第53話【魅惑の演奏者】(後編)
怪盗の予告日の朝、 イージス達は早々に準備を済ませ王城へ向かった。
怪盗Fはいつから動くか分からないしな……予告時刻の前に盗むという手だって考えられるからな……
王城に着くとディランテが迎えた。
「来たか、 イージス殿」
「あぁ、 いよいよだな……そういえばフメラは? 」
イージスは王城にまだフメラが来ていないのに気付いた。
するとディランテは呆れた様子で首を横に振った。
……遅刻か。
数十分後、 イージス達が応接室で待っていると慌てた様子でフメラが部屋に入ってきた。
「い、 今来たのです……」
「随分と遅れたな……」
「まぁ良い、 とにかく話を進めよう」
イージス達は早速作戦会議を始めた。
「作戦はこう、 イージスさん達が鍵を守り、 私は金庫付近で待機、 どちらかの所に怪盗Fが現れたところでとっ捕まえる! 」
かなり単純な作戦だが相手の情報が不明な今ではこれが最善か……怪盗Fの行動で一番考えられるのは鍵を取らずに金庫を開けに行く……だな……だとすれば一応ミーナとヒューゴもフメラの所に行かせるか。
「それじゃあ作戦はそれで……ミーナとヒューゴはフメラと一緒にいてくれ」
『はい! 』
そしてイージス達はそれぞれの配置に付いた。
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待機すること数時間……
怪盗Fの予告時刻となった。
イージスとザヴァラムは応接室の部屋で待機していた。
「時間だ、 警戒を怠るな……」
「承知致しました」
すると突然部屋の明かりが消え、 真っ暗になった。
……マジで予告通りだな……流石怪盗だな……だが
(スキル、 超探知が発動します)
イージスは周りを探知し、 怪盗Fを探した。
しかし……
……っ! ? 反応が無い! どうなってる!
探知には反応が無かったのだ。
するとイージス達の前に人影が天井から降りてきた。
「流石はダイヤ等級の冒険者、 イージス様……カモフラージュするのもやっとでした」
暗闇の中で人影がそう言うと自身の周りに青白い光の玉をいくつか発生させた。
明かりが無くても姿は見えてはいたが……
「お前が……」
「お初にお目にかかります、 私は怪盗Fと申します。 予告通り、 インガルストーンを頂きに参上しました」
その姿はまさしく怪盗、 白いタキシードの上に夜空のような模様のマントを身に纏い、 顔には目元を隠すように黒い仮面を着けており、 頭には白いシルクハットを被っていた。
あれ、 フィナーレって読むんだ……てっきりエフかと……ってそうじゃなくて!
「ラム、 行くぞ! 」
「はい! 」
イージス達は真っ先に攻撃を仕掛けた。
ザヴァラムは両手の大剣を振り回した。
しかしFはそれをひらりとかわす。
「ぬぅ、 こいつ……! 」
「おっと、 危ないですね……申し訳ありませんがここで足止めされる訳にはいきません」
そう言うとFは指を鳴らした。
するとイージス達の周りにキューブ状の結界が張られ、 イージス達は閉じ込められてしまった。
この結界は……壊すのには手間がかかりそうだ……
「くそっ! 」
「こんな結界、 力ずくで! 」
ザヴァラムが結界を攻撃しようと剣を振り下ろした瞬間、 辺りから旋律が流れ出した。
それを聞いたザヴァラムは動きが止まり、 倒れてしまった。
「なっ、 ラム! 」
「ご安心を、 少し眠らせただけです」
(スキル、 催眠無効が発動します)
俺には耐性があるから大丈夫なのか……でもラムが眠ってしまった……
「それでは私は宝物庫に行かせて頂きます」
「鍵はどうするんだ? 」
イージスがそう言うとFは鍵を見せた。
「いつの間に! 」
「フフフ……怪盗を甘く見てはいけませんよ? では……」
そしてFは姿を消してしまった。
鍵を盗られちまった……ミーナとヒューゴで止められるといいんだが……最悪奥の手を使うしかない……か……
「とにかく結界を何とかしないと……! 」
…………
一方、 フメラ達は……
宝物庫前で待機していた。
「予告時刻はとっくに過ぎてるのに来ない……これはイージスさん達の所に向かいましたね……」
「大丈夫でしょうか……」
「イージスさんとザヴァラムさんなら楽勝だろ! 」
「いや、 怪盗Fはそんなに甘くはないですよ……何でもこの国の兵士達全員の追跡でも逃れるくらいの盗みのスペシャリストですからね……」
フメラ達がそんな話をしていると……
「おや、 皆さんお揃いで……それにフメラさんまで」
Fがフメラ達の前に現れた。
「フメラさんは除き、 お二方はお初にお目にかかります。 私は怪盗Fと申します」
「あれフィナーレって読むんですね……」
「俺も知らなかった……」
「私も初めて知りました……」
フメラ達もイージスと同じ反応した。
「それよりイージスさん達は! ? 」
「二人とも無傷ですよ、 鍵を頂いただけなので……」
「やはりイージスさんでも止められませんか……」
するとFは激しい閃光を放つ玉を出し、 フメラ達の目を眩ませた。
その隙に鍵を開けようとFは宝物庫の扉に近付いた。
次の瞬間……
「させません! 」
Fの足元からいくつもの小爆発が起きた。
ミーナが仕掛けた罠の魔法だ。
Fが体制を崩された隙にすかさずヒューゴが攻撃を仕掛ける。
「うおらぁぁぁ! 」
しかしFは攻撃をひらりとかわし、 イージス達にも使った結界を出した。
「! 皆さん気を付けて、 強力な催眠魔法です! 」
ミーナが注意を促すも空しく、 フメラ達は眠ってしまった。
「おや、 貴方にも効果が無いようですね」
「太陽精霊様の加護があるので」
「なるほど、 スキル無関係の呪術系魔法の無効化ですか……中々お強い、 しかし貴方だけではこの結界を壊すのは不可能に等しいのでは? 」
「くっ……」
ミーナも動きを封じられ、 宝物庫を守る者はいなくなった。
そしてFは宝物庫の鍵を開けた。
しかし……
「……なっ! ? 」
そこにはインガルストーンは無かったのだ。
Fが慌てていると背後から声を掛けられた。
「探し物はこれですか? 」
Fが振り向くとそこにいたのはロフィヌスだった。
そう、 イージスが前もって呼んでいた人物とはロフィヌスだったのだ。
「ロフィヌスさん! 」
「いい防衛でした、 あとはお任せを……」
そう言うとロフィヌスはFの前に立った。
「全く気が付きませんでした、 一足先に宝を盗られるなんて……」
「そ、 そうですか? ……えへへ」
「ですが私は怪盗、 宝を諦めるという選択肢はありません。 どなたか存じませんが奪い取らせて頂きます」
Fがそう言った瞬間、 ロフィヌスは目の色を変え、 高速で動き始めた。
「なるほど、 どうりで見えなかった訳です……! 」
Fもロフィヌスの動きを追いかける。
ロフィヌスは移動しながら様々な罠を仕掛け、 Fを追い詰めていく。
Fは罠を回避するのに手いっぱいでインガルストーンを奪えないでいる。
「くっ……! その動き、 貴女は何者なんですか? 」
「何者でもありませんよ……ただ至高なる聖剣王 イージス様に仕える守護者というだけです」
「なっ、 イージス様の! ? 」
驚いた拍子にFは遂に罠に引っかかり、 縄で釣り上げられ、 捕らえられた。
そのタイミングでイージスとザヴァラムが宝物庫の部屋に到着した。
「おっ、 どうやら出る幕は無かったみたいだな」
「イージスさん、 ザヴァラムさん! 」
「どうやって……! 」
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数分前……
「とにかく結界を何とかしないと……! 」
Fの結界に閉じ込められたイージスは剣で結界を斬り付けた。
……斬れるには斬れるが再生能力が高すぎる……ジースさん何とかできないか?
(はい、 結界の魔力回路を分析し、 再生能力を解除します……完了しました)
はやっ!
「まぁいい、 そらもういっちょ! 」
そしてイージスは剣で結界を破壊し、 ザヴァラムを起こしてFの後を追った。
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「っという訳」
「なんと……そんな瞬時に……流石です」
するとザヴァラムがFの前に立ち……
「フンっ! 」
「ぐはぁ! 」
Fの腹にパンチを食らわせ、 気絶させた。
「さっきの借りだ……」
「一先ず作戦は成功だな……ミーナもよく頑張ってくれた」
「はい! 」
そしてイージスはフメラとヒューゴを起こし、 一同は別室へ移動した。
「そ、 それではイージス様……私はこれで失礼します! 」
「おう、 ありがとうな、 ロフィヌス」
「そ、 そんな勿体なきお言葉! ///」
ロフィヌスはインガルストーンを元の場所に戻し、 メゾロクスへ帰還した。
…………
別室に移動した一同はFを起こした。
「う……ん……」
「お、 気が付いたか」
Fの体にはイージスが出した黒い鎖で完全高速されていた。
「抜け出そうなんて考えない方がいいぞ、 その鎖は絶対に離れないからな」
「一度捕まれば私の敗北、 今更逃げようなんて思いませんよ」
「さて、 まずはお前の正体を見せてもらおうか……! 」
そう言うとイージスはFの仮面を剥ぎ取った。
……まぁ大方予想は付いていたが……
「……フロンさん」
Fの正体はイージス達が初めて街に来た時に出会った音楽家の青年、 フロンだった。
「どうして……」
フメラが一番動揺している様子だった。
フメラが動揺してるがフロンとはどんな関係だったんだ……?
「……私は……彼女を取り戻したかった……あの夜……守ってもやれなかったから……」
……恋人みたいな関係だったのか? 恐らくインガルストーンを使ってへランデさんを生き返らせたかったんだろう……
「教えて……あの夜、 何があったのかを……」
覚悟を決め、 フメラが聞くとフロンは話し始めた……
雪の積もったあの日の夜の真実を……
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続く……




