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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 02 * UNSTABLE HEART
10/139

* Indirect Kiss

 球技大会当日、五月晴れ。

 体育館での軽いノリでの開会式を終えると、男子はグラウンドに、女子も試合を控えたクラスと応援組以外は外にと、ぞろぞろと外へ向かった。

 ナンネたちA組のバレーもあるけれど、ひとまずこちらも体育館を出て三年C組、ゲルトたちのサッカーでも覗こうかというところで、A組男子のコージモと、B組男子のスニヤが声をかけてきた。彼らは二人とも、去年の修学旅行初日の抜き打ち検査で煙草が見つかり、説教と罰を受けた。

 「優勝したらキスっての、サッカーでも同じだべ?」コージモが私に訊いた。

 「そうなの? てっきりドッジだけかと思ってた」

 「両方だろ」スニヤが言う。「つまり両方で優勝すれば二回できるっていう」

 どうでもいいものの彼は最近、また背が伸びている気がする。イヴァンの身長を追い越しそうな気がする。

 「まあ、なんでもいいけど。でもD組が優勝したらその話、なしだから」と、私。

 「女子バレーは知んねえけど、ドッジボールもわからんけど、サッカーは絶対負けねえ」コージモは自信ありげに言った。小学校の時からずっとサッカーをやっているから当然だ。

 ダヴィデは呆れた顔をしている。「お前ら、惚れてるわけでもない女とそんなことして、なにが楽しいの?」

 スニヤがわけのわからない言葉を返す。「お前、できたら儲けもんだぞ? 学年一っつーか、学校一のイイ女!」

 トルベンがつぶやく。「イカれた女の間違いだろ」

 「お前ら感覚、ズレすぎだから」

 セテは苦笑った。「っていうか本性見ちゃったらもう、な」

 「っつーか」ペトラが口をはさむ。「性格はともかく、外見的にベラが学校一美人だってのは認めるけど、なんでそれを堂々と言えるのかがわかんない。本人を目の前にして」

 アニタがつけたす。「っていうか、他の女子を目の前にして」

 「そりゃお前、ベラは照れたりしないから」スニヤが言った。

 コージモが補足する。「他の女とか、お前らだって、言われたら照れるべ? 言っていい相手と言っちゃダメな相手ってのがいるんだよ。お前らなんかに言ったら、絶対勘違いするだろ。つけあがるだろ。だから無理。キスとかもっと無理」

 ペトラはキレた。「誰がお前らなんかとするかボケ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 グラウンドでの男子サッカー。

 Aブロック、ゲルトたち三年C組は一年に勝った。

 だがそのうち、ケイのいる二年E組をくだしたコージモ率いる三年A組に負けた。ケイはドッジのみを本気でやるので、サッカーはどうでもいいのだという。去年私がそうしたように、ドッジボールのために体力を温存しているのだ。彼は真剣にやれば、サッカーも上手なはずなのに。

 Bブロックでは三年D組と三年B組の試合があり、B組が勝った。A組とB組が決勝進出らしい。

 一方体育館、私が本気モードの女子バレーボール。

 小学校で一時期バレーボールをしていたハヌルがいるA組に、私は勝った。つまり三年D組が勝った。

 C組は一回戦で二年に負けていて、勝ち上がってきたのはB組。

 決勝で私、アニタとペトラに勝った。三年D組が優勝した。

 バレーの決勝戦が終わったあと、昼食のために体育館を出て教室へと向かいながら、アニタは腹立たしげに声を上げた。

 「ムカつく! あんだけやる気なかった奴に負けた!」

 「私はバレーは真面目にやるって、ちゃんと言ったじゃん」

 ペトラがつぶやく。「恐ろしいほど強かった。スパイクが鮮やかすぎて強烈すぎて、本物のバレー選手かと思ったし」

 「強かったよね」とカルメーラ。「ほとんど後半のベラの得点だもん」

 バレーは片側九人制を採用しているものの、全員が一度に試合に出るのは無理なので、一試合につき前後半の交代制で行われる。

 アニタが嘆く。「優勝狙ってたのに──」

 グラウンドからゲルトたちが戻ってきた。男子サッカーも決勝が終わったらしい。

 「決勝、どうなった?」ペトラが訊いた。

 セテが答える。「三年A組対三年B組、A組が優勝」

 「マジで」

 コージモがにやつく。「だから言っただろ、負けねえって」サッカー部そのものは特に強いわけではない。

 スニヤはヤーゴに怒った。「お前がシュートはずしまくるからだぞ!」

 彼が反論する。「なんでオレ!? お前だってパスミスしたりシュートはずしたりしただろ!」

 それを無視してダヴィデがこちらに訊く。「それより女子バレーは? 決勝だったんだろ?」

 「当然私が勝ったに決まってんじゃん」と、私。

 彼は指を鳴らした。「よっしゃケーキ二個ゲット!」

 シスコンめ。「自力で取れや。っつーか男子はなにもしてないのに、女子が優勝したから男子もケーキもらえるって、卑怯だよね」

 そう言うと、彼は表情をしかめっつらに変えた。「がんばったんだぞ一応」

 「はいはい。二回戦で負けといてよく言う」

 「で、ようするに」カルロが口をはさんだ。「え、今これ、どういう状況? サッカーでA組が優勝したからケーキ二個だよな。で、B組が一個。女子バレーはD組が優勝でケーキ二個。B組は準優勝だけど、そっちのぶんのケーキは繰り下げか」

 「繰り下げのケーキがジャンケンてのが笑えるよね」と、ペトラ。

 ヤーゴはトルベンの肩に手をかけた。

 「当然一個くれるよな、ケーキ」

 「アウニにもらえばいいんじゃね」

 「ぶっ飛ばされてえのかお前」

 彼がトルベンに挑んでも、おそらくあっさり負けるだろう。「男子に食べる資格はないと思う」

 「ベラがよこすわけないし、ダヴィもよこすわけないし」ゲルトが言う。「ドッジで優勝か準優勝できんかったら、マジで疲れ損だわこれ」

 「え、あげるよ?」私は彼に言った。「ショートケーキでいいなら」

 「マジか。でもチョコのほうが──」

 「じゃあ半分ずつ」

 「絶対どっち側かで喧嘩になるよな」

 「間違いない。けどあれだね、イヴァンにも分けなきゃだから、三等分だ」

 イヴァンが反応した。「オレはいいよ。そこまでケーキが好きってわけでもねえもん」

 「くれるっつってんだからもらえばいいべ」とセテ。

 「ドッジで優勝すれば済む話だろ」トルベンはあっさり言った。

 アニタが割って入る。「っていうか、早くランチ行かなきゃ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ヤーゴとトルベン、ダヴィデを先頭に、一同揃って、第二校舎の階段をあがる。

 私は二.五階の踊り場で立ち止まり、三階へのステップを踏んだコージモの腕を掴んで引き止めた。

 そのままその腕を引き寄せ、彼にキスをした。気持ちがない時は、相手に目を閉じさせないのがいちばんいいなと、勝手に思っている。

 フレンチ約三秒。

 唇を離し、私は彼に微笑んだ。「終了」そして腕も離す。

 「やべえ」コージモはそわそわしていた。「すげえドキドキしてる、今」

 「あほ」

 アニタの隣、呆気にとられたらしいペトラがつぶやく。「マジでしたよ」

 「ドッジで優勝したらもう一回できるべ?」コージモが言った。

 「ドッジは優勝させねえよ!」スニヤは睨むようにセテとカルロ、ヤーゴを見やった。「勝つ。絶対勝つ」

 セテは呆れ顔。「なにがしたいんだお前ら」

 「何回しても同じだと思うけど」と、私。

 「こういうのは何回してもアリだから。っつーかもうキスしたし、つきあってくれる?」

 再びコージモに微笑みを返す。「死んでもイヤ」

 彼らは笑って、カルロがヤーゴに仲間だなと言った。ヤーゴは怒った。

 かまわず、私はスニヤの隣に立った。彼に訊ねる。

 「間接キスに興味ある?」

 「は? 間接?」

 「コージモと間接」

 「それはない」

 「そ。いろんな意味で残念」

 そう言うと、私はスニヤの体操着を掴んで身体を引き寄せ、彼にもキスをした。

 フレンチ約二秒。

 唇を離すと、スニヤは呆気にとられていたけど、私は口元をゆるめた。

 「間接キス」

 ゲルトとセテは天を仰いで笑った。

 「それずるくね!?」コージモが言う。「優勝してないのに!」

 「いやいや、よく考えろって」笑いながらゲルトが言った。「キスはキスだけど、間接だぞ。お前と間接だぞ」

 「これは微妙」セテはおなかを抱えて笑っている。「ものすごい微妙」

 その言葉どおり、スニヤは微妙そうな顔をしていた。

 「マジですげえ微妙な感じ。なにこれ」

 アニタとペトラとカルメーラも苦笑っている。まさに“間接キス”だった。

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