回収任務(2)
ベネズエラ○○○州○○○半島。
富裕層のいる都市部は比較的健康そうな人が多くいたが、貧困層のいるこの地区は痩せてガリガリの人々ばかり。
そしてこのような地域ではギャングなどの武装勢力が活発で度々重大な犯罪が発生する。
今もそんな犯罪が起きていた。
相対する勢力同士の抗争。火薬の匂い、銃弾、怒号がそこら中で飛び交う地獄絵図。
頭領が新しく変わった方の勢力が拮抗状態だった勢力に争いを仕掛けたらしい。
大勢の人が死ぬような事態が、度々も起こってしまう。そんなイカれた場所だった。
POLEが海の中から全身びしょ濡れの姿で現れる。
全身にへばりついていた返り血を洗い流していたようだ。
そこへ遠くから銃を持った3人組がだべりながら近づいて来た。
3人組は意味不明なずぶ濡れの人物を発見すると銃を構え、スペイン語で恐らく警告を叫び出す。
しかし、だんだん近づいてPOLEの顔が視認できた途端銃を下ろして相談を始め出した。
POLEは今がベストタイミングだと思い内ポケットから先ほどの写真を取り出すが、血が滲んでいる上に所々濡れてしまっていた。
3人はそんな写真でもまじまじと見つめ、内輪でうなづき合うと着いてこいというジェスチャーをした。
POLEがそれに従うと、工場のような建物へと案内された。
中に入ると、奥の廃棄物が折り重なって山になっている。
その頂上に、奴がいた。
男勝りですら軽い、野獣のように威嚇的な目。ストリートファイターのなにかのシリーズに登場したと言われても疑えない巨体。
そんな女が待っていたかのように鎮座していた。
「よお、POLE。 久しぶりだなぁ。」
「ああ、久しぶりだな。」
FORCEは腰掛けていた台から立ち上がると山からゆっくりと降りてPOLEに近づく。
POLEをこの場所まで連れてきた3人組とスペイン語で軽く言葉を交わし下がらせるとPOLEと少し距離をとった位置で足を止めた。
「FORCEには研究所に一緒に帰還してもらう。」
「帰還だと?笑わせてくれるぜ。アタシは二度と日本には帰らねぇよ。 ていうかPOLE、今だにあっち側で犬やってんのか?」
「いいや、自分が犬になったことはない。」
さも当然のように首を傾げるPOLEを見て、FORCEは不愉快そうに唾を吐き捨てる。
「お前はすっかり変わっちまったな。前は良い男だと思ってたのによ。今じゃこんなつまんねぇ男になっちまって。」
「そうか…………。」
「お前や他の奴らが昔のまんまだったらまだマシだったかもな。ま、仮にそうだとしても戻る気はねぇけどな。」
「なぁ――――」
POLEはいつもと同じ無表情、しかし声に微かに怒気を孕んでいる。初めてその濁った瞳の奥に殺意が映って見えた。
「そろそろ昔話は終わったか?」
POLEとは対照的にFORCEは嗜虐的な笑みを浮かべる。
「嫌だねっ! お前が嫌がることはとことんでもやらせてもらう!」
POLEが耐えかねてFORCEに踏み込むその瞬間――
「おい!!!」
FORCEは手を前に出して待ったをかけた。
続いてFORCEが指をパチンと鳴らすと、入り口から傭兵の見た目をした集団が先ほどの研究員達に銃口を向けたまま現れる。
研究員自体はなんの武力も精神性も持たないただの日本人。
それを見越して現地の傭兵を雇ってPOLEの観察をしていたが、それすらFORCEは予測していた。
顔を蒼白させた研究員達は小さく手を上げ、生まれたての子鹿の様に立つことに必死になっている。
「こういうのが苦手なのは今もそうだよなぁ? POLE。」
FORCEはより一層口角を上げた下卑た笑みを浮かべる。
「お互いコイツらには散々苦汁を飲まされたんだ。いっそのことお前も自由になろうぜ。」
口や性格こそ悪いが、この状況こそが彼女なりの囚われの身のPOLEを助ける算段だった。
POLEは研究員に視線を飛ばす。
その先にはいつも偉そうに自分を虐げる研究員の縋るような目が6つ映り込む。
研究員はPOLEに選択が委ねられ少しの安心をした。
まさか裏切るわけないと鷹を括っているから。しかし考えてしまう。
もし自分であればどちらを取るか。
POLEが再度FORCEに向き直るとFORCEはPOLEに手を差し出す。
「さぁ、選べよ。 POLE。」
わずかな逡巡の後、POLEはゆっくりと歩を進める。
次第に研究員達の表情が絶望に染まり出す。
FORCEは耐えきれず腹を抱えて笑い出した。
「お前らが何もかもを賭けて作り上げた傑作からも手を返されちゃ世話ねぇなぁ!」
FORCEの煽りに研究員の1人、1番若そうな男が腕を振り下ろす。
これまでの恐怖や不安がPOLEへの怒りへと変わり、我を忘れてしまった。
「我々がどれだけPOLE、貴様のために人生を捧げてきたと思っている!? こんな手のひら返し許されるわけ――ぁ゙ッ!!」
1発の空気を貫く銃声。
話の途中で放たれた鉛玉が男の腹部を貫いた。
さらに痛みで倒れた先では何発もの銃弾が浴びせられ、赤黒い血液が水溜まりのように広がっていく。
建物に広がる火薬と血の匂いがとても冷たく感じられた。
目の前で同僚が残酷な方法で殺害され、挙句足がその血に浸かっている。
そんな状況に平和ボケした日本人が耐えられるはずもなく、喉奥から酸っぱいものが込み上げて来た女の研究員は腰が抜けてしまった。
しんとした建物の中でFORCEの笑う声だけがこだまする。
「良いねえ! やっと生を実感出来た気分だ!!」
日本語で交わされる会話はわからないはずだがギャングの人間もFORCEに同調して笑い声を上げる。
そしてPOLEがFORCEの差し出された手を取った。




