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2. かくりよの村

 第二話から樹とルルの異界渡りが始まります。はたしてどんな世界なのでしょう…?

神様が大事な霊的な話をしてくれますので、それもお見逃しなく。

 

 意識が戻って目を覚ますと俺は知らない町の車道に立っていた。道路は俺から見て右側の内海に沿うように長く伸びており、海の手前には緑に覆われた丸い島が陸続きに存在していた。よく見ると島の入り口には朱色の鳥居が建っている。


 ここはどう見てもさっきまでいた神様の温室のある世界とは違う。

自分が今どんな場所にいるのかゆっくりと把握していたとき、俺はあることに気が付いた。一緒に異界渡りをしたはずのルルがいない。つまり俺は今まったく知らない世界に一人で辿り着いてしまったのである。

 だが俺は妙に落ち着いていた。あまりの展開の速さについていけず、思考がパンクしたからかもしれない。

俺はとりあえず目に入った島に一人で向かうことにした。もうあの乱暴鳥人間なんてどうでもいい。どうせ俺を置いていきやがったんだ。あの娘が俺を見下しているのはよーく分かったし。

 気がついたときには既に島に着いていたので、自分が元いた道路からどうやってここに来たのかは記憶になかった。島に着いてシンプルな鳥居の前に立ってみたが、周りにも鳥居の先にも人影が見当たらない。

俺はこの先に進むことが悪い行動である可能性を感じ、誰にも見られていないことを入念に確認してから鳥居をくぐった。


 次の瞬間、俺は目を疑った。さっきまでは鳥居の向こうに小さな森が広がっていたのに、今俺の目の前に見えているのは草原と砂地が混ざった平地とそこに点在する油色の岩々だからだ。全ての岩には出入り用の穴がくりぬかれており、これらはおそらく誰かの住居だ。さらに周囲を確認するとヤシの木に似た南国風の木々が点々と生えていた。


 この場所の様相を少しずつ認識すると、人々の存在がぼんやりと見えてきた。その姿はぼやけてよく見えないが、乳白色の麻素材の衣服を着ており、そしてこの居住区では数人の老若男女が生活を営んでいるようだ。

そして不思議なことに皆俺の存在に気づいていない様子だった。目の前に黒Tシャツとカーキ短パンの明らかに異質な奴がいるのに。


すると最初に目に入った岩の家の中から中年の女性が姿を現し、俺に話しかけてきた。けれどこの世界と俺のチューニングが上手くいっていないせいか彼女の声が聞こえない。黒髪センター分けの彼女はそれでも朗らかな表情で俺に話し続けていた。

 自分に向かって話し続ける彼女をぼーっと見つめていると、ふと俺の頭の中に


 【この女性の住む岩屋は宿】


 という言葉が浮かんだ。どうやら彼女の話の内容が断片的に俺の意識に伝達されているようだ。


 ぼんやりとした意識のまま、元来た方向を振り返ると、そこには鳥居と草原だけがかなり奥の方まで広がっていた。

俺は自分の意識内だけで慌てた。海は?さっき俺が見ていた内海は、海沿いの道はどこに消えた?


 普通の人ならさっきまでそこにあったものが忽然と消え失せて何か違うものに変化していたらパニック状態に陥るだろう。しかし俺の意識は相変わらずぼーっとしていて(きっと鳥居を境に別の異界に入ったのだろう。)と、この奇妙な状況をあっさりと受け入れていた。


 いつの間にか俺は村の人々に歓迎され、大変厚くもてなしを受けた。村の人々と交流していると、この村には学校があるという情報が頭に浮かび、次の瞬間俺は小学校の教室内に移動していた。

 教室は俺の学生時代と同様に、あのよくある白い壁と、木でできていると思われる薄茶色の学習机が生徒の人数分規則正しく並んでいる。そこには小学生から中学生くらいの男女の子どもたちが席についており、皆大人と同じ服を身にまとっていた。

 この学校で一体何を勉強しているのかと疑問を抱いていると、頭の中に再びこの村に関する情報がぼんやり浮かんだ。


 【この村では人々の魂を導く《霊導れいどう》という習わしがある】


 【村の全ての人の魂をより高い次元に導く【先達(せんだつ、もしくはせんだち)】と呼ばれる三人から六人ほどの初老の男性たちがおり、人々を霊導する神の化身のような役割を担っている】


 なにやら難しめな話ではあるが、俺は祖母の影響でそういう霊的な話はある程度理解できた。神様と魂や生まれ変わりなどについて話せたのもそのおかげである。


 気がつくと知らない間にまた岩の家々のある場所に戻ってきていた。宿の女性がまたなにかを話している。

それによると、どうやら俺も知っている程の大規模な宗教の最高指導者がこの村の出身らしい。

宿の女性の言葉が「○○○○○は外に行っちゃったけどねえ」と俺の頭の中に響いたが、その最高指導者の名前はよく覚えていないことにしておこう。

 突如俺の口が勝手に動いて「今は若い人たちが霊導する側になろうとしているんですね」と女性に語りかけた。

 今のは何だ?とギョッとしていると、再び女性の声が頭の中に響いてくる。


「彼ら先達は私たちのトップに君臨しているわけではなく、ここにはリーダーや王という概念はありません。この場所では皆平等なんです」


 この村の学校では、子どもたちが将来的に人々を霊導する役割を果たすべく、現世の人間には到底理解することのできない高レベルな霊的学問を学んでいるという。


 俺はこの異界で一通り見るべきものを見たな、と確信し、再び最初に通った鳥居の方へ戻った。

鳥居をくぐれば元の海や海沿いの道路が現れるだろうと思ったのだが、いざ鳥居をくぐるとそこに海はなく代わりに現世にもあるような住宅街が広がっていた。さっき歩いてきた海沿いの道路はあるのだが、海がない。海がないのだ。


 この時はプチパニックになり後ろを振り返るとまだ鳥居は存在してくれていた。よかった。鳥居があれば村に戻れる。

 なんだかあの村にいるときと外界に出ているときとでは自分の意識に違いがあるように思える。だってさっきは短時間での景色の変化をなんとも思っていなかったのに、村の外にいる今は恐怖し混乱しているのだから。

 とりあえず怖くなったので再び鳥居をくぐり村に戻ると岩屋の宿の女性に会うことができた。女性の声が頭の中に響く。


 「ここは半分かくりよ半分現世の場所なんです」


 この異界の村には結界があり、外界とは完全に隔たれていて他の世界の影響を一切受けないという。


  その話を聞いていると、村の岩屋の表面に朱色の見たこともない文字らしき記号がひとりでに浮かび上がった。

 その様子が怖くて俺はまた村を出た。そしてまたおそるおそる戻ると村と自分の波長がどんどんずれていき、宿の女性の姿も正しく認識できなくなっていった。

 そうしているうちに俺は現実の自分のベッドの上で目を覚ましたのだった。




 あれ…?あの村は?というかその前に会った神様は…?




 ……ルルは…?



 簡単な説明しかされず、あまつさえ異界渡りに出張からの強制帰宅。この扱いはさすがに怒っていいのでは?


 チュン、チュン、俺の住んでいるアパートの敷地内に生えている立派な木にスズメがよく集まるので、毎朝いかにも心地よい朝を迎えました風なシチュエーションを体験できる。

 鳥か…鳥を見るとあの凶暴な初恋相手を思い出す。好きな人(?)に殺されかける男なんてそうそういない。いやこの荒れた現実社会ではわりとあるか。


 とりあえず現状俺には大学生という義務があるので、大きなあくびをしながら腹をかき、寝床を後にした。


 あんなに酷い目に遭ったのに、俺はまたルルに会いたい欲が湧き上がっていた。あの時、人生で初めて恋い焦がれた相手とやっと意思疎通が出来たのだ。彼女に暴力を振るわれたり見下されているとはいえ、そう簡単にこの恋の炎は消えることはない。

 普通の人ならば初恋を迎えるのは早くて園児のときだろう。だが俺はルルに出会うまで心から恋する対象には出会えていなかった。もちろん女の子には興味があったし、可愛いと思う子もいたが燃え盛るような恋には至らなかった。


 もしかしたら、講義中寝てる間に彼女に会えるかもしれない…!愚かな企みをして、講義中に寝ている学生に甘いと定評のあるおじいちゃん教授の講義で机に突っ伏して寝てみた。


…うん。そういえばこれまでも居眠りではルルの夢見たことないんだった。ていうか夢すら見ないんだった。

 バカは俺です。と中途半端に居眠りして無駄に低血圧と半覚醒状態のボーっとする意識のまま、テキトーに課題をこなし友達の遊びの誘いも断って帰宅した。早く寝たい!早く寝てルルに会いたい!



 ワクワクと共に心地よい眠りにつくと、気がついたときにはあの神様の温室にいた。


ぼんやりとした意識で辺りをきょろきょろと見回し、今自分が一番会いたい人を探す。


すると大きなカゴ編みのベッドからすうすう寝息が聞こえた。

ルルじゃね?!俺は足早に彼女の寝床に向かった。ルルだ。大きくて美しい羽を器用に折りたたんで身体を丸めて眠っている。

 か、かわいい~!陽だまりの温室の中、温かな光に包まれて見目麗しい鳥人が穏やかな表情で眠っている。俺にとってはあまりにも可愛いその姿を鼻息荒くムフムフしながら見ていると突然背後から声がした。


 「樹君は本当にルルが好きだね~」

 

うわっ!神様?!と驚いた俺は大声を出してしまい、穏やかに寝ているルルを起こしてしまった。ルルはもぞもぞと動き不機嫌に身体を起こしてこちらを怒りの形相で睨んでいる。


 「あ、樹君、ルルは起こされるの一番嫌いなんだよ」と神様がにこやかに教えてくれた。

俺は「絶対にもっと早く教えてほしかったんですけど?!」と叫んだが、飛びかかってきたルルに潰されてその声はかき消された。

 

 神様はハーピーちゃんにボコボコにされる俺を見て

 「うーん、ルルを使役できるようにならないとな~」と悩んでいた。


 そのとき俺は前回の異界渡りのことを思い出した。そうだ。ルルと一緒に羅針盤に導かれて異界に到着したあと俺の側にルルいなかったじゃねえか!


 「神様、いくつか質問があります!」


 「いいよ、なんでも聞いて」


 俺は神様が異界渡りを俺にさせる目的と異界に渡ったときにルルがいなかった理由などいろいろ聞きたかったことを神様にぶつけた。

 神様は穏やかな表情で俺の言葉にうんうんとうなずきながら根気強く最後まで聞いてくれた。そうして俺がひとしきり鬱憤も込めた疑問を吐き出すと、神様は一拍おいて説明を始めた。

 

「人間の君を巻き込んで、困らせて申し訳ない。君の疑問にできる限り答えるよ。」


 「僕が樹くんを選んだのは、君に異界を訪れる能力があるからだよ。そして異界渡りを君にさせるのには理由がある。


この先、宇宙開闢(うちゅうかいびゃく)以来の最も大規模なシステムの変更が霊界・神界・神仙界・天人界や地獄界、現世など、高次元界から低次元界、霊界層にかかわらず全ての世界で起こるんだ。


君たち二人を異界に遣わすのは現行のシステムが変わってしまう前に僕が確認したいことがあるからなんだ。」

「その理由や内容は人間や邪な存在の与り知らないことだから、それだけは言えないし、話しても屈折して伝わってしまう恐れがあるから……ごめんね。」



(宇宙開闢については祖母から聞いたことがある。まあ簡単に言うとこのすべての世界の始まりだ。)



 神様は話し続けてくれる。

「こんなことは神代から今までにも起きたことがないんだ。宇宙システムの変更に伴い、輪廻転生も無くなるんだよ。君の生まれ変わりも君で最後だ。」


 「君たちには僕の代わりに神の目となって、僕が確認したい世界を偵察してほしいんだよ。

君とルル、二つの力と互いに異なる波長を使って安定した安全な異界渡りを頼みたかったんだ。」



 神様は続けて話してくれる。

 「あの村の座標付近に渡ったとき、樹くんのそばにルルがいないように見えたかもしれないけど、異界で存在することにちょっと失敗したルルが君の霊体と同化しちゃったんだ。異界で瞬間移動とかしただろ?あれは君だけではできない。ルルが一緒になって飛んで移動していたんだよ。」


 「そして君たちの異界渡りは霊力がそこまで強くないからこそ異界に座標を合わせ続けるのが難しく、短時間しかできない。だから少しずつ正しい座標からずれていくことが多いんだ。


君が現世に帰る前の最後辺りに体験した不安定感は座標のずれによるものなんだ。

 羅針盤を使っても長い時間はいられないし、自分の生きる世界以外での長居は無用だよ。なにより異界渡りは通常危険だからね。自分が存在し得ない世界に特別な形で存在するようなものだからね。」



 一通り俺からの質問に答え終わると、神様はしょんぼりした表情になった。


 「君はルルに飼い主だと認めてもらわなければならない。魂の絆を深めることでお互いの霊力を高めることもできる。

そうすれば行ける世界にも広がりが出るし、何よりピンチのときにお互い助け合うこともできる。

異界渡りの合間にルルと仲良くなる時間をちゃんと作ろう」


 「なんか…俺の責任重くないっすか…?」


自分のミッションの重圧に苦笑いすると、神様が


「大丈夫!僕らは君が眠って肉体から魂が抜け出ている間しか君に干渉できないから、()()()()()()()()()現実の生活にはまったく影響を与えないよ!安心して♪」

と茶目っ気たっぷりに笑った。


 いやそう言われても寝てる間旅をして動き続けるってことになるから起きた後寝た気がしなくなりそうなんだけど…ごにょごにょ…。


 モヤモヤを抱えたまま神様の話を聞いていると、神様はパンと手を叩いて


「よし、今日は君が目を覚ますまで時間があるから、ルルと触れ合おう!君はルルに乗って飛んでいかないといけないからね、前回はルルに引っ張られる形だったから、それじゃちょっと危険かな。ルルに乗る方がより安全なんだ。よーしルルに乗る練習をしよう!」


と、思い付きで今日のミッションを決めたのだった。


 さっき俺に起こされたルルはまだ眠いのかベッドで寝ていた。

俺がおそるおそる彼女に近づくと、ルルは寝床からゆっくり身体を起こし、


「異界渡りの特訓しろって言うんでしょ、おじ」

と気だるそうに言った。

おじとはあの神様のことである。


彼女は頭頂部にぴょこっと生えた冠羽のあたりをポリポリ掻きながら、バサッと大きな羽を広げて自分の背中を俺に向けて「乗ってみな」と言った。



 すごい、こんなに高く、心地よい空の旅は生まれて初めてだ。

 神様の温室がある世界は筆舌に尽くしがたいほど美しい場所で、青い空がどこまでも広がり緑の木々と色とりどりの花が風に揺れている。

 大気は山頂のように澄み切っており、誰が見てもこの場所こそが桃源郷だと思うだろう。


 ルルは背中に俺を乗せ、腕の代わりに生えている大きな翼で悠然と温室の上空を旋回する。風を切って、俺の頬に強いけれど涼しくて心地よい風が当たる。なんて素晴らしい時間なんだ、好きな人の背に乗ってこんなに素敵な世界を見渡すことができるなんて。


 楽しい時間こそすぐに過ぎ去ってしまうもので、ルルは数回空を回ると、温室の中に降り立った。着地も無駄な動きがなく美しい。彼女から発せられる致死量の美を摂取してぽーっと見惚れていると、ルルが不機嫌そうに早く降りてと俺を急かした。たしかに。俺はいつまで女の子の背中に乗ってるんだ。これじゃ女の子を踏んでるみたいじゃないか。


 ごめんと謝りルルの背から降りるや否や俺は彼女に

「ずっと乗ってたいくらいめちゃくちゃ乗り心地よかったし、やっぱ飛ぶのが上手い、マジで景色も最高すぎた、乗せてくれてマジでありがとう!」


と目をキラキラさせて空の旅の感想をオタク特有の早口でルルに伝えた。この想いを伝えたくてしょうがなかったのだ。


 するとルルは面食らった顔をして宝石のような目をしばらくぱちくりさせた。何に驚いたのだろう?


 少しの間のあと、ルルはうつむいて「そんなこと初めて言われた…」と呟いた。


しょんぼり大人しい(?)ルルも可愛いし、なにより彼女の初めてゲット!と俺は激キモ思考を展開させ心の中でガッツポーズをした。仲良くなれるきっかけは掴めそうじゃないか?


 その日の夢はこれで終わり、俺はまた朝を迎えた。昨晩から雨が降っているのでスズメの声は聞こえなかった。

 そしてまた夜が来て俺は眠りについた。


お読みいただきありがとうございました。

第三話では地獄界に行きます。私が行った地獄界はグロテスクではありませんので大丈夫です。

二度と行きたくはありませんが。

地獄界でこそ大事な霊的な学びがありますので、興味のある方には是非読んでいただきたいです。


つたない文章ではありますが、この先も続けていきたいと思います。

よろしくお願いします。


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