ジャ○アンって社長なってたの、ま?
通話は意外と長かったらしく切ってからは1分ほどで事務所についた。
渡理は重い足取りで歪んだ外階段を上り、5段目に差し掛かったところで階段の板が割れ右足が埋まった。
「ったく! こっちがちっとは反省しようかとか考えてる時に追い打ちかけんなよ!」
理不尽にも無機物にキレ散らかした渡理は足を引き抜き、二階の入り口を開ける。
すると事務所には先客がいた。
事務所の所々つぎはぎのある椅子とは不釣り合いに高そうなスーツで身を包んだ20歳程の若い男が客用のソファに座っている。髪もワックスで整えているのか、しっかりとボリュームがあり威圧感を放っている。
「全く、こんな時に空き巣かよ、俺は今虫の居所が悪りぃんだっつの、通報せんから帰れ帰れ。」
その男は後ろの入り口に渡理がいることに気づくと急いで立ち上がりこちらを振り向いた。
座っている時でさえ高かった座高は立つと天井近くまで届くほどの身長へと変貌する。
大きすぎる身長や服装など、この部屋の雰囲気とは水と油のように1ミリも噛み合っていない。
「いや、すまない!! 空き巣ではなく、自分は客だっ。 OPENと書いてあったため人が来るのを待っていただけだ。 つまり君がここの便利屋の人か?」
渡理は言われて初めて看板をしまい忘れていたことに気がついた。
「あー、そういやそうだったな。看板しまい忘れてたわ。すまん。あと俺がここの社長であってんぞ。」
「そうか! 実は君にやってもらいたいことがあったのだ! 早く依頼を受理してほしい。」
「ほ、ほーん……。」
男の発言に渡理は眉を引き攣らせ、大きいため息を一つ吐いた。
「はぁ……。 まずこんなとこにスーツで来たのが減点。 俺を見下ろしてるのが減点。 んでなにより謎に偉そうなのが赤点だ。 さっさと帰れ。」
「なんと、これはすまない。 礼節を欠いてしまったようだ。 なにせこのようなところに来たのは今日が初めてなのでな。」
当然こんな裏路地の廃墟、大抵の人が近づきすらしないだろう。
本人からすれば何気ないのかもしれないが、そのナチュラルな煽りが渡理のストレスを逆撫でした。
「やめだ。 よし、表出ろ。 帰れん身体にしてやらぁ。」
「お、落ち着きたまえ! いや、本当に悪かった。 非礼を詫びよう。」
「はぁ?? なにが落ち着きたまえだコラッ!!」
未だ偉そうな態度が渡理の怒りに油を注ぎ今にも飛びかかりそうだ。
「す、すまなかった! いや、すみません!」
渡理は舌打ちをすると接客対応の椅子に座る。
「んで、客なら何の依頼だ?」
渡理がそう話をふると男はおもむろに立ち上がり内ポケットから名刺を取り出す。
「自分は自動車メーカーの社長をしている。そのため少々偉そうなのは許してほしい。立場が立場なのだ。」
同じ社長である渡理が偉そうであるという皮肉が内在していたわけだが、渡理は朱理との会話を思い出していたため両者気づかなかった。
渡理の中で朱理の言っていた新規顧客というのが目の前の男と繋がり依頼の内容も大まかに予想がついた。
渡理は名刺を受け取ると一通り目を通す。
名刺には、たまに見聞きする近所の中小企業の社名と代表取締役 剛田隆と記載されている。
「ふーん、剛田商店もデカくなったんだな。まさかジャ○アンが社長とはな。」
渡理の言葉で事務所に一瞬の沈黙が訪れた。
「……おう、そうだな。のび○。」
「誰がのび○だコラァッ!」
間髪入れずに渡理は男をビンタしていた。
「親父くらいにしか殴られたことないのにっ!! あと剛田商店ではない、剛田カンパニーだ!!」
案外ノリが良く、渡理の中でのジャ○アンもどきこと剛田隆の好感度が上昇した。




