第八話:安全な防具メンテナンス
「……本日は野外への出撃を取りやめ、終日『安全衛生および保護具の特別一斉点検』を実施します。全員、私物の武器および防具をこの机の上に並べなさい」
どんよりとした雨が窓を叩く朝。ギルドの片隅に借りた新居のリビングで、セインが白手袋(をはめているかのような厳粛な雰囲気)で机を叩いた。
「ええーっ! 雨だからって部屋に缶詰めで点検!? せっかく『借金回避の双牙』をピカピカに磨いて、いつでも一攫千金の手入れはバッチリなのに!」
カノンが机に突っ伏して不満の声を上げる。
「カノン、その『手入れはバッチリ』という自己過信こそが、戦場での重大災害を招くのです。保護具や武器の隠れた金属疲労や摩耗は、目視だけでは見抜けません。というわけで、ケットル、準備を」
「おうよ! ウチの職人技と、特製『非破壊検査用・魔力浸透探傷剤』の出番だね!」
ケットルが巨大な背負い袋から、怪しい赤と白の液体が入った魔法ボトルのスプレーを取り出した。
「これを作業箇所に吹き付けるとね、金属の表面からは見えない『目に見えない微細なヒビ』に魔力が染み込んで、真っ赤に光るんだよ。ウチらの命を預ける武具だからね、徹底的に調べるよ!」
「素晴らしい、完璧な保全計画です。ミル、あなたには衣服や革防具の『耐熱・耐酸性能の魔力測定』を命じます。あなたの無駄に強力な魔力を、今回は測定器の代わりに使いなさい」
「はーい! みんなの服がどのくらい頑丈か、私の魔力でつんつんして調べてあげるね!」
ミルが『もう壊さない杖』の先端を優しく光らせ、カノンの革鎧にそっと近づける。
「そしてクレア。あなたの『切ない剣』と大盾が、我がパーティの防衛の要です。特に念入りに検査を行います。よろしいですね?」
「は、はいっ! 私の剣、名前の通りいつもどこか切ないオーラを放っているので、ヒビが入ってないか心配でした……。セインさん、よろしくお願いします!」
クレアは神妙な面持ちで、愛用の『切ない剣』をそっと机の上の白い布に横たえた。
「――それでは、点検作業(安全パトロール)を開始します」
作業は厳格を極めた。
ケットルがカノンの双牙に赤いスプレーを吹き付け、白い液体で拭き取ると、刃の根元に一本の細い赤い線が浮かび上がった。
「げぇっ!? 私の双牙の根元が赤くなってる!?」
カノンが飛び上がった。
「……構造解析。やはり。前回のムカデ戦の際、無理に硬い甲殻をこじ開けようとした時の負荷で、金属疲労を起こしています。カノン、あなたが私の指示を無視して無理な負荷をかけた証拠です。このまま実戦で使っていれば、次の戦闘で確実に根元から折れ、あなたの指が飛び散るか、あるいは無防備になって死亡していましたよ」
「ひ、ひえぇぇ……! 折れたら借金が返せないどころか、私がバラバラになるところだったじゃん……!」
カノンは真っ青になり、セインの『静かになさいの槌』が自分の頭に落ちてくる前に、あわてて両手を合わせて謝った。
「ウチがすぐに応急溶接と焼き入れをやり直してあげるから、今回は猛省するんだよ」
ケットルが呆れ顔で双牙を回収する。
一方、ミルに衣服の魔力耐性を測定されていたクレアの革鎧は、胸元の金具の糸がほつれているのが見つかった。
「クレア、このほつれを放置すると、戦闘中の激しい運動によって前衛の装甲が完全に脱落し、無防備な胸部を魔物に晒すことになります」
「うう、す、すみません……! お裁縫、苦手で……。想像しただけで切なすぎて涙が出てきます……」
「泣いている暇があるなら針を持ちなさい。これも重要な安全対策です。……さて、ミルの杖は……」
セインがミルの方を向くと、ミルは『もう壊さない杖』をぎゅっと抱きしめて「この子は大丈夫だよ! まだ一度も壊してないもん!」と主張した。
「……念のため、魔力の脈動を確認します。構造解析。……うん、内部の魔力伝導経路に異常な負荷の蓄積はありません。合格です。ただし、実戦時の過剰出力は今後も厳禁ですからね」
「はーい! ほめられたー!」
こうして、丸一日をかけた一斉点検によって、私たちは合計4件の「重大な武具の初期欠陥」を発見し、ケットルとセインの手によってすべて修繕・補強を完了させた。
夕方、雨が上がった頃。
リビングの机には、ピカピカに整備され、完全に初期性能を取り戻した5人分の武具が整然と並んでいた。
「ふぅ……。これで明日の出撃も、武具の破損による労働災害リスクは最小限に抑えられましたね」
セインは白手袋を外し、手帳を開いて本日のメンテナンス活動の総括を記録し始めた。
◆ 労働安全管理報告(ヒヤリハット事例)
発生日時: 定期安全衛生日(拠点リビングにて)
件名: 一斉武具点検における不具合の早期発見および実戦破損の未然防止
現象(ヒヤリとした状況):
非破壊検査を実施したところ、カノンの『借金回避の双牙』の根元に深刻な金属疲労を発見。また、前衛クレアの防具金具に重大な固定不良(糸のほつれ)を確認。これらを放置して次戦に突入していた場合、戦闘中に武器破断による破片飛散、および装甲脱落による致命的な被災(死亡災害)に直結していた危険性が極めて高かった。
防げた理由(要因解析):
1. 悪天候を利用した『出撃中止・一斉点検日』の迅速な設定。
2. ケットル特製の探傷剤による、目視困難な内部亀裂の可視化成功。
3. セインの『構造解析』による、負荷蓄積状況の正確な診断。
4. 異常発見後、その場で即座に職人による修繕(溶接・補強)を行うラインが確立されていたこと。
今後の対策:
実戦での無理な負荷(硬質の敵への強引な攻撃等)は武具の寿命を著しく縮める。今後は、大きな戦闘任務の終了後、24時間以内に主要武具の「簡易安全点検」を個々人に義務付ける。また、カノンには武器の正しい運用方法についての安全教育(再教育)を実施する。
「……これで、次への安全動線がつながりました」
手帳を閉じたセインが、ふっと小さく息を吐く。
「セインちゃん、ありがと。私、お宝のことばっかり考えて、自分の命を守る相棒の悲鳴に気づいてあげられてなかったよ……。これからは、ちゃんと毎日労ってあげるね」
カノンが、ケットルによって見事に修復された双牙を愛おしそうに腰に収めながら、少し照れくさそうに笑った。
「気づけばよろしい。道具を大事にできない者に、自分の命を管理する資格はありません」
セインは厳しい言葉を口にしながらも、その表情は心なしか柔らかかった。
「私の『切ない剣』も、なんだか磨いてもらって、ちょっとだけ嬉しそうに輝いて見えます! セインさん、明日も私、この剣でみんなをしっかり守ります!」
クレアが盾を誇らしげに掲げ、胸を張る。その胸元の金具は、セインが自ら美しく、頑丈に縫い直したものだった。
最弱パーティの、安全第一なメンテナンス。
彼女たちの装備と心の防壁は、今日も少しずつ、しかし確実に、どんな魔物の爪をも弾く強さへと磨き上げられていく。
カノン「みんなー! ここまで読んでくれてありがとう! 楽しんでもらえた?」
クレア「あの……もしよろしければ、私たちの旅をこれからも見守っていただけると嬉しいです……!」
セイン「画面下部にある**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**に染めて応援してくださると、作者の執筆モチベーションが跳ね上がります。……もちろん、私の精神安定にも繋がります」
ケットル「みんなのポチッとが、ウチらの大きな支えになるからね! よろしくおくれ!」
ミル「次のお話も、絶対見にきてねー!」
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