* Make Consistent
ショッピングセンターでドーナツを買うと、あらためて公園へと向かった。ナイルは私に三個のドーナツを奢ってくれ、ルキアノスは私以外に二個ずつ、適当なものを買った。
ふと、以前にも似たようなことがあったことを思い出した。二年前、二学期の始業式の日。アゼルとマスティと三人でいて、エルミに連れて行かれそうなブルを、アゼルの命令により、私は大嘘を吐いて救いだした。恋人のフリはしていないものの、平気で嘘をついたという点では変わらない。私は嘘がキライなはずなのに、つくときはとことん嘘をつく。自分で自分がよくわからない。
やっと薄暗くなってきた空の下、公園には、すでにゼインとサビナが到着していた。ゼインに遅いと怒られた。彼はブリキバケツを持ってきてくれている。アドニスは私のバッグからカメラを出し、彼らの写真を撮った。ゼインは調子に乗って、サビナとイチャつこうとした。彼女は拒否した。
公園は木々がランダムに植えられていて、遊具といえば小さなスライダーがある程度、あとは木製の古びたテーブルベンチがいくつかあるだけの、小さなものだった。二組が前後に並んでいるテーブルベンチに座ってドーナツを食べながら、ルキアノスの元カノとのやりとりを話した。アドニスとゼインはやはり爆笑した。慎ましいキャラクターなど、私には似合わないと思っているらしい。
「完無視だなんてことするからだよ」
隣でアドニスが言った。私たち、ひとつのベンチで向き合うようにして座っている。テーブルをはさんでルキとナイルが、隣のベンチテーブルに、サビナとゼインが並んで腰をおろしている。
「そういうのはちゃんと言わないとな」と、ナイル。
ルキが反論する。「何度かは言ったよ。無理だって言った。もうとっくに冷めてたし。それでも聞かなくて電話だのメールだのしてくるから、単に無視してただけ」
「適当な言い訳、しなかったわけ? 好きな女ができたとか、彼女できたとか」
「してない。しつこくなったのは去年の秋頃だけど、六月と七月にも連絡きて、その時に無理だって言ったから。言い訳しても、どうせ信じないと思って。っていうか地元が同じだったら、勘ぐるじゃん」
ゼインはなにかを思い出した。「そういや去年、あいつがオレのアドレス知りたがってるって、話まわってきたな。やだって言ったけど」
「オレはそんなのなかったわ」アドニスが言う。「だって相当嫌われてるし。こっちも嫌ってるし」
私とサビナはカフェオレを飲みつつドーナツを食べながら、彼らのやりとりを静かに聞いている。
「けどあの太りよう」ナイルがつぶやく。「相当食いに走ったんだろうな。しかもやたらと濃いメイク。面影がなさすぎる」
ルキは困っている。「もう言うなよ。最初に別れるって言ったのはむこう。確かにほったらかしにはしてたかもしれないけど、友達と自分のどっちが大事かなんて言われたら、誰でもムカつくだろ」
「オレは平気」ゼインが微笑んでサビナを見る。「こいつらなんかより、サビナのほうが大事って言うから」
ドーナツを口にくわえたまま、彼女は顔を真っ赤にしてかたまった。
アドニスは彼に呆れた表情を向ける。「お前、そのうちダチなくすぞ」
「お前らならわかってくれるって信じてるから」
「なんだそれ」
「ベラはどっち?」ナイルが訊いた。「友達とオトコってなったら」
質問の意味がわからない。「さあ。状況によるんじゃないの」
「んじゃ──」少し悩み、アドニスはもしもの状況を考えた。「お前はオトコとつきあってる。仲のいいダチが、そのオトコのことを好きになって、それを正直にダチに相談された。お前はどうする?」
自分とつきあっているオトコのことをアニタが好きになった。「告白すればって言う。それでオトコがそっちに行くなら、それはしょうがない。フラれても慰めないし、成功して自分がオトコと別れることになっても喜ばない。でも逆恨みはしない」
「実際、そんなうまくやれると思う?」ナイルが言った。「自分が相手のこと、すげー好きな状態で想像してみろよ」
つまり、アゼルとつきあっていた時。「そのまんまだよ。裏切られたなんて思わないし、奪われたとも思わない。自分を好きじゃない奴となんかつきあったって意味ないし、自分への気持ちがないならオトコと別れる。告白するだけならどうなるかわかんないし、いくら自分が相手を好きだとしても、相手が自分のものってわけじゃないじゃん。一生変わらない気持ちなんて、私は信じていないので」
「お前、やっぱ変」アドニスはサビナへと視線をうつした。「サビナは?」
彼女は眉を寄せて少し悩んだ。
「告白しろなんて言えないし、その子とも友達続けられるかってなったら、ちょっと──」
「だよな」彼がまたこちらに視線を戻す。「これが普通だぞ」
私は“異常”だと、さらりと言われている。「知るかそんなの」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なにか思いついたらしく、ナイルは突然指を鳴らした。
「わかった」
アドニスが反応する。「なに」
「ルキ、指輪買えばいいんだよ。女避け」
「左手の薬指にってこと?」彼が訊いた。
「そうそう、ベラみたいに。ハタから見ればカノジョいるってことになるじゃん」
「ああ、それいい!」ゼインも賛成した。「んで言い寄られたら、ナンパの時にベラがオレらにしたみたいに、平然と嘘ぶっこいて──」
彼ははっとして言葉を切った。
私たち全員、黙った。
沈黙を破ったのは、サビナ。「──ナンパ?」
はい自爆。ボン。
「言わないでって言ったじゃん」私は言った。
「え」サビナがこちらに視線をうつす。「え?」
さて、うまく辻褄、合わせられるかなと。「ごめん、嘘ついてた。ゼインとナイルに最初に会ったの、ルキの家でじゃない。今年の二月、私が逆ナンしたの。あのアホと別れたばっかりで荒れてた時。人生初逆ナン」私の人生初逆ナンは中学一年の時ですが。「でもね、精神病んでたうえに初ナンパだから、かなりおかしなこと言ってたのよ。まあ逆ナンしたって言っても恋愛目的じゃないから、私はアドレスとか番号の交換はしてなくて、ちょっと話しただけなんだけど。」
これは間違っていない。アドレスと電話番号を交換したのはリーズとニコラだけだ。
「そのあと四月、ルキと一緒にいる時に二人に会って、ゼインがあんたとつきあってるっての、わかったんだけど。さすがに二月のあれはないわとか思って、言わないでって頼んだの。変なところで見栄っ張りだから、あのアホのせいでおかしくなってたとか、思われたくないし」
というか、単にキレかけていただけだ。
私が長々と言い終えると、サビナは呆気にとられた表情のままどうにか、ゼインに訊いた。
「──そうなの?」
彼は覚悟を決めた。「そう。ごめん、嘘ついて」
「ゼインが悪いんじゃないのよ」私はつけたした。「私が言うなって言ったから。ついでに言えば、その逆ナンした時、リーズとニコラも一緒にいたんだよね。っていうか私が勝手に逆ナンしたゼインたちを、二人のところに連れてっただけなんだけど。で、ゼインとナイルには話してあるから、二人が施設に入ったってのも、知ってるわけだけど」
「ええ?」彼女はわけがわからないらしく、こちらから、ゼイン、そしてまたこちらを見やった。「よくわかんないんだけど」
私もわからない。
「二人のアドレスは」ゼインがサビナに言う。「もう消してる。ベラの言ったとおり、恋愛目的じゃなくて、最初から友達でって話だった。けどほとんど連絡なんてとってなかったし、すぐお前とつきあいはじめた。ルキの家で会った時にリーズとイトコだってのがわかったけど、なんか話がややこしくなりそうだったから言わなかった。ごめん」
もうすでに私の頭の中、相当ややこしくなっている。
「ついでに教えといてあげる」私はさらにつけくわえた。「アドニスとルキも、リーズとニコラのこと、知ってる。最初に二人がナンパしてきた時、確かに私はひとりだったんだけど、ちょっと離れたところに、リーズとニコラがいたから。まあちょっとモメごとがあったりして、けっきょく友達続けてんのは私だけなんだけど。あともうひとつ。アドニスは一ヶ月くらいだけど、アニタとつきあってた」
サビナがぽかんとすると同時にアドニスはぎょっとした。私は無視した。
「まあリーズたちが施設に入っちゃったこともあって、私がかなり荒れた状態だったから、二人のことを知らないうちに振りまわしてたらしくて、けっきょく別れちゃったんだけど。それをエデやカーリナに言うかどうかは、好きにしてくれてかまわないんだけど」
ナイルが小声で私に言う。「暴走してるぞおい」
気にしない。「そんでね、ひとつ忠告しといてあげる。あんた、私とゼインとナイルが、ほんとにルキの家で初対面だったのかって勘ぐってたけど。確かにそれは嘘だったわけだから、間違いじゃないんだけど。事実を知ったらこうやって、ややこしくもなるわけだから。あんま気にしないほうがいい。やましいことはなにひとつないから、今言ったことはぜんぜんかまわないんだけど。嘘ついてくれてたほうがいいことだってあるのよ。私はあのアホ男とつきあってるあいだに、二度浮気されてる。しかもそれをバカ正直に報告された。一度めは別れたけど、二度めは逆ギレして、別れなかった」
「マジで?」アドニスが口をはさんだ。「それは初耳だわ」
「さすがにアホらしくて言えないわよ」と答えてサビナへと視線を戻す。「ちなみにあのアホが私に浮気を報告したのは、私を動揺させるため。相当私にムカついてたから。でもゼインがついた嘘は、そんな悪いもんじゃないの。あんたを困惑させないため。嘘っていえば聞こえは悪いけど、なんでも正直に話せばいいってもんでもないのよ、たぶん。でも私たちがいつ知り合ったとか、どう知り合ったとかってのは、たいした問題じゃない。どうでもいいことなら、妙に勘ぐらないほうがいい。めんどくさくなるだけだから」
ルキアノスが苦笑う。
「ベラはめんどくさいことがキライだし」
「ええものすごく」これで大半のことはぶちまけた。あとは知らない。
「いや、オレは勘ぐられても平気だよ?」ゼインがサビナに言う。「──いや、どうだろ」
「勘ぐらなさすぎるのもどうかと思うけどな」と、アドニス。「お前の無関心さは尊敬もんだけど、たまにどんだけ興味持たれてないんだと思って、わりと傷つく」私に言っている。
笑える。「どうでもいいじゃない。人間てのはね、たいていは訊かなくても、勝手に喋るもんなのよ。その話にすら嘘が混じってるかもしれないし、穴があるかもしれないし、もしかしたらぜんぶ本当かもしれないけど。
相手が勝手に喋った情報を、自分の中で納得のいくよう収める。それがいちばん。妙に勘ぐったら、不信感が生まれる可能性だってある。他にも同情とか優越感とか嫉妬とか。そんなもんに振りまわされるくらいなら、気にしないほうがいいでしょ。せっかくのデートの最中に呼び出されて、花火につきあわされるゼインとサビナが内心どう思ってるかなんて気にしたところで、今さらどうしようもないわけだし」
そう言うと、アドニスは疑わしげな様子で彼らを見た。
「──迷惑系?」
ゼインと顔を見合わせ、サビナが苦笑う。
「ううん、ぜんぜん」
「え、マジで?」ゼインが言った。「ごめんちょっとうざかった」
「ほらね」と、私。「まあ私はそんなことですら、どうでもいいんだけど」
「どうでもいいってなに!?」
「アドニスがいくら二人の邪魔をしようとしても、止めるつもりはないですよって話」
彼は否定した。「いやいや、邪魔してるわけじゃねえから」
「なんでもいーよ」ナイルが机の上に置いていた私のデジタルカメラを手に取る。「暗くなってるし、さっさとやろ」




