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社長のせいなんですからね

三人は闘龍団の事務所にて手早く乗客を降ろすと、すぐにその場も後にし帰路に就いた。

剛田とその父親はまだ聞き出すことや事態の説明、今後の相談などがあるため朱理がそのまま連れて帰った。

渡理は移動中に身体能力を上昇させた反動で動けなくなってしまい、見かねた朱理に珍しく便利屋の事務所前まで送ってもらった。


「檸檬の奴は今頃朱理の家ですやすや寝てんだろうな……。 ずりぃ……。」


死に体の癖に文句を溢しながらもなんとか壁伝いに家に向かって歩いていく。

檸檬は朱理の家で住み込みでメイドのバイトをしているらしく、今頃いつもの薄っぺらい布団ではなく一般的な布団に毛布で寝れているのだろう。


「明日なんか用事あったっけ……? うわぁ、そいや滞納してる家賃共、結局払ってねぇじゃん……。」


渡理は絶望しながらも家の前に到着する。しかしなぜか部屋の電気がついている。

消し忘れた覚えは無いが考える余力のない渡理は適当に消し忘れたのだと決めつけ、階段を這い上がる。

やっとの思いで二階に到達すると戸を開くが、そこには見知った人がいた。


「社長、遅いですよー。」


「……なんで檸檬がいるんだよ。」


机の上には冷えてそうだがモヤシ炒めにご飯と卵が用意されている。

渡理はせっかく普通の暮らしができる機会の上、この時間帯に檸檬が家にいるのが全く理解できず唖然としてしまう。


「それがですね。朱理さんがいきなり飛び起きたタイミングで私も起きたのでせっかくだから社長のこと叩き起こして自慢話でもしてやろうと思ったんですよ。」


動機も意味も完全に理解の範疇を逸脱しており、渡理は考えることを放棄した。


「おう、そか。」


「寝てるのかと思ったら家いないし、たまに夜いない時と同じで今日も外出歩いてるんだと思って、ご飯用意しといたんですからね。 感謝してください。」


常日頃は朱理から連絡される裏稼業の際は檸檬は渡理に何もしてあげていないが、今日はたまたまそういう気分だったのだろう。

急に予想外に優しくされたことで渡理の涙腺が刺激されてしまい、目頭を熱くする。

この歳でもう涙腺が緩くなってしまうのかと、内心地味に嘆く渡理。


「…………今まで給料払わなくてごめんな。 …………これ、お前のバイト代の取り分な。」


そう言い、渡理は持っていた10万の入っている封筒を檸檬にそのまま手渡す。

受け取った封筒の中身を見た檸檬は目を輝かせる。


「こ、こんなにもらってもいいんですかぁっ!?」


「……ああ。 ……今まで、……全然渡せてなかったしな。」


「渡”せ”てが引っかかるけど、やったー!! たまには社長にすら優しくするものですねっ!!」


檸檬はごく稀にしかもらえないはずの給料がかなりの高額で舞い上がり始める。しかし気になる点もあった。


「でもこれって昨日の依頼料まんまじゃないですか? 生活費はどうするんですか?」


檸檬に気づかれたことに渡理は少し肩を跳ねさせるが、熟練の言い訳を即座に連ねる。


「……そ、そこは俺のへそくりで何とかするわ。 ……檸檬への日頃の感謝代も含めてるしなっ。」


なんと、このカスは先ほどの依頼でもらう予定の大金を独り占めするつもりであった……。


「なんか胡散臭いですけど、まあいっか。」


檸檬がもらったお金で何をしようかと耽り出したとき、渡理のポケットの携帯が二度震える。

渡理が確認するとどうやら朱理からメールが入っていたらしい。


「は…………??」


朱理のメールにはこう書かれていた。


『今回壊した港の修理費と口止め料で今回の依頼であんたがもらうはずだった依頼料全額徴収するから。今日の渡理の貢献に免じてこれでも譲歩してあげてるんだから感謝しなさいね。』


瞬間、渡理は膝から崩れ落ち愕然とする。


「は……。 俺の……、俺の……………………。」


携帯を見たかと思えば、いきなり玄関で寝始めるという奇行に檸檬は首を傾げる。


「何してるんですかぁ? 社長。」


もう立ち上がる気力すら消え失せた渡理は首だけで満面の笑みの檸檬の方に顔を向ける。

その笑顔の眩しさに渡理の心は余計に陰りを深めていく。


「…………あの。 さっきやらかしたポカの分で、へそくり朱理に取られちゃった…………。 あは…………。 あはは…………。」


「全くもう………。 社長、何してるんですか……。 で、何やったんですか?」


渡理は気まずさに床に震える視線を落としながら説明を始めた。


「…………いやな、今まで俺が夜いなくなるのって依頼やってたんだけどさ。 今日は色々と物壊しちゃってな…………。 1000万もらうはずだったのに…………。 パァ。」


渡理の発言で、その額を独り占めしようとしていたことも、朱理を叩き起こしたのが渡理であることも、全てに察しがついた檸檬。話が終わった頃には、顔から一切の表情が消え、光を伴わない視線は汚物同然の物を見下ろしていた。

そして狂気に満ち満ちた檸檬は這いつくばる渡理の頭に足をかけると、短く声を発する。


「は…………。 なにしてんの?」


その後、渡理は全治数か月の怪我を負い、家賃や光熱費は翌日檸檬が払いに行った。

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