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第77章 乗り物で性格変わるタイプ

 イリスの大ワシは飛ぶ。クロノのドラゴンも、それに並んでいる。この位置関係が、さっきからずっと続いている。




 どのくらいの時間、俺達は飛んできたのか?


 初めのうちは怖くて仕方なかったし、たぶん1秒経つのも待っているような感覚だったと思う。それを考慮すると、まだ1時間くらいだろうか。


 そして、少しずつわかってきた。息苦しかったり、体が震えるのは、必ずしも恐怖の感情が引き起こしているものではない、ということが。


 上空とは低酸素、そして低温の世界なのだ。




 環境は、人に大きな影響を与える。


 例えば、陽射しが強い季節には、人の肌はその強い刺激から身を守るため、表層に黒い膜を拵える。


 さらに例を挙げるなら、木を削るなどして粉塵を多く吸い込む職業の者は、それが体内に侵入するのを防ぐため、やたらと鼻毛が伸びてくるらしい。


 南国の人間は陽気で刹那的、北国の人間は悲観的で長期的視野を持つ、という研究を見たこともある。要は、食べる物が常にあるか否かで、人の性格すら変わるということだ。




 ……この空は、高い山の標高より、さらに上。地表から離れるほど、空気が薄くなり、空気中の酸素も少なくなっているはず。


 ということは、この劣悪な環境に慣れようとしている体は、吸気により入ってくる少ない酸素を効率的に利用するため、その機能を強化していくだろう。


 筋トレも同じ。人間は、「環境がもたらすストレスに適応する」ことで強くなっていく。


 この危機的状況もまた、俺が欲しかったもののひとつ、なのかも知れない。




「うおおおお!低酸素の環境で、成長ホルモンの分泌が促されているうううッッ!かも」

「マット、耳元でうるさい。大丈夫?酸欠でおかしくなってるのか?」


「あ、聞こえてたんすね。独り言なんで、お気になさらず」

「むう……元気ならいいけど」


「クロノ様!今、飛び始めてからどのくらい経過しました?」

「もう1時間半になる。イリスめ、やりおるわ!


……ひょっとすると、魔力は『足し算』になっているのかも知れんな」


 足し算?


「イリスの元々の魔力と、肉体の持ち主だったエルフの魔力、その両方を持っている。そういう意味ですか?」

「うん。しかし、まだ推測の域を出ておらんよ。


その力が尽きるまで、煽り続けてやらんと結論は出ないようじゃな!ふふふっ」


 うわ、笑ってる。こいつ乗り物でスピード出すと性格変わるタイプか。危ねえ神様だな。


 そういえば、人力車に乗った時も楽しそうだった。単純に乗り物好きなのかも。そうであってほしい。




「ちくしょう、何なんだい!?あんた……」イリスは明らかに疲れてきている。魔力の声も小さく、途切れかけていた。


 マッドはイリスを抱きしめるように座り、慈しむような視線を送っている。良いカップルだな。


「ほれ、スピードが落ちておるぞ?まだ半分くらいじゃぞ?こんな所で泣き言など、大魔法使いを名乗って恥ずかしくないのか?」

「ぐぅっ……この、小娘」


 クロノの性格の悪さが前面に出ている。いや、どちらかと言えばライバル意識のほうか。イリスに対しても、とにかく嫉妬心が強い。一応神様なのに。


 ……むしろ冷静に見て、恥ずかしいのはクロノのほうじゃないかという気もするぞ。




「んっ……はぁ、はぁ……ま、マッド、ごめんなさい。もう、ダメ」


 イリスの大ワシが、その姿を乱す。蝋燭の火がゆらめくように。


「クロノ様!イリスの魔法が」

「わかっておるよ。1時間と50分、よくこの速度を保ってきた。感心じゃな」


「そろそろ許してあげましょうよ」

「いや、まだ飛んでおる。魔力は尽きておらん。


……我にあのような、汚い言葉を吐いたのじゃぞ。このばかは。簡単に許すわけないじゃん!」


 うーん。確かに、ションベンくさいガキとか小娘とか言っちゃってるからなイリスは。神様に対して、それはダメだったかも知れない。


 まあ見た目は両者とも美少女なんだけど。実際、お婆ちゃんと神様なんだよね。




「んはぁっ、んうっ……クロノ、あたしの……ま、負けだよ。認める。だから」

「ほう?それでは、誠意ある謝罪の言葉を寄越すがよいぞ」


 クロノはとにかく嬉しそうだ。意地の悪いにやにや顔。


 ……あの小屋で、クロノに初めて会った時のことを俺は思い出していた。まあ石を割ったのは俺だけど、あの時もけっこう理不尽だったと思う。ていうか、あれサボって寝てたんだよね?


「うぅ、ご、ごめ……」




 突然、イリスとマッドを乗せていた大ワシは散り、消滅した。


 落下するイリス、それを抱くマッド。


「クロノ様!」

「拾ってやろう。マット、二人を後ろに乗せる」


 ドラゴンは急旋回、落ちていく二人を、ものの数秒で掬い取るように乗せた。


「クロノ様、座席を」

「もう、それも創ったよ」


 俺は後ろを振り返る。ドラゴンの巨体に体を固定されたマッドと、その膝に座ったまま意識を失っているイリス。


 その透き通るように淡い色の髪を撫でながら、マッドは俺に片眼を閉じて合図した。とりあえず無事のようだ。俺も片手を挙げて返事した。




 「掴まれ!」突然、クロノの怒声が響く。ドラゴンは激しく蛇行。


 ゴォッ。


 何かが俺達のすぐそばを、突き上げるように通過した。


 おそらくは、巨大な矢。


「危ねえ。クロノ様、今のは!?」

「わからん。だが攻撃を受けたのは、紛うことなき事実じゃ」




 ……誰が?どこから、俺達を?

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