担任は今日、職員室当番で教室にはいないという。
「紹介はできないわよ」携帯電話をポケットに戻しながら、私はマルコに言った。「仲よくないの。どれかだけ教えるから、あとは勝手にやって」
「わかってるっての」
「あとね、行くのはA組の教室だけ。エデしかいない。カーリナのことは放っといて」
「あっそ。まあいいよ、それで」
曖昧な記憶ではあるのだが──この国の法律では、二十歳以上の成人が十五歳未満とつきあったり関係をもったりするということは、必ずしも犯罪になるわけではない。大半は本人同士がいいならという条件のもとで許される。だが十五歳未満側の親がその交際を不服に思えば、法的な訴えを起こすことができる。たとえ十五歳未満側が、相手と真剣に交際していると訴えてもだ。
その場合、成人側が相手と真剣な交際をしていると証明できなければ、児童福祉法で逮捕に繋がり、最悪罰金や懲役が科せられる。真剣な交際の証明といえば、婚約証明書。これという決まった形はないものの、それを文書に起こして将来を誓い合うだとか、そんなことをしなければ証明できない。意味がわからない。




